第112話
会議が終わった信康はルノワの部屋に行くと、部屋には丁度ルノワが居たので部屋に上がらせて 貰った。
「お疲れ様でした。会議では何を話されていましたか?」
茶を準備をしながら、ルノワは訊ねてきた。
「俺達が今後、率いる小隊に関してだった。その事に付いてちょっと、お前と相談したい事があってな」
ルノワが用意した茶を飲みながら、信康は答えた。
「相談ですか?」
ルノワは信康に相談される事が嬉しいのか、笑みを零していた。
「実はな」
信康は現状でサンジェルマン姉妹を預かる事も含めて、決まっている事と決まっていない事を全て包み隠さず話した。
「成程。ヘルムート総隊長とライナに押し付けられた隊員を含めて、どんな部隊にするか形になっていないのですね」
「まぁな。それで、ちょっと助言を貰おうかと思ってな」
「ふむ。そうですか」
「実は俺が小隊を設立した暁には、お前は俺の副官にする予定だ。准尉のお前を副官にしても誰も文句など無いだろうし、誰よりも適任者だ。改めて、よろしく頼むぞ」
「私をノブヤス様の副官にですか。それはありがとうございます」
「お前なら、信頼出来るし何より安心出来る。それで、早速だが何か案は無いか?」
「そうですね」
ルノワは目を瞑り、考え込んだ。
少し考えていたら何か良い考えが浮かんだのか、目を開けるルノワ。
「一層の事・・・そのサンジェルマン姉妹の技術力を使った、混成小隊を作ったら如何ですか?」
「混成小隊?」
「ええ、その姉妹の技術で馬の形をした魔法人形などを作らせて、疲れない騎馬に乗った騎兵。身体強化または魔法障壁の魔法を付与した鎧を装備する重装歩兵。矢が尽きる事が無い魔弓を持った弓兵などと言った混成小隊です」
「あの姉妹を使えば、それだけの理想的な小隊が作れるのか?」
理想的過ぎて最早、夢物語だと笑われそうな提案に信康は思わずルノワを訊ねた。
「その姉妹がどれほどの技術力を持っているかに掛かっていますが、異名や評判通りならば今言った代物の幾つかは作れる、又はそれ以上の物を作る事が出来るでしょう。一番の問題は、想定される費用が掛かり過ぎる事です。十中八九、軍の予算では下りませんよ」
「そうか、混成小隊か。俺の中では、その姉妹が作った魔法人形運用を旨とした小隊しか思い付かなかったな・・・予算に関しては、俺が自己負担しよう。其処まで軍上層部が寛容だなんて、微塵も思ってはおらぬよ」
ルノワの提案を聞いて自分で考えるだけでは無く、人の意見を聞いて決めるのも良いなと思う信康。予算に関しては既に諦めているので、抵抗感は無い。
「何でしたらノブヤス様好みの女性達で集めた、ハーレム小隊にするというのは、如何ですか?」
「馬鹿を言え。そんな事をしたら、俺は傭兵部隊の全隊員から顰蹙を買うだろうが。却下だ却下」
内心ではその様な部隊を作るのも良いなと少しだけ思うが、とても現実的では無いと即座に却下する信康。
「クスクス。冗談です」
上品そうに笑うルノワ。
「まぁその様な小隊を本気で作ったら、周りから多大な顰蹙を買いますから止めた方が良いですよ」
「当然だ。それから言っていなかったが、ジーンとレムとトモエって女も俺の小隊に入れる心算だ」
「そうですか。と言うか、決まっている隊員が女性しかいませんね・・・後はノブヤス様がお決めになった方が、私は良いと思います」
「ああ、そうだな。先ず言っておくが、男はこれから決まる。現時点で女性しか居ないのは、偶々だ」
信康はルノワが出した茶を飲んで、席を立った。
「茶は御馳走になったな」
「いいえ。大した御持て成しも出来ませんで、申し訳ありません」
「突然来たんだ。寧ろ、茶を出してくれるだけでも十分だぞ。それと相談に乗ってくれて、感謝する」
信康はそう言って、手をヒラヒラさせて部屋から出て行った。
部屋を出た信康は自分の部屋に戻ろうとしたら、前から誰かがこちらに歩いてきた。
それは件の『魔学狂姉妹』の一人であった。
信康はヒルダレイアから名前と、一部だが身体的特徴を教わっているので妹の方だと分かった。
こうして会えたので、信康はちょっと訪ねてみる事にした。
「ちょっと良いか? 其処のお嬢さん」
「はい。何でしょうか?」
改めて見ると、人間とは思えない美貌であった。
正直これは高名な名工が作った人形だと言われても、不思議ではない美しさだ。
信康はその美貌に見惚れてしまい、言葉が出なかった。
「あの、何か?」
「・・・おっと、すまない。俺は信康という者だ。あんたの名前を聞いても良いか?」
「ノブヤスさんですか。名前の音や風貌からして、この国・・・いえ、地方の者では無い様ですね?」
「まぁな、俺は東洋世界にある、大和皇国と言う国の出身だ。其処から此処まで流れて来たんだ」
「東洋ですか。行った事は無いのですが、どの様な国なのですか?」
「そうだな。先ず第一に、四季がある国と言えば良いかな」
「四季ですか。それは何とも、風光明媚な所なんでしょうね」
「まぁ、そうとも言えるな」
信康からしたら春になれば何処かで戦争が起こり、夏になれば水害や干ばつが起こり、秋になれば再び戦争が起こり、冬になれば寒いという事しか思えない故郷であったが、他国からしたらそう思えるのものかと思った。
「ああ、申し遅れました。わたくしはメルティーナ・フォン・サンジェルマンと申します」
スカートつまみ上げて、左足を斜め後ろに引き、右足を軽く曲げて背筋を伸ばしたまま挨拶をしだした。これは貴族がするカーテシーであった。
「おいおい、俺みたいな傭兵にそんな上品な挨拶なんかしなくて良いんだぞ」
「すいません。幼い時から、人に挨拶する時はこのようにしていたので癖でして」
「癖ねえ・・・・・・・」
無意識でこのような挨拶をしたという事は、家は貴族としてそれなりに生活をしていたという事なるなと思う信康。
「メルティーナと言ったな。確か『魔学狂姉妹』の妹の方だったよな?」
「ええ、そうです」
メルティーナは『魔学狂姉妹』の妹と言われて、顔を赤らめていた。
どうやら、本人はそう言われるのは恥かしいようだ。
「まぁ、なんだな。これから、よろしくな」
信康は手を差し出した。
握手を求めたのだが、メルティーナは信康の手をキョトンした顔で見る。
「手が汚れていたか?」
信康は手を見るが、何処も汚れているようには見えない。
「い、いえ・・・わたくし達の事を知って握手をする人にはあった事が無かったので、少々驚いてしまいました」
「そうなのか・・・お前等みたいな美人と握手出来たら、普通は光栄だと思うがなぁ」
信康もこの姉妹には会うのは初めてなので、どんな事をしたのかは話を聞いただけだ。噂話や逸話だけで、全てを判断する様な愚かな真似はしない。信康にとってそんなものは、飽くまで判断材料の一つに過ぎないのだ。
「うふふっ。お上手なのですね・・・では、改めましてよろしくお願いしますね」
メルティーナは面白そうに笑った後、手を差し出して握手をした。
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
信康はメルティーナに見惚れつつ、握手し返した。