第97話
レズリーの案内で、プヨ王立総合学園へ向かう信康達。
歩く事、約三十分。
信康達は遂に目的地である、プヨ王立総合学園の校門前に到着した。
「何度か前を通った事はあったが、園内に入れるとは思いもしなかったな」
教育機関とやらには無縁な人生だった所為か、少し入るのに戸惑う信康。大和皇国では専属の講師が居たのだから、縁がある筈も無かった。
教育機関には無縁だったと言う意味ではティファも信康と同様だった様子で、プヨ王立総合学園の校門を見て圧倒されていた。
「これがプヨ王立総合学園ですか」
「大きいですね~」
ルノワとレムリーアは何とも思っていなかった。
どうやら二人は、教育で此処までするのが普通という環境で、育てられたみたいだ。
「むう、これが種族の文化の差か?」
「種族もそうだが、国の文化の差もあるだろうな」
信康達が唸っている間に、レズリーは守衛と話をつけていた。
「お~い、校内に入っても良い許可を取って来たぞ~」
「では、私達も園内に入りましょうか」
「ですね~」
ルノワ達が校門を越えて、プヨ王立総合学園内に入って行く。
二人が先に行くので信康達は互いの顔を見て頷き、その後を追い掛ける。
夏休み期間中の所為か、プヨ王立総合学園内には学生の数は少人数だ。
そしてその学園生全員が、信康達を見てギョッとしていた。
プヨ王立総合学園内に無縁の存在である軍人が入っているのを見て、何があったのかと視線を送っている。
そんな視線を身体で浴びながらも、信康達は歩いていた。
「先ずは寮に行く事を、学園長に挨拶も兼ねて言ってから行くぞ」
「そうだな。先ずはこの学園の一番偉い人に一言言ってから行った方が、何かと問題無いからな」
レズリーがそう言うので、信康も賛同した。
「ですが、事前にアポイントメントを取っていません。学園長は居るでしょうか?」
「それなら大丈夫だ。普段から学園長室に居るぜ」
「ほぅ、良く断言出来るな?」
「そういう人だからな」
レズリーは苦笑しながら歩き続ける。
途中で教師などに見つかる事はなく歩き、学園長室の前まで来た。
「少し時間が掛かったけど、着いたな」
「此処まで来るのに、何で教師達に会わなかったんだ? 夏休みだからか?」
疑問を感じた信康。レズリーに訊ねた。
「ああ、そんな事は無いよ。夏休みなのはあたしら学園生だけで、教師は普通に仕事がある。多分教員会議でも開かれてて、今頃教師は職員室で会議をしているだろうぜ」
「それでか。だが、それなら学園長も会議に出ているんじゃないのか?」
「普通はそう思うよな。でも、ちょっと事情があってな」
「事情?」
「何でも、学園長には実権が無いとか言われているぜ」
「そうかい」
正直に言ってしまえばこのプヨ王立総合学園には職業柄、あまり来る機会が無い。あまり関係ないなと思い、信康はそれ以上訊こうとはしなかった。
だが、レズリーはプヨ王立総合学園の裏事情を話し続けた。
「まぁ此処の学園の運営は全部、理事長と理事会が全部仕切っているから問題ないけどね」
「ははぁ、そう言う訳か」
それで何となくだが、学園長の立場が分かった信康。
「その学園長と言うのは、理事長か理事会の理事とやらの身内だな?」
「良く分かったな。その通り、理事長の娘だよ」
「ああ、それで」
信康は学園長に実権が無い理由が分かった。
「そろそろ入るぜ」
レズリーは学園長室の扉をノックしたが、何の反応は無かった。
もう一度ノックしたが、それでも反応は無かった。
「・・・どうやら学園長は、留守みたいだが?」
「あれ~? おかしいなぁ。何時もはこの時間は学長室に居る筈なんだけどな」
レズリーは頭を掻く。
「仕方が無い。此処は一つ会議が終わるのを待って、誰か適当な教師に話を」
「あら? 私の部屋の前で何か用?」
