第120話
イセリアの言う通り待つ事、約十分。
何人かの男性達が、大きな木箱を幾つか持ってやっ来た。
運んでいる男性達の顔は、信康は何処かで見た覚えがあった。
「すいません。駅馬車組合の者ですが・・・御依頼の物をお持ち致しました。あっ! ノブヤスさんっ。御久し振りです」
「ああ、組合の奴等か。久し振りだな」
道理で見覚えがある顔だと、そう思った信康。
「ご苦労様。時間通りじゃないけど、まぁ、多少の時間の誤差は大目に見てあげるわ。妾は寛大だからね。お~ほっほほほほほほほほっ!」
イセリアは羽根扇子で煽ぎながら、高笑いをしだした。
小隊員達と組合員達は、少し顔を引き攣らせる。信康は何とも思わなかったが。
「そ、その。御依頼の品は何処に置けば?」
「誰も居ない其処に置けば良いでしょう?」
イセリアに言われた所に、組合員達は木箱を置いた。
「終りました。じゃあ、此処に自署サインをお願いしますね」
組合員が何かの紙を、イセリアに見せた。
「ああ、それは」
イセリアは信康を見た。
「小隊長さん。この紙に自署して貰えるかしら?」
「俺がか?」
「この小隊の小隊長なんだから、貴方が自署するのは当然でしょう?」
「若干、腑に落ちぬが・・・まぁ良い」
信康は組合員から紙を貰い、名前を書いた。
「ありがとうございます。しめて大銀貨三枚になります」
「ふむ、大銀貨三枚か」
「お願いします」
組合員が恐縮しながらそう言うので、信康は紙を見た。
それは請求書であった。
「ふっ。対して前の話でも無いと言うのに、懐かしく感じるな」
信康は配達員として働いていた僅かな時期を思い出して、思わず楽しそうに笑った。それから信康は、イセリアを見た。
「お前が開発した代物なのだから、きっとこれは安い方なのだろうな」
「勿論よ。良く分かっているじゃない。妾が開発した物を見れるのだから、安い金額よ」
信康が思っても居ない事を口にすると、イセリアは肯定してその豊満な胸を張った。
その際、大きな胸が揺れて信康を除いた男性の小隊員達は、その揺れに目を奪われていた。鈴猫の含めて女性の小隊員達は、男性隊員達を氷の如く冷たい目で見る。信康はそうなると分かっていたので、イセリアの胸から視線を逸らしていた。
「・・・・・・ごほん。まぁ、良いだろう。これも必要経費だ」
信康は財布を出して、大銀貨三枚を組合員に渡す。
「毎度っ!」
そう言って組合員達は信康に一礼してから、第四訓練場から出て行った。
「さて、イセリア。あの箱の中に頼んだ物が入っているんだな?」
「勿論。小隊長さんから頼まれた物を、注文通りに作ったわ。品質も問題ない出来よ」
「そうか」
信康は近くにある木箱に近付いた。
この木箱を少し持ち上げると、簡単には持ち上がらなかった。大きさもあるが、何より中身の物が重かったのだろうと思われた。
信康はその木箱の上の部分に、鞘に収まった鬼鎧の魔剣を差し込む。
そして梃子の原理で開封する。
開けた大きな木箱の中には、布に包まれた大量の何かが置かれていた。
信康は手を伸ばしてその一つを手に取ってみると、その布の下に綺麗に磨かれた石が入っていた。恐らく他の布も、石を包んでいると思われた。
「どれ、見てみるか」
信康は次々と布を捲って、石を観察した。
その石は丸い形をしていた。箱の中に入っている石全て同じ形であった。
しかしよくよく石を確認してみると、色に違いがあった。
信康が手に持っているのは、赤色をしていた。そして箱の中には青色と、緑色の石があった。
更に信康はその石を太陽に当ててみる。何処かに傷が無いか、確認しているみたいだ。
何処も傷が無いの確認した信康は、イセリアに話し掛ける。
「これの性能は、頼んだ通りか?」
「それは勿論よ。赤い魔石には魔法障壁の魔法が付与された魔鎧用。青い魔石は魔馬人形用。緑の魔石は連弩用に造ったわ」
イセリアがあっさりと言うので、信康とルノワを除いた全員が目を見開いて驚いていた。
魔石。
精霊が多く存在する所や、稀に魔力が多く集まる場所によって生成される鉱物。生成条件としては、現状では二つだけ分かっている。
一つは何らかの理由で魔力が結晶化して生成される場合であり、もう一つが魔法使いが魔力を込めて具現化する事で造る事が出来る場合がある。
前者は天然魔石と言われ、後者は人造魔石と言われている。余談だが天然魔石はその希少性から、人造魔石の百倍以上の市場価値が存在する。
「因みに、この魔石は天然か?」
「無茶言わないで。これは全部、妾達の手で作った人造よ」
「まぁ、そうだよな。すまん。聞いてみただけだ」
この量の天然魔石で用意するとか、流石に無理だと思う。
「しかし、良くこれだけの魔石を精製出来たものだ。やはり魔力量が多いのだな」
「当然よ」
信康は魔石の数を、感心した様子で見ていた。
これが通常の魔法使いや魔術師では、一つか二つの魔石を精製するのがやっとだと思われた。
「魔石がこれだけ用意したと言う事は、まさか小隊分用意出来たのか?」
「それこそまさかよ。まだ貴方の分しか作っていないから」
イセリアの話を聞いて、自分が尚早だったと自省した。
「因みに試運転テストは済ませたか?」
「ええ、もう済ませてあるわ」
その話を聞いて、信康は早速試そうと決めていた。
「気になるんだったら、誰かに着せてみると良いわ」
「では、俺がやろう」
信康はそう言って、自らが立候補した。
他の小隊員達は、何が起きるのかと期待しながら信康達を見ていた。