第111話
バーンの悲鳴は中庭から聞こえたので、大急ぎで中庭に向かう信康達。
そして中庭に着くと、其処には右肩を抑えて地面で悶えているバーンが居た。
そのバーンを見下ろす様に立っている、コニゼリアの姿もあった。
ロイドとリカルドはバーンに駆け寄り、どんな状態か確認した。
カインと信康は、コニゼリアが逃げ出さない様に見張る。
「・・・・・・・大丈夫だ。肩が外れただけだ、他にも多少の打撲がある程度だ」
「治せるか?」
「元には戻せるが、かなり痛いぞ」
「大丈夫か、バーン?」
リカルドがそう問い掛けると、痛みで歪んでいる顔をあげて頷いた。
それを見てカインはハンカチをバーンに噛ませてから、肩を持ち持ち上げた。
ゴキッと言う、骨がぶつかる音がした。
「よし・・・これで大丈夫だろう。暫くは動かすと痛いが、少しの間の辛抱だ。何とか耐えろよ」
「あ、ああ、分かった」
バーンは痛みに耐えながら、リカルドの肩を借りてゆっくりと立ち上がった。
その様子を見るに、どうやら大丈夫そうだと思い安堵の息を吐く男性陣。
「ちょっとやり過ぎましたか?」
そう声を掛けるのは、コニゼリアであった。
「ちょっとじゃあねえよっ!? やり過ぎだろうがっ、この大馬鹿野郎っ!?」
「何処の世界に、実力試しで肩を外す奴が居やがる!!」
ロイドとカインは怒鳴るが、コニゼリアは自分を指差した。
「此処に居ますけど、何か?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
二人は言葉を失った。信康は笑いを堪えるのに、必死であった。
「確かにそうだが、幾らなんでもやり過ぎだ」
「でも、始める前にバーンさんには「実力試しなので、本気は出しませんから」って断ったら「はっははは、本気を出さないと実力は分からないだろう。俺も本気でするから、お前も本気で来いよ」と言いましたので、それで本気を出したのですが?」
「「「「・・・・・・・おい?」」」」
「~~~~♪」
冷たい目で、改めてバーンを見る信康達。バーンは自分で言った事とは言え、こうして負けたので何も言えず、口笛を吹いて誤魔化そうとした。
「・・・・・・はぁ。取り敢えず病院に連れて行って、先生に診せるか」
「そうだな。きちんと診せて貰った方が良いし、鎮静剤を貰えたらなお良いだろう。総隊長には、俺から言っておくから」
「じゃあ、俺とロイドでバーンを病院に連れて行くとするか」
「分かった。ああ、それとよ、其処のうさ耳の嬢ちゃん」
カインはロイドと一緒にバーンを医者に診せ行こうとして、兵舎に戻ろうとしていたコニゼリアを引き止めた。
「何ですか?」
「この場合、バーンは負けたって事になるんだよな?」
「そうですね」
「じゃあ、お婿さんの方も?」
「それも無くなりました。と言うか、ごめん被ります。一族の掟にも反しますし」
「っち、何だよ。ノブヤスの一人勝ちかよ。・・・・・・しゃねえか、ほれ」
ロイドは信康に賭けで集めた銀貨十三枚を、全部信康に渡した。
「う~ん、あまり嬉しくない結果だが、良しとしよう。今度この金で、皆で飲みに行かないか? バーンの健闘と慰安も兼ねて」
「おう、そりゃ良いわ。そうしてくれたら、俺達の悔しさに無くなるな。じゃあさっさと行くぞ、バーン」
「お前等、俺の事で賭けしてたな?」
「賭博ギャンブルも傭兵の嗜みだ。ほら、行くぞ」
ロイドとカインはバーンを連れて、プヨ王国軍アンシ総合病院に向かった。
「それじゃあ、私はこれで」
コニゼリアは信康達に会釈して、兵舎に戻る。
信康達はそれらを見送ると、会議室に戻る前に中庭が何処か壊れていないか確認の為に見回った。
「木は折れていないし、何処も壊れていないな」
「そうだな。地面は陥没している訳でも無いし、何処も変な所は無いな」
「じゃあ、戻るか」
「ああ、そうだ・・・・・なっ!?」
リカルドが変な返事をしたので、信康はリカルドの顔を見た。
瞬きもしないで、何処かを見ているみたいだった。
信康はその視線の先が気になり、その視線を辿って行った。
その視線の先には、とある女子学園生が居た。
(あれ? あの女、何処かで見た事があるな?)
