第110話
会議室を退室した信康達は、件のコニゼリアを探し始めて数分。
漸く、お目当ての人物であるコニゼリアを見つけた。
「あの娘だな」
「ああ、名簿の似顔絵にそっくりだ」
「こうして見ると、やっぱりかなりの美人だな」
「言えてるな」
コニゼリアは兵舎の食堂で、他の女性傭兵達と楽しく会話をしていた。
信康達も空いている席に座り、コニゼリアを見る。
こうして見ると、セミロングな茶髪。頭頂部に白いウサギ耳。黄色い肌。可愛らしい顔立ちで赤い瞳。
着ているのは部族の伝統衣装の様で、何かの動物の毛皮で作られたビスチェの様な衣服を着ていた。
人通り顔を見たので、首から下に顔を向ける四人。
其処には女性の象徴といえる乳房が、それなりに実っていた。大き過ぎず小さ過ぎない美乳サイズだ。
ほっそりとした腰に、引き締まった尻。
全体的に見て、鍛えられた肉体を持った女傑といった身体であった。
「バーンって、貧乳好きだったのか? いや、コニゼリアのは小さいって訳でも無いが」
「そうだな。あいつはどちらかと言うと、小さい胸の子の方が好きだよ」
「はぁん、そうかい。で、お前さんはどうなんだ? リカルド」
「どうって?」
「お前、好きな女が出来たんだろう。どんな女なんだ?」
「えっ、いや、まだ声も掛けてないから、どんな子かは、まだ分からない」
「じゃあ、その子は何処で見かけたんだ?」
「・・・・・・傭兵部隊の兵舎に行く前の、プヨ王立総合学園でたまたま見掛けたんだ」
此処まで聞かれては隠せないと思ったのか、リカルドは潔くその一目惚れした女性について話し出した。
「どんな娘だ?」
「黒い髪を三つ編みにして、赤い瞳をした娘だった。横顔だったから良く分からなかったけど、クールな印象を持った娘だったよ」
(うん? そんな見た目の娘を何処かで見た様な?・・・)
リカルドが言った娘に、何処かで会った事があるなと思った。
しかし残念ながら、何処で会ったかまでは思い出せなかった。
此処はもう少し話を聞こうとしたら、ロイドが声を掛けた。
「おっ、バーンの奴が来たぞ」
そう言われて全員が、コニゼリアに目を向けた。
バーンは食堂に入るなり、不審者の様にキョロキョロしだした。
そしてお目当てのコニゼリアを見つけると、その下に駆け寄る。
「なぁ、どう思う?」
「俺は勿論、小隊に入るけど、恋が失敗する方だ」
「ロイド、だからそれは可哀そうだよ。せめて、全部成功する方にしなよ」
「リカルドは、小隊に入って恋も成就っと・・・俺は小隊に入らないが、恋は成就する方だ。ノブヤス、お前はどうする?」
「この流れで言えば、俺は全部失敗に賭けるしかないだろう。尤も、俺はそうなると思うがな。カイン」
「そうかい」
カインは銀貨を三枚程出して、テーブルに置いた。
それを見てロイドも懐から銀貨を三枚程出して、テーブルに置く。
「二人共、賭けは駄目だろう」
「じゃあ、お前は言葉だけで構わん。俺は金を出すがな」
信康は銀貨五枚程、置いた。
「ノブヤスまで・・・・・・ああ、もうっ! これで俺も金を出さなかったら、気不味いじゃないかっ!」
リカルドも自暴自棄になって、銀貨を二枚テーブルに置いた。
「何だ。結局、お前も金を出すのかよっ」
「仕方ないだろう。こんな空気じゃあ」
と言いながらも、少しドキドキしているリカルド。
そして信康達四人は、バーンとコニゼリアに目を向けた。
信康達が居る所では会話まで聞こえないが、表情で何となくだが会話を察する。
バーンはいきなり本題に入ろうとせず、少し雑談で場を和やかにしようと話し掛けている。
コニゼリアとその周りに居る女性傭兵達も話に乗っかり、和やかに話を進んでいるかの様に見えた。
「見た感じ、悪くは無いと思うが」
「さて、どうだろうな」
四人はこのままどうなるのかと、バーン達を注視した。
ある程度、場が和んだのを分かったバーンはいよいよ本題に入った。
コニゼリアに手を出して、何か話し掛けている。
恐らくだが信康の提案通りに、俺の小隊に入らないかと言いに行っているのだろう。
その提案に対して、コニゼリアがどの様に返答するのか気になる信康達。
コニゼリアの返答次第で、賭け金が誰の手に行くのか分かる。総額で大銀貨一枚以上の金額が、賭け金になっている。リカルド達にとって、この金額は無視出来ないものであった。尤も、信康からしたら端金であるが。
固唾を飲んで見守る四人。
コニゼリアは返答して、バーンを何処かに連れて行った。
二人の背を見送った四人は、互いの顔を見合わせた。
「これって成功なのか?」
「どうなんだろうな?」
「う~ん、どう判断すれば良いのだろうか?」
「悩む必要なんてあるか? あそこの女性陣に、詳細を聞きに行けば良いだけだろう?」
リカルド達は頭を抱えていると、信康は何を言っているんだと言わんばかりにそう提案した。
「ノブヤスの提案が、最もだな。良し・・・では俺があの二人が何処に行ったか、あそこに居る連中に訊いて来るか」
ロイドが席を立ち、先程までバーンと話をしていた女性傭兵達の下に行き、話し掛けた。
そして直ぐに、ロイドは戻って来た。
「どうだった?」
「何かバーンが「俺の小隊に入らないか?」と言ったら、コニゼリアが「じゃあ、先ずは実力を見せて下さい」とか言って中庭に向かったそうだぞ」
「それは、また」
「女性でそんな事を言えるのは凄いな」
バーンは現時点の傭兵部隊の中でも、十本の指に入る上位実力者だ。
そんなバーンに向かって実力を見せろと言うのは少々、いやかなり驕っていると言えた。
しかも相手は有名な部族の出と言えど、体格、経験、実力、全ての面で負けている。
「これは、俺の勝ちかな?」
リカルドが嬉しそうな顔をした。
「いやぁ、分らんぞ。そもそも、その娘はどうして実力を見せてと言ったんだ?」
「一緒に居た傭兵達の話だと、何でも婿探しに来たそうだぞ」
「婿探し?」
「こんな所でか?」
「部族の掟で、自分よりも強い雄としか結婚してはいけないらしいと、連中が言っていたぞ」
「成程な。実力を見せて本当に強かったら、そいつの嫁になれば良い。バーンも自分の隊に入れるし、その上嫁も手に入れる。実にあれだな。一石二鳥って奴だ」
「ああ、そうだ」
「グアアアアアアアアアアッ!!?」
信康が話している最中に、男性の悲鳴が響いた。
「この声はっ!?」
「もしかして、バーン?」
「あいつ、まさか・・・コニゼリアあのおんなに負けたのか?」
「それこそまさかだっ!? 有り得ないだろうっ!!?」
「言っている場合では無いだろう? 俺達も中庭に行くぞ」
信康達は悲鳴が聞こえた、中庭の方に向かった。その際に信康は少額とは言え賭博に勝ったなと内心でほくそ笑んでいたが、リカルド達は気付かなかった。