そんな声が聞こえたので、信康達は振り返った。
すると其処には、妙齢の女性が居た。
紺色のスーツを着ており、動き易い様に同じ色のパンツルックを穿いていた。
姫カットした赤髪に、かなりきつい目元だ。睨んでいるみたいにしか見えない。
体型の方だが、胸は大きかった。スーツがはきちれそうなくらいに胸が突き出ており、それでいて腰はかなりほっそりとしていた。
派手な化粧をして、赤い塗料を塗られた爪。耳にも大きいリング状の、赤い耳飾りをしていた。
まさに金と努力を惜しまず費やした美貌と言えた。
(良い女だな。しかし学園長と言うよりも、アニシュザードみたいに何処かの闇組織の女首領みたいだぞ)
学園長と思われる美女を見て、信康はそう思った。
「ああ、学園長。何処に行っていたんだ?」
「少し用事があったのよ」
学園長はレズリーと話していると、信康達の事に気付いた。
「で、こちらの方々は?」
「学園長に折り入って話がしたいそうで、連れて来たぜ」
「話? まぁ、良いわ。取り敢えず、中に入って話しましょう」
そう言って、学園長は信康達を部屋に入れてくれた。
学園長室に入った信康達は、部屋にある安楽椅子の所に行く。
椅子に座るのは信康とレズリーで他の三人は二人の後ろに立った。
信康の対面に学園長が座った。
「改めて名乗らせて貰うわね。私はこのプヨ王立総合学園の学園長をしているキャリー・フォン・マイヤーズよ」
「フォン? という事はやはり貴族でしたか」
「ええ、そうよ。私の実家のマイヤーズ侯爵家は、代々この学園の理事長をするのが習わしなの。それから私に敬語を使う必要なんて無いわ。普通に喋ってくれて結構よ」
「ではお言葉に甘えて・・・そちらも名乗ったからな、俺達も名乗ろう。俺は信康。後ろに居る黒森人族はルノワ。そっちの女は女傑族のティファ。最後に獣人で乳牛種のレムリーアだ。全員、傭兵部隊に所属している隊員だ」
信康が順に名前を言うと、名前を言われた者達は軽く頭を下げた。
「傭兵と言っても、軍の関係者に間違い無いわね。もしかして、例の連続殺人事件の捜査に関係する事かしら? いい加減、何か進展はあったの?」
傭兵と聞いただけで例の連続殺人事件について訊ねる所を見ると、どうやら頭は切れる様な印象を抱いた。尤も初対面から見た時から知性を感じる眼力の持ち主だったので、とても親の七光り的な馬鹿には見えなかった信康。
すると其処で、一つの疑問が生まれる。何故このキャリーと言う女性は実権を取り上げられて、飼い殺し状態なのかという疑問だ。しかし今はそれは重要では無いので、信康は好奇心を押し殺し思考を切り替える。
「ああ、実は・・・」
信康はキャリーに事情を説明した。
「つまり、もう一度目撃者の証言を聞きたいという訳ね」
「そうだ。会わせてくれるか?」
「良いわよ。別に」
すんなりとキャリーから、アメリア達への面会する許可を得る事が出来た。
信康としてはすんなり行き過ぎて、逆に拍子抜けしていた。
「こちらから頼んでおいて何だが、良いのか? 学園の敷地内に、部外者を入れる様なものだぞ?」
「別に事件解決の為に話を聞くだけなのだから、何も問題など無いわ。代わりと言っては何だけど、私も寮には同行させて貰うわよ」
「別に構わんが、手間じゃないのか?」
別に寮までの道案内は、レズリーが居れば十分だと思う信康。
「今回の事件で唯一の目撃者達を守る為に、寮には近衛師団の銃士部隊から派遣された人達が居るのよ。その人達にはレズリーより私から言えば、納得してくれるでしょう」
「わざわざ御足労を掛けてしまって、申し訳無いな」
「別に良いのよ。傭兵部隊貴方がたに任せて逆に一悶着起こされる方が、却って面倒事になるもの。それにいい加減、鬱陶しかったらさっさと寮から出て行ってくれると助かるのよね」
