第113話
信康はメルティーナとの挨拶を終えた後、自室に戻っていた。
そして自室で引き続き、信康は自分の部隊をどんな部隊にするかを考えこんでいた。
(大体の形は決まった。後はどういう編成にするかだな。歩兵を少なくして騎兵を多くするか、それとも魔法人形の運用を旨とした部隊にするか、う~ん此処が悩み所だなぁ)
そう悩んでると、外から賑やかな声が聞こえて来た。
話の内容までは聞こえないが、誰かの怒鳴り声も聞こえてきた。
信康は気になって、声がする方に足を向ける。
(どうやら、玄関口から聞こえてるみたいだな?)
なので玄関口に向かう信康。
その途中で大声が聞こえて気になったのか、ジーンと出くわした。
「ノブヤス、お前も声が気になった口かい?」
「ああ、大きな声を出すんだ。何かあったんだろうなと思ってな」
「俺は昼寝をしていたら、この声で起こされたからな。一言言ってやろうと思ってな」
「はっはは、それは御愁傷様だな」
「全くだ」
ジーンと話しながら、信康はジーンと共に玄関口に向かう。
二人が玄関口に着くと、傭兵達が何者かと口論していた。
信康は傭兵と、口論している別の傭兵の顔を見た。
それは一人の美女であった。
露出が多い服だ。欧州でも南欧でも見慣れない、恐らく東方の服飾であった。
スカートと上着が一体化した青い生地の服だ。
胸元とへそを激しく露出させており、腰まで入った深い切れ込みがある。
その服の下には薄い黒のインナーを着ていた。薄いので肌の色が透けて見えそうであった。
更に脚部には黒いタイツを穿いていた。
それが余計に扇情的な格好になっていた。
傭兵達も初めて見る衣装に目を奪われ、ジロジロと見ていた。
信康はその美女の顔を観察した。
端正な顔立ちで、ツリ目で黒い瞳。その目と同じ黒い髪を腰辺りまで伸ばし、もみあげの所の髪を三つ編みにしていた。
身体の線が分かる服なので、その美女のスタイルが良く分かる。
胸は大きく腰は引き締まり、尻はボンっと出ていた。
我儘ボディと言える身体だ。
その美女が何故か、傭兵達と口論していた。
しかもよく見るとその美女の背後には、誰かが居る様に見えるではないか。
信康は誰だろうと思い、目を凝らして見た。
見ると其処に居るのは、ナンナとアメリアの二人であった。
(あいつら、何で兵舎此処に居るんだ?)
そう思いながら、信康は口論している向かう。
「おいっ、其処を退け。女」
「俺達がこの二人を案内してやるって、そう言っているだろう」
傭兵達はそう言う。
顔を見ると、見掛けない顔であった。
というよりも玄関口には、沢山の傭兵達が居た。
全員が見慣れない顔ぶればかりなので、第二陣で来た傭兵達だと理解した。
「ふざけないでっ!? あんた達が案内するとか言って、この子達にいやらしい事をするのは目に見えて分かるわよ」
「おいおい、それは言い掛かりだぜ」
「俺達は親切に言っているだけなんだからな。いきなり来て早々、問題を起こして追い出されちゃたまんねぇよ」
美女と傭兵達の口論は、まだ続きそうであった。
この場には他の傭兵達は居るが、口論を止める心算は無いみたいだ。
全員が下手に介入して、要らぬ火の粉に掛かりたく無いみたいに見えた。
(知り合いだしな。此処は俺が仲裁するしかないか。後、五月蠅いからな・・・)
信康はそう考えて、口論している美女達の所に向かう。
「おい、お前等。玄関口でそんな大きな声を上げながら口論するな。さっきから五月蠅いぞ」
信康が手を叩きながら、口論している美女達の間に割って入った。
いきなり話に割り込まれて、三人は顔を顰める。しかし信康が左胸に着けている銅色の記章を見て、直ぐに尉官級の隊員だと分かり、その場で敬礼した。
「何があって口論していたかは知らないが、これからは同じ飯を食って戦場で命を預け合い一緒に戦う仲間だからな。無用な喧嘩は、避ける様にしろよ」
信康がそう言うと、三人は頷いた。
そして信康は美女の後ろに居る、アメリア達に顔を向ける。
「よぉ、二人共。アメリアは例の事件以来だな」
「やっほー。ノブヤス、元気っ?」
「あの時は、お疲れ様でした」
ナンナは手を挙げて気軽に、アメリアはお辞儀しながら挨拶してきた。
「えっと・・・お知り合いでしたか?」
傭兵は信康を尉官級の隊員だと分かっているが、具体的な階級も名前も知らないので、そうやって話すしかなかった。
「ああ、そうだ。挨拶が遅れたな。俺の名前は信康と言う。傭兵部隊の副隊長の一人で、階級は中尉だ」
「はっ、はっ! よろしくお願いしますっ!!」
「うむ。元気でよろしい。それで、何が原因で口論になっていたんだ?」
「実はですねぇ・・・・・・・」
傭兵達が説明をしようとした瞬間、美女の方が割って入って来て話し始めた。
「この娘達がその、中尉殿に会いに来たみたいでして・・・この者達が案内すると言うので、私が此処で待機だと二人に言っていたのです」
「成程な。よくわかった」
この傭兵達がこの場で待機しているのに飽きている所に、アメリア達が来て退屈なので声を掛けて仲良くしようとしたら、この美女が注意したという所だと予想する信康。美女の方の説明を聞いてから傭兵達の方を見ると、間違ってはいないのか別に不満そうな表情は浮かべていなかった。
(どうやら、飽くまでも善意だったみたいだな。第一こいつらはアメリア達に手を出していないのだから、怒る必要など無いか)
信康はこれ以上、事を荒げる心算は無かった。
なので、信康はアメリア達に声を掛ける。
「二人共、俺に何か用があるんだろう?」
「はい」
「うん、そうだよ」
二人がそう言うので、信康は頷く。
「此処で話すのも、なんだな。俺の部屋に来ると言い。茶ぐらいなら出すぞ」
「えっ、ですが」
「わ~い。じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うね?」
アメリアは断ろうとしたが、ナンナがワザとなのか分からないがアメリアと被せるみたいに言う。
「よし、じゃあ行くぞ。お前達、ご苦労だった」
信康はそう言って、二人を自分の部屋に案内しようとした。
歩き出そうとしたら、ふと思い出して足を止めた。
「そう言えば、其処の綺麗な美女の方」
信康は顔を振り向かせて先程、傭兵達と口論していた美女を見る。信康に美女と言われたからか、少しばかり照れていた。
「えっと・・・もしかして、私の事ですか?」
「お前しか居ないだろう? 取り敢えず、名前を聞いても良いか?」
「はい。私は劉鈴猫です。よろしくお願いします。信康中尉」
「鈴猫オか・・・名前の音と容貌から見て、東洋圏それも中華共和国から来たみたいだな?」
「良くご存じですね」
「俺も隣の大和皇国出身だからな。それで分かったよ」
信康自身、中華共和国へ入国した経験は一度も無い。
大和皇国を出る際、信康は大陸に渡らずに大和皇国の東南にある島国を経由して欧州に来た。
しかし、大和皇国に居た時に何度も中華共和国の商人が商売に来ていたので、その経験から鈴猫の衣装を知っていたのである。
「これからもよろしくな」
と言って、信康はアメリア達を連れて兵舎に入る。
(あの美しくて胆力がある鈴猫とか言う女も、俺の小隊に入れたいものだな)
信康は鈴猫リンマオの美貌と胆力に目を付けて、麾下小隊に入隊させたいと素直に思った。