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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章
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第98話

「オリー、上に居る二人と護衛対象二人を連れて来てくれる?」


「分かったわ」


 オリーと呼ばれた美女はシャルロットに言われて、エントランスの近くにある階段を上がって行く。


 どうやら、アメリア達は二階に居るみたいだ。


「では、こちらに来て貰いましょうか」


 信康達は頷き、そのまま一室に案内された。


 其処はリビングの様で、テーブルを囲む様に椅子が幾つも置かれていた。


 信康が適当な所に座ると、キャリー達も思い思いの場所に座りだした。


 ルノワは部屋の入り口に一番近い場所に。ティファは信康の右隣。レムリーアはキャリーの右隣。レズリーは信康の左隣。キャリーは窓側の場所という具合であった。


 そして信康の対面に、シャルロットという女性が座る。


「自己紹介がまだだったね。私は近衛師団傘下銃士部隊所属、青色銃士部隊部隊長のシャルロット・ダルコーニュ。階級は大佐だよ。先刻さっき二階に上がって行ったのが副隊長の一人で、第一中隊中隊長も兼任するオリヴィア・フォン・ラフェール中佐だ」


「御丁寧な挨拶痛み入る。俺は信康で、そっちに居る黒森人族(ダークエルフ)はルノワ。隣の女が女傑族(アマゾネス)のティファ。最後に牛獣人で乳牛種(ホルスタウロス)のレムリーア。全員、近衛師団傘下傭兵部隊に所属している隊員です」


 信康に紹介されると、ティファ達はシャルロットに軽く会釈した。相手は所属する部隊は違えど同じ近衛師団で階級が上なので、信康は敬語を使って話した。


「話を聞く前に訊ねたいんだけど・・・証言は既に聴取されており、資料にも書かれている。それなのに、どうして聞く必要があるのかな?」


「後になって思い出すという事もあるかもしれないし、それに話をもう一度聞いてから捜査するのも変な話でも無いと思いますが?」


 信康がそう告げても、シャルロットは何も言わなかった。


 しかし信康達の事を疑っているのは、明らかに目を見れば分かる。


 それも当然だ。何せ現在追跡している犯人は、傭兵部隊に所属していたのだ。


 追っている傭兵の仲間だと、疑われても可笑しくはない。


 捜査しているのに、未だに手がかりも見つからないのだ。身内に内通者が居る可能性を考えても不思議な話では無いのだ。


 信康とシャルロット。


 互いの視線が絡み合っていると、不意に扉がノックされた。


「シャル、入るわよ」


 その声から、先程二階に上がったオリヴィアだと分かった。


 シャルロットがどうぞと言うと、扉が開きオリヴィアが部屋に入った。


「連れて来たわよ」


「そうか。じゃあ、オリーはアメリアさん達の隣に座って」


「分かった。さぁ、どうぞ」


 そう言って、オリヴィアはアメリア達を室内に入れた。


 この学園の制服を着たアメリア。それともう一人は、アメリア達と同じ制服を着ている女子学園生だ。


 烏の濡羽色の髪を三つ編みにして、赤いリボンで纏めている。


 端正な顔立ちだが、何処か人形めいた雰囲気を出していた。


 赤い目が信康をちらりと見る。


(こいつがライリーンとか言う、女学園生か)


 ライリーンの方も信康を見るのを止めて、オリヴィエの右隣に座る。


 アメリアはライリーンの右隣に座り、シャルロットはその右隣に座った。


 信康は部屋に入って直ぐに顔を顰めた。


 そして、アメリアに話し掛けた。


「よぉ、アメリア。親父さんとお袋さん(・・・・)は元気か?」


 信康がそう尋ねると、アメリアは笑顔で答えた。


「ええ。父も母も元気ですよ」


 そう答えたので信康は溜め息を吐き、腰に差している鬼鎧の魔剣オーガアーマーズ・ソードをテーブルの上に置いた。


「「「???」」」


 シャルロットとオリヴィアとアメリアは意味が分からず首を傾げた。


 だが、ライリーンだけは微かに笑みを浮かべた。


「自分達、傭兵部隊が信頼出来ないお気持ちは分からなくも無いが・・・今回の事件の捜査の為だけではなく、知り合いが事件に巻き込まれている。それを心配して来たの言うのに・・・幾ら何でも、これ・・はやり過ぎでは?」


 信康は呆れた様子で、静かにシャルロットに問い掛けた。


 それを聞いて、ルノワ達は顔を見合わせ、キャリーもしきりに顔を動かしながら天井を見る。


 レズリーだけ分かったのか、アメリアを睨んでいる。


「ど、どういう事ですか?」


「つまらん茶番は、もう止めて頂きたいものだ。アメリアとはこのプヨに来てから知り合ったが、その家族構成程度なら俺でも把握している。あいつの今の家族は父親と()だ。母親は既に死んでいる・・・・・。それなのに『父と母は元気にしている』など、おかしいではないか」