そう思って塀まで近付き、その女子学園生を良く見た。
「・・・・・・あ、ああ。お前、アメリアと一緒にいた奴だな。確か名前はライリーンだったか?」
「そうよ。ライリーン・ハイマサー。貴方の事は疾うの昔から知っているから、名乗らなくても良いわ」
「そうかい。では聞くが、何でお前は此処に居るんだ?」
「あの事件が解決したから漸く、自由に外出する許可が下りたのよ。其処で気晴らしに出掛けていたら、男の人の悲鳴が聞こえて来たから来ただけよ」
「そうか。まぁ、見苦しい物を見せたな」
「そうね」
ライリーンはにべもない返事をする。
「じゃあ、そろそろ寮に戻るわ」
「おう、アメリアとレズリーに会ったらよろしくな」
そう言って信康は手を振り、ライリーンを見送った。
ライリーンの背が見えなくなると、信康は手を振るのを止めた。
「さて、そろそろ会議室に行くか・・・・・うおあっ!?」
振り返ろうとしたら、突然肩を掴まれた。
誰が掴んだんだと思い、振り向くとリカルドが信康の肩を掴んでいた。
それも、もの凄い表情で。
「・・・どうした? リカルド」
「・・・・・・ノブヤス。さっきの娘は知り合いか?」
「知り合いと言えば、知り合いだな。この前の事件の目撃者でもあり、俺の知り合いの友人だからな」
「じ、じゃあ、その娘の事はそれなりに知っているんだな?」
「あ、ああ、そうだな。と言ってもまだ名前を知っているのと、あいつの友達が俺の知り合いという位だぞ」
「是非、今度紹介してくれっ!! 御礼は必ずするっ!!」
リカルドは興奮した顔で、信康を揺する。
そんな態度を見たのと、先程のリカルドの話を聞いて何となくだが分かった信康。
『黒い髪を三つ編みにして、赤い瞳をした子だった。横顔だったから良く分からなかったけど、クールな印象を持った子だったよ』
確かに、リカルドが言った印象にピッタリであった。
「あ、ああ・・・今度、機会があったら紹介してやるよ。機会があればな」
「ほ、本当かっ!?」
「この場凌ぎで嘘吐いても、俺に得なんか無いだろうが。飽くまでも、機会があったらだぞ」
「ああ、約束だぞ! 紹介してくれたら、礼はするからっ!!」
リカルドは揺するの止めて、両手で握手してブンブンと力一杯に上下に振る。
(今度は俺が、肩を外されそうだ)
と思える位に、激しい動きであった。
やがて信康との握手を止めて、意気揚々に会議室に戻るリカルド。あれではまるで、もうライリーンを紹介する事が約束されている様に解釈していると思われた。
面倒臭い奴めと心中で悪態を吐きながら、信康は肩は外れていないよなと確認しつつリカルドの後に続いて行く。
会議室に帰還すると、事件の一部始終をヘルムートに説明した。
「バーンが病院に行ったのなら、今日は小隊編成は無理だな。バーン達抜きでやっても、確執が残る。仕方が無いから、今日はお開きにするぞ」
女性陣も賛成とばかりに頷いたので、会議は終わった。
会議室を出て行くとき、ウキウキしたリカルドを見て、ヒルダレイアは信康に訊ねる。
「ねぇ、何かあったの?」
「あいつの惚れた女に会った。その女が俺の知り合いで、機会があれば今度紹介すると言ったら、あんな風になった」
簡潔にこうなった経緯を説明した。
「成程ね。説明ありがとう」
そう言ってヒルダレイアは手をヒラヒラさせて、リカルドの下に行って頭を叩いて怒鳴る。
すると、リカルドは冷静になった。
二人はそのまま何処かに行った。
(バーンの様子でも、見に行ったのかもしれないな)
信康もついて行こうかと思ったが、大勢で言っても邪魔だと思い止めた。
「暇だから、ルノワの所にでも行くか」
信康はルノワの所に行く事にした。