第103話
悲鳴を聞きつけた信康達は、その場所へと向かった。
「この先からだっ」
「このまま進むと・・・・・・これから向かうアパートの近くだぞ」
「これは当たりかもな」
信康達は話ながらも各々が自分の得物を、何時でも抜ける様に走る。
そして悲鳴が聞こえたと思われる場所に着くと、其処は既に惨劇が繰り広げられていた。
娼婦と思われる女性は顔や服を血で染めて、手で口を覆いながら震えて地面に座り、辺りには指やら手やら足やらを斬られ地面に落ち血を流している。
血を出しながら倒れているのは、服装から見て傭兵部隊の隊員と思われた。
殆どは事切れていたが、何人かは苦悶の声をあげているので生きている様だ。
そんな血の池の中で、一人だけ立っている者が居た。
灯りの少ない場所なので確認はまだ取れないが、一人で傭兵部隊の猛者達を倒せる実力者達は数が限られている。その数は両手で余る程しかおらず、そう数は多くは無いのだ。
雲で隠れていた月が姿を現した。
月明りにより血の池の中で立っている者の顔が、段々と分かってきた。
黒茶色の髪。
似顔絵通りの精悍な顔つきの男。
「・・・・・・ふっ。大当たりって奴か。確認するまでも無いが、敢えて訊こう。グラン・マクラオンだな?」
信康は鬼鎧の魔剣を抜刀しながら、そう問い掛けた。
ルノワ達と一緒に来た隊員達も、各々の得物を抜いた。
「ああ、そうだ」
此処に至って隠す心算が無いのか、細剣に着いた血を振り払いながら答えた。
「お前には連続殺人の容疑が掛かっている。武器を捨てて、大人しく同行して貰う」
「ふん。断ったら?」
「腕か足のどれかを失うとだけ、言わせて貰おう。お前を生け捕りにさえ出来れば、四肢は要らんと言われているのでね」
信康は中段構えをながら、グランにジリジリと近寄る。
ルノワは右に回り込み、ティファは左から回り込む様に動いた。
一緒に来た隊員達も、その動きに倣い続いた。
その動きはまるで、グランを包囲するかの様な動きだ。
レムリーアは呆然としている娼婦に近寄り、この場を離れる様に促した。
娼婦はそれで気を持ち直して、慌ててその場を離れた。
それを見送ったレムリーアはまだ息がある傭兵達の下に駆け寄り、治癒の魔法を唱えて止血してから、その膂力で次々と安全地帯にまで移動させて行く。信康はレムリーアの手際の良さに、素直に感心していた。
グランは去って行く娼婦を見送っていた。その間に包囲網は完成した。
「さて、最後通告だ。同行して貰おうか?」
「断る」
グランは細剣を逆手に構えて、周囲を注視した。
「なら、痛い目に遭うだけだな」
信康がそう言って左手で指パッチンすると、グランを包囲している隊員達が一斉に襲い掛かった。
しかし信康はそれに加わらなかった。それはルノワとティファも同様であり、その場で留まった。
(グランの手で倒されている隊員の人数は、十数人。悲鳴が聞こえてから俺達が現場に駆け付けるまで、其処まで時間は無かった筈だ。幾ら腕が立つと言っても、リカルド達程の実力がある様には見えない。得物の細剣レイピアで付けられる傷口では無いし、何か絡繰りがあるな)
そう思った信康は、先ずは様子を見る事にした。
ルノワもティファも同じ考えの様だ。
そう考えている間にも、隊員達はグランに襲い掛かって行く。
このままではグランは捕まるのではと思われた矢先。
突如、風が吹いた。
「風?」
今宵は風が無いのに、何故風が吹くと不思議に思った瞬間。
ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
いきなり隊員達の身体が真っ二つになり、辺りに血と臓腑を撒き散らした。