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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章
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第118話

 朝食を食べ終えた信康は自分の小隊に関して質問したい事が沢山あったので、それを訊ねにヘルムートの下に行く事にした。


 ヘルムートは兵舎にある自分用の執務室で書類整理をしていると聞いたので、信康はルノワ達を食堂で待たせて自分一人で総隊長室に向かう。


 総隊長室の前に着き、信康は礼儀として扉をノックした。


「誰だ?」


「総隊長。信康ですが、入ってもよろしいか?」


「入れ」


 ヘルムートから入室を許可されたので、信康は扉を開ける。


 部屋の中に入ると、応接用のテーブルと椅子が幾つかあった。後は執務用の机と椅子しかなく、置物などは置かれていない殺風景な部屋であった。


「何も無さ過ぎませんか?」


「良いんだよ。総隊長室って言っても、書類仕事をするだけの部屋なんだ。客人の相手なら、応接室でやる。だから総隊長室この部屋はこれ位で、丁度良いんだよ」


 ヘルムートは書類を見て署名をしては、新しい書類に署名を繰り返していた。


 信康は終わるまで待とうかと思っていると、ヘルムートはある程度書類に署名するのを終えてから手を止めた。


「俺に話があって来た様子だが? 早速自分の小隊に関して何か面倒な事でも起こって、俺に泣き付いて来たのか?」


「茶化さないで下さいよ。俺が来たのは、小隊に関して相談あっての事です」


 信康はそう言うと、自分の小隊の編成する際の費用や訓練する場所について訊ねた。


「ああ、そうだ。言い忘れていたな。編成費用に関しては、先ずは見積もりを出してくれ。その見積もりを持って、俺は軍上層部と掛け合う。訓練する場所は・・・お前の小隊は第四小隊だから、養成所の第四訓練場を使ってくれ」


「他の小隊と合同で訓練したい場合は、どうしたら良いですか?」


「その時はその小隊長と話し合って、どちらかの訓練場で集まって訓練しろ」


「了解した。最後に一つ・・・訓練場は俺の小隊が全員入れる位の大きさはありますか?」


 傭兵部隊は名目上では小隊になっているが、各小隊共に百人以上の隊員がおり実質は中隊規模の戦力がある。


 それなりの人数なので、訓練場もそれなりに広くないと部隊全員入れない。


「兵舎を増築する際、養成所も増築したからな。訓練場も全部で十二個ある。その訓練場も一つで現在いまの傭兵部隊が全部収容しても余裕で訓練出来る位の広さがあるんだ」


 それを聞いた信康は、ヘルムートにお礼をして部屋を出た。


(費用に関して念の為に訊いたが、無理だと思った方が良いだろうな。取りあえず、食堂に行くか。ルノワ達はまだ残って居るだろう)


 そう思い、信康は食堂に戻って行った。


 

 食堂に着いた信康は、少し驚いていた。


 何故なら、自分の小隊の小隊員が全員居たからだ。


 全員とまでいかなくても、何人かいる程度だろうと考えていた。しかしまさか小隊員が全員居るのには驚いていた。


「あっ、ノブヤス小隊長。おはようございます!! ヘルムート総隊長からお話を聞きに行ったそうですね!」


 食堂に信康が入ったのにいち早く気付き、立ち上がり信康の前まで来て、敬礼しながら話しかけるトッド。


 昨日と打って変わって信康を敬っていた。


 あまりの変わり様に、少し引く信康。


「ああ、トッドだったな。出迎えてくれて、感謝する。昨日の怪我はもう大丈夫なのか?」


「いえ。当然の事をしたまでです。それと怪我ですが、魔法で傷痕一つ残ってませんよ。先生曰く、綺麗に折れていたそうでして・・・其処まであんな無礼な態度を取った俺に気を遣って下さるなんて、感激ですっ!」


 何故だろうか。このトッドの姿を見ていると、犬を連想してしまう信康。不意に故郷で拾って可愛がっていた飼い犬を思い出して、思わず目頭が熱くなりそうだった。


「・・・こほん。さて、総隊長と話して来たが・・・俺達は養成所の第四訓練場で訓練出来るそうだ。早速だがこれから、訓練場に向かうぞ」


 頭の中に浮かんだ連想を、咳払いで追い払い信康は訓練場に行く事に告げる。トッド達は文句一つ言う事なく席を立ち、食堂を出て行った。


 信康は食堂を出る隊員の中で、ある人物達に話をしたいと思った。その小隊員達が食堂を出ようとするのを、信康は声を掛けて止めた。


「すまない。ちょっと良いだろうか?」


「はい。何でしょうか?」


「訓練場で話しても、良いと思うのだけど?」


 信康が声を掛けたのは、サンジェルマン姉妹であった。


「俺の部隊は混成部隊にしたいから、ちょっと相談に乗って貰いたいんだよ」


「相談?」


「わたくし達に出来る事でしたら」


「助かる。と言うか、お前等にしか出来ない事だ。実はな・・・」


 信康は頭の中で、想像していた第四小隊の理想像を話す。


「・・・・・・と言う代物ものを作れないだろうか?」


「そんなもの、妾達の手に掛かれば簡単よ」


「しかしそれだけの数を揃えるとなると・・・費用の方も、かなり掛かりますよ?」


「費用に関しては、きちんと目途がある。お前等は費用に関して心配せず、自分達の持つ技術力の全てを結集させてくれれば良い」


「わたくし達は作るだけですから、問題はありませんが・・・本当に大丈夫ですか?」


「メルの言う通りね。貴方、そんなにお金があるの?」


「この期に及んで、嘘は言わぬ。それに上手く行けば、お前等の工房が作れる様に手配出来るかもしれないぞ。確約は出来ないのが心苦しいが」


「いえ、それは」


「それは頑張らないと駄目ね。費用はそっち持ちなら、こちらも持てる技術の全てを使わせて貰うわ。でも一朝一夕って訳にも行かないから、時間は貰うわよ。なるべく早く用意するけれどね」


 メルティーナが何か言おうとしたが、イセリアが遮ってそう言った。その為よく分からなかったが、イセリアが全力を出すと言ったので信康は取り敢えず安心した。


「結果を楽しみにしておこう。そちらの方は任せたから、期待して待っているぞ」


 サンジェルマン姉妹にそう言って、信康はその場を後にした。

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