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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章
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第100話

 傭兵部隊の兵舎に戻った信康達は、戻るなり同僚達との挨拶もそこそこに傭兵部隊の総隊長であるヘルムートの下に真っ直ぐ向かった。


 ヘルムートは訪ねて来た信康達に驚きながらも、信康が話に耳を傾けた。


「するとそのシエラザードさんって占い師の妹さんの仕事関係を辿って行けば、グランが見つかるかもしれないという事か?」


「可能性がある、と言うだけの話ですよ」


「それでも手掛かりが一つも無い現状、それ程ありがたいものは無い。そしてわざわざその貴重な情報を俺に持って来たという事は、手柄を独占する心算は無い様だな?」


「勿論ですよ。この事件は傭兵部隊の手で解決しないと、面目が丸潰れです。俺達が情報を集めている間、傭兵部隊を招集してくれませんか? どうしても人手が足りませんから」


「成程な。よし、直ぐにケル地区に傭兵部隊の奴等を向かわせる。お前らはそれまでに、グランが何処に潜伏しているか目ぼしい場所を突き止めておけ」


「了解しました。総隊長」


 信康達は敬礼して、その場を去った。


 


 プヨ歴V二十六年六月二十八日。夕方。


 


 カルレアのアパートメント前。


 信康達はシエラザードに言われた通りに、市準備を整えてからアパートメント前で戻っていた。


 するとまるで図った様に、その場からシエラザードが現れた。


「準備は終わったみたいですね?」


「ああ、丁度良いタイミングだな?」


 お得意の占いでも使って、自分達がこの時間に来る事でも予想していたのかと思わず思った信康。


 信康とシエラザードのやり取りを見て、ルノワとティファはひそひそと話し出す。


「あの女も、狙っていると思うか?」


「確実に狙っていますね。それと妹さんも、恐らくは」


「はぁ、レズリーとか言う女学園生がくせいも狙っていたよな。それとあのアメリアという女学園生がくせいも。次に隣に居たあのライリーンって女学園生がくせいもか?・・・もしかして学園長や銃士部隊の連中も、狙い出したりして?」


「全員美人でしたから、可能性は高いですね」


「あいつ・・・その内、女に刺されるんじゃないのか?」


「無いとは言い切れませんね」


 信康について色々言っているが、信康は聞き流す事にした。


「・・・・・・取り敢えず、早くアニシュザードの所に行くとしようか」


「分かりました」


 シエラザードを先頭に、信康達は歩き出した。




 カルレアのアパートメントを出て、歩く事数十分。


 ケル地区のとある繁華街に入った信康達。


 繁華街に入るなりまだ夕刻にも関わらずその灯りの眩しさを目に受けて、レムリーアは眩しそうに手を翳して光を遮るようにしていた。


「眩しいです~」


「そうか? 夜の繁華街は、これからもっと派手になって行くぞ」


 その反応をから見て、どうやらレムリーアは夜の歓楽街などに行った事が無いか又は行く回数が少ないのかどちらかだと思う信康。


 そうして歩いていると、目の前に大きな館が立っていた。


 高さは三階建ての建造物だが、その分広さはかなりあった。


 城が建造出来そうな位の敷地に、ドーンと堂々と建っている。


 塀越しに見ているのだが、その建物を見て圧倒される信康達。


「此処にアニシュザードが居るのか?」


「ええ、そうです。行きましょうか」


 シエラザードが歩き出した。入り口には門衛が二人程建っていた。


 その門衛たちは、シエラザードの顔を見る。


「止まれ。何用で此処に来た」


「此処を千夜楼と知って来たのか?」


 門衛が問い詰める様に、シエラザードに訊ねた。


「私はシエラザードと言います。此処の女主人に会う約束していますので、お取次ぎを」


 そうシエラザードが言うと、門衛たちは胡散臭い顔をした。


「楼主様にか? 本当に約束を取りつけたのだろうな?」


「偶に、貴様の様に楼主様に会いたいが為に約束もなし訪ねて来る者が居るのでな。少々、手荷物検査させてもらおうか」


 門衛たちはそう言って、シエラザードに近寄る。


 信康はそれを見て、何時でも殴れる様に拳を握り締めた。


(まぁ、あれだけ色気があったら、そうしたいのも無理はないが。この女は俺が狙っているんでな、みだりに触れたら、それ相応の代償を払ってもらおうか)


 門衛達の手がシエラザードの身体に触れようとした瞬間。


「貴様等っ!!  そのお方に、何をするつもりだっ!?」


 再度聞こえたその大きな声で門衛達は、シエラザードに触れようとした手を止めた。


 信康は声がした方を向いた。


 其処には、信康よりも一回り大きい男性が居た。


 剣も槍も通さない鋼の様な鎧を頑強な外骨格が全身を覆い、頭の頂点には大きな角が一本生えている。


 瞳孔が無い黒い瞳。よく見ると複眼であった。


 下半身は甲虫の様な黒い六本脚。


「な、何だ。こいつは?」


 傭兵暮らしをして長い信康でも、生まれて初めて見る人種であった。


「あれは昆虫人(インセクト)と呼ばれる、亜人類の一種です。彼の場合ですと、甲虫種ビートルと言う種類の昆虫人になりますね」


「昆虫人?」


 信康が疑問に思っていると、シエラザードが昆虫人について解説を初めてくれた。簡単に言えば昆虫が人に進化した種族全般を指すそうで、女郎蜘蛛族(アラクネ)もまた昆虫人に分類されるそうだ。