「「「あっ!?」」」


 それで漸く、信康がこんな行動をしたのか分かった。そして思わず、シャルロット達を睨み付ける。


 表情にこそ出ていないが、怒っている様子だ。


「それにアメリアは礼儀正しい女からな。知り合いの顔を見つけると、必ず挨拶をしてくれる。それなのに、今回は何もしていない。どれだけ上手に変装しても、見てくれだけではハリボテに過ぎん」


 偽物と言われたアメリアは、何も言わなかった。


「・・・・・・・・何だ。本当に被害者の知り合いだったのね」


 アメリアとは違う声で、偽物のアメリアは話し出す。


「当人に成り済まして影武者を務める心算なら護衛対象の性格や嗜好、家族構成に人間関係などもボロが出ない様にきちんと把握するものだ」


「そうね。言葉も無いわ」


 そう言って、偽物のアメリアは顔に爪を立てた。


 すると、顔の部分が仮面に変わった。


 その仮面を外すと、先程まで学園の制服だった物が、シャルロット達が着ている青色の制服に代わった。


 仮面を外すと、其処に居たのは別人の美女だった。


 整った顔立ち。緑色の目。青灰色の髪を腰まで伸ばしていた。


「それで、貴女は何者なのだ? 銃士部隊の隊員なのは分かるが」


「御明察。私も同じく近衛師団傘下銃士部隊所属、青色銃士部隊副隊長の一人で第二中隊中隊長のアンリ・フォン・デルブレー少佐よ」


 アンリと名乗った美女が、信康達に自己紹介をした。


「その手に持っている仮面は?」


「これは無貌の仮面(ノーフェイスマスク)よ」


「・・・魔宝武具(マギ・ウェポン)、では無いな。魔法道具(マジックアイテム)の一種か?」


「御明察。これは魔法道具よ」


 アンリと名乗った女性は、額の所に魔石がある以外特に変わった所がない仮面を仕舞う。


 此処で魔宝武具と魔法道具の違いを説明する。




 魔宝武具と魔法道具の違いは色々あるが、大まかに分けると二つの違いであった。


 一つは材料の違い。


 魔法道具は魔石を原料又は顔料にして使う道具で、戦いでだけでは無く衣食住の面に使われる様になっている。


 逆に魔宝武具は魔石だけではなく魔力を持った魔物の身体の一部を材料にしており、戦闘を重視して製造及び制作されている。稀に魔物の毛皮や皮などが衣に使われるが、そちらの場合も魔宝武具に分類される。


 もう一つの違いは技術者が違う事だ。


 魔宝武具は魔力鍛冶師(マジックスミス)や、その上位職にあたる魔力鍛冶匠(エンチャンター)にしか作れない。


 だが魔法道具の方は、魔法を使える物や魔法科学の知識を持った者ならば作る事が出来る。


 大まかな違いは、この二つと言えた。


「そいつはまた、凄い物を持っているな。銃士部隊の隊員はそんな代物まで支給される程の厚遇を受けているので?」


「ふっふふ。誤解を呼んでしまったみたいね? 結論から言うと、それは違うわ。この無貌の仮面は我がデルブレー伯爵家から持って来た所有物よ。こんな護衛任務の時に役に立つから、重宝しているのよね」


「成程な。流石に貴族の家は凄いですな」


「ふっふふ、それはどうもありがとう。事前知識があったとは言え、貴方の洞察力も素晴らしかったわ」


 信康とアンリと話していると、扉がノックも無しに開いた。


「何の合図もなかったから、入っても良いのか?」


 扉を開けるなり、そう声を掛けるのは女性だった。かなり大柄の女性で、並の男性よりも身長がありあのバーンに匹敵する巨躯の持ち主だった。


 勿論、その女性もアンリ達と同じ青色の制服を着ているので、同じ第一銃士部隊みたいだ。


 赤茶色の短髪。黄玉石の如き黄色い瞳が印象的だったが、良く言えば眼力が強く悪く言えば目付きが悪いのでその様は蛇を連想させる程だ。顔立ちは悪くない美人なのだが、その睨んでいるかの様な目付きが誤解を生み易いと言えた。尤も、信康ならばその様な欠点など気にもしないが。


 その女性は野性味溢れる雰囲気を出しているので、どうも銃士には見えなかった。どう見ても女傭兵の方が似合っていると、信康達は思った。


「失礼ながら、貴女は?」


「近衛師団傘下銃士部隊所属、青色銃士部隊の副隊長の一人で第三中隊中隊長のアーマンド・デュヴァロン少佐だ。よろしくな」


「信康と言います。こちらこそよろしく」


 信康は答えた後、シャルロット達を一瞬だけ見渡した。


(おいおい、指揮官四人が揃いも揃って護衛かよ。隙の無い身動きを見ると、護衛官(ボディーガード)としてこれ以上ない適任者に見えるが・・・肝心の指揮を疎かにして良いのか?)