「成程な。姿形からあの姿は、カブトムシそのものだな」


「カブトムシ? 何ですか。それは?」


「虫の一種で、あの男みたいに角が生えた虫だよ」


「はぁ、角が生えた虫ですか」


 ルノワはイマイチ想像がつかないみたいだ。


 そこでティファが空に指で描いた。


「こんな感じ?」


「そうだな。でも此処がこうかな」


 ティファが書いた絵に少し足してみた。


「だからあんたが言ったカブトムシって奴は、大陸共通語でカブトムシ(ビートル)っていう虫になるのよ」


「そうなのか。俺の故郷じゃあ、角の部分が兜に似ていたからカブトムシって由来になっているんだ」


「言い得て妙だね。まぁ良い勉強になっただろう?」


「むぅ・・・まさかティファに教わるとは、不覚」


「おい、どういう意味よ。それ」


 ティファが信康を問い詰めようとしたら、千夜楼側に動きがあった。


「このっ、大馬鹿者共が!?」


 甲虫種(ビートル)の昆虫人が門衛二人を、思い切り殴り飛ばした。


 門衛達は殴られて、宙に浮かぶと、地面に叩き付けられた。


「「ぐへっ!?」」


 門衛達は顔を殴られた上に、背中を強く打ちつえたので痛がっていた。


「この方は楼主様の姉君で在らせられる、シエラザード様ぞ!? 貴様等ぁっ!! この様な無礼を働いて、許されると思っているのか!? 知りませんでしたなど、言い訳にもならぬわっ!!」


 甲虫種ビートルの昆虫人インセクトがは持っている槍の穂先を、門衛達に向ける。


「「ひいいいいいいっ!?」」


 このままでは門衛達は殺されるとはいかなくても、かなり痛い目にあうだろう。


 そう思われた所でシエラザードが口を挟む。


「まぁ、コーカサスさん。もうそれ位で」


「しかし、シエラザード様」


「私は気にしていませんよ。もうそのお気持ちだけで、十分です」


「・・・・・・・シエラザード様がそう仰るなら」


 コーカサスとシエラザードにそう言われて、漸く槍を下した怒りを収めた。


「貴様等っ、次からは許さぬからな。これに懲りたら、シエラザード様の御尊顔を二度と忘れぬ様に覚えておけっ。そしてお慈悲に、心から感謝するが良いっ!!」


「「は、はいっ!・・・シエラザード様、大変申し訳ございませんでしたっ」」


 門衛達はフラフラになりながらもシエラザードの前まで移動すると、膝を付いて頭を地面に付ける寸前まで下げて感謝の意を示した。


「どけっ、邪魔だっ・・・シエラザード様。どうぞ、我等が楼主様が部屋でお待ちです。お連れの方々も」


 門衛達を蹴飛ばしたコーカサスが建物に入る様に促すので、信康達はその案内に従い千夜楼に入る。




 建物の中に入り、コーカサスの案内で階段を上がって行く。


 その途中、この千夜楼の娼婦が露出の激しい格好で歩いているのをチラホラ見る。


 信康達を見て全員が、会釈する。


 中には信康を見て、ウィンクしたり流し目で見たりとアプローチを掛ける者も居た。


「流石は高級娼館。客の引き寄せ方も上手だな」


 信康は会う娼婦達を見ながら零した。


 高級娼婦になると話術だけではなく、仕草一つで男を虜にする方法を知っていると実感した信康。


「そうでしょうな。そうでなければ、この千夜楼傘下の娼婦は務まりませぬ」


 信康の独白に同意する様に答えるコーカサス。


 見た目は堅物みたいだが、意外と話が出来るのかと思う信康。


 続けて話し掛けようとしたら、コーカサスがある部屋の前で止まった。


 部屋の前には、護衛なのか二人程立っていた。


「此処にアイシャが?」


「はっ、そうです」


 コーカサスは扉をノックした。


「楼主様。姉君をお連れしました」


「入って頂戴」


 部屋の主が入って良いと許可を得たので、コーカサスは扉を開けた。


 すると祝賀会が出来そうな位に広い部屋が姿を現した。中央に執務用の机が置かれていた。


 机から少し離れた所に大理石のテーブルがあり、そのテーブルを囲むように十人は座れる様な大きいソファーが囲む様に置かれていた。


 そのソファーの一つにアニシュザードが寝そべりながら、煙管で煙草を吸っていた。


 アニシュザードは口から煙管を離して、白い息を吐くと立ち上がる。


「いらっしゃい。姉さん」


「元気そうね。アイシャ」


「それはもう、この商売は元気が無いと出来ないわ」


 口元を手で隠しながら、上品そうに笑うアニシュザード。


 一頻り笑うと、シエラザードの後ろにいる信康達に目を向ける。


「それで、姉さん。後ろの方々は? 一人は見覚えがある顔ね。名前は確か・・・・・・ノブヤスだったかしら?」


「一度しか会ってないのに、よく覚えているな」


「この商売をしていると、一度顔を見た相手を覚えてないと大変なのよ。それで、姉さん。何時も来る時は、あの娘を連れて来るのに今日は連れて来ないで、代わりに後ろに居る人達を連れていたのは何故なの?」


「それについては、俺が話そう」


 信康は何故ここに訪ねて来たのか、理由を一から順に話した。


「成程ね。それで、私に情報を聞きに来たという訳ね」


「そうだ」


「姉さんの知り合いだし、情報を渡すのは吝かでは無いわ」


 ルノワ達は喜んだが、信康は眉を顰めた。


「・・・・・・対価は何が良い」


 信康がそう言うと、驚いた顔をするアニシュザード。


「あら、よく情報が欲しければ対価を寄越しなさいと言うのが分かったわね」


無料(タダ)で情報を貰えると思う程、甘ったれた考えは持ってなど居ない」


「話が早くて良いわね。じゃあ、情報の代わりにどんな対価を払うのかしら?」


 アニシュザードは微笑みながら訊いてきた。

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