 信康は第一銃士部隊の諸将が自ら護衛官を務めている事実に驚きながらも、表情には出さずにアーマンドへの挨拶を済ませる。


 挨拶を済ませた信康は、アーマンドの後ろにいる人物を見た。


 其処に居たのは紛れも無く、本物のアメリアであった。


「よう、大変だったな」


「お疲れ様です、ノブヤスさん。それにルノワさんとティファさんも」


 アメリアは会釈して、ライリーンの隣に座る。


「それで、こんなつまらん事を考えたのは誰だ?」


「ああ、それは」


「私よ」


 アーマンドが話すのを遮る様に喋ったのは、ライリーンと言う女子学園生であった。


「お前が?」


「傭兵が訊ねて来たと聞いたから、本当にアメリアの知り合いかどうか知りたくて試したのよ」


「ほぅ。実に賢しくて度胸があるな」


「どうも」


 ライリーンはそう答えると、其処からは何も言わなかった。


 信康はライリーンの態度を見て鼻を鳴らした。


「まぁ無駄に時間を割かれた事に関して、色々と言ってやりたい所ではあるが・・・今は時間が惜しい。手短に済ませたいから、用件だけを聞かせてくれ」


「わ、私で良ければ」


「もう既に証言はしているのに、何を話せば良いの?」


「改めて何か思い出した事はないかと、そう思っただけだ・・・実は此処だけの話なのだが、捜査は暗礁に乗り出している。このままでは、次の殺人事件が起きるのを待つしか無いと言う、実に不甲斐無い状況でな。二人から少しでも、どんな小さなものでも良いから情報が欲しい」


 信康がそう言うと、第一銃士部隊のシャルロット達が顔色を変えた。


「君ね。捜査情報を目撃者に話して良い訳が無いでしょう!?」


 シャルロットがつっかかるが、信康は取り合わなかった。


「硬い事は言いっこ無しでお願いしたい。それとも次の被害者が出るのを、ただ指を加えてじっと待つのがお望みで?・・・・・・どうだ? 何か思い出さないか?」


 信康にそう言われては、シャルロット達も反論出来ずに沈黙するしか無かった。そう問いかけられた二人は、事件当時の事を少しでも思い出そうとしている。


「どうだと言われても、私達が友達の家の帰り道に悲鳴が聞こえたので行ってみたら、人が倒れていて、魔石灯の灯りが逆光だったので・・・顔までは見えませんでした」


「見えたのは髪の色くらいね」


「・・・・・・それだけか。他には?」


 何かもう一つ欲しいと思い、問い掛ける信康。


 アメリアは首を横に振った。


 ならやはりもう無いかと諦めかけていた、その時だった。


「・・・・・・・香水」


 ライリーンはポツリと零した。


「何っ、香水?」


 信康はオウム返しの様に、ライリーンに訊き返した。


「その殺人犯は風上に立っていたみたい。風に乗って香水の匂いがしたわ」


 ライリーンがそう言うと、アメリアも今思い出したかのように話し出す。


「そう言えば、風に乗って良い匂いがしてました。てっきり、倒れていた人がしている香水かと思っていたけど」


「香水か。どんな匂いの種類か、分かるか?」


「あれは、そうね・・・月下香の香りだったわ」


「月下香だと・・・成程な。良しっ! 良くぞ思い出してくれた。素晴らしい情報提供を感謝する」


 信康は勢い良く立ち上がると、二人に礼を述べた。


「・・・そう言えば、何でお前が月下香の香りを知っているんだ?」


「知り合いに、その手の香りに詳しい人が居るの」


「そうかい。まぁ、良い情報をありがとな。これで行き詰まっていた捜査が、漸く動くぞ」


 信康はそれ以上何も聞かず、部屋から出て行く。


 ルノワはシャルロット達に会釈してから、直ぐに信康の後を追った。


 突然の信康の行動にあっけにとられたティファ達は、直ぐに気を取り直して慌てて信康達の後を追い掛けた。だが、キャリーだけはその場に残った。


「・・・・・・・今の香水の話だけで、何か分かった?」


「いえ、何も・・・」


 キャリーがシャルロット達に問い掛けるが、シャルロット達は首を傾げるだけだった。


 ただライリーンだけが、口元に笑みを浮かべていた。




 寮を出た信康達は、出入口の近くで屯っていた。


「いきなり出て来て、どうしたんだよ?」


「レズリー、今日はあの女占い師のシエラはアパートに居るか?」


「シエラザードさん? 今日は部屋に居るじゃないのか? 断言出来るだけの確証なんて無いけど」


「そうか。じゃあ、アパートに行くぞ」


 信康は駆けだした。


 ルノワ達もその後を追う。


「待てよ。さっきの香水の話がどうして、シエラザードさんに繋がるんだ?」


「月下香はその効能と品質から、香水の中でも高級品の部類に入るんだ。だから使われる女性は、限られている」


「じゃあ、その使う女性ってのは?」


「主に高級娼婦だ」


 それを聞いて、レズリーは顔を赤らめた。


「そ、それでどうして、シエラザードさんの下に行くんだよっ」


「あいつには、その手の知り合いが居るからな」


「えっ!!? そ、そうなんだ」


 レズリーはそれなりに親しくしていたので、驚いていた。


「アパートに行く理由が分かったな? じゃあ、行くぞ」


 こうして信康達は、アパートメントに向かった。

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