学園生を自主的に護衛にしてくれるのだから、そんな事を言うのはどうなのだろう思うが、考え方など見方よっては変わると良く言う。キャリーからしたら、自身の管轄する敷地内に土足で入り込んで来た銃士部隊の方が迷惑この上ないという事なのだろうと思う信康。
「じゃあ、早速案内するわね」
キャリーは椅子から立ち上がる。信康とレズリーも一緒に立ち上がる。
そしてキャリーを先頭にして、信康達は寮へと向かった。
道すがら、信康はレズリーに気になった事を訊く。
「そう言えばレズリー。お前は何で、学園長とこんなに親しいんだ?」
「ああ、それはね。初等部に居た時に授業をサボっていたら、偶々会ってよ」
「おいおい。授業をサボるとか、お前な」
「もう過ぎた事なんだから、別に良いだろう。・・・それで何気なく話をしていたら、馬が合ってさ、それ以来の付き合いかな」
「そうね。もう知り合ってから、かれこれ五年ぐらいになるわね」
キャリーは懐かしそうに呟きながら話に加わる。
「その時、私は学園の一教員だったのよ。でも、三年前にパパ・・・じゃなかった。父様がね。理事長になったから、私も教員から学園長に半ば強制的に昇格しちゃってね」
「じゃあ、まだ新米同然だな」
「そうなの。まぁ結局全部父様が仕切っているから、私が出来る作業なんて書類に自署サインするくらいよ」
「そうか」
信康は話をしなかったが、代わりにレズリーがキャリーと話をしていた。
話しながら歩く事数分。
寮はプヨ王立総合学園の敷地内にあった。
三階建ての建物が幾つも存在していた。その内の一つに信康達が来た。
何故かこの建物だけ他のに比べて、二階建てだった。
「此処に事件の目撃者が居るわ」
「見た感じは寮と言うよりも、普通の建物に見えるのだが?」
「そうよ。元々、この建物は寮長の住居として建てられた家なの。事件の目撃者であるうちの学園生を、同じ寮に住まわせると色々と問題があるからね」
「あれ? あたしがアメリアから聞いていた話と違うな」
「誰が何処で話を聞いているか、分からないでしょう? 例の連続殺人犯に気付かれたら事だし、それに新聞記者にでも嗅ぎ付けられても面倒じゃない。だから表向きにはアメリアとライリーンには何処で暮らしていると聞かれたら、ライリーンの部屋で暮らしていると言う様に指示していたの」
「成程な」
納得した様に頷くレズリー。
「じゃあ、入るわよ」
キャリーが扉をノックした。
そして、直ぐに反応が来た。
「はい。どなたですか?」
「学園長のキャリーよ。入っても良いかしら?」
「学園長ですか。少しお待ち下さい」
そう声が掛かって直ぐに、扉をが開けられた。
信康達を出迎えてくれたのは金髪の髪を腰まで伸ばし、蒼玉石みたいな瞳を持った美女だった。
青い制服に左の腰にはる細剣を、右の腰には短銃を差している。
(この女、前にムスナンの騒動の時に見たな。何て言う奴等だったか? 銃士部隊と言っていたが・・・ああっ! 確か、青色銃士部隊だったか)
信康は思い出そうと頭を働かせて喉元まで出かかっているのに出なかった所、女性が着用している青色の制服を見て思い出す事が出来た。
「ご苦労様。シャルロットさん。何か問題あるかしら?」
「今の所、問題はありません」
「そう、良かったわ」
「学園長、後ろの方々は」
キャリーに話し掛けていた、シャルロットと言う女性の後ろに居る女性が訊ねて来た。
暗褐色の髪が後ろの方で括られ、赤い瞳で信康達を見る。
切れ長の眼差しで、こちらもシャルロットと同じ制服を着ている。
「今回の事件の目撃者の証言をもう一度聞きたいと言うから連れて来たのよ」
「・・・・・・一応、身元の確認をさせて貰いたい」
安全の為だと分かっているので、用心しているシャルロット達に信康達は不快に思う事も文句一つ言う事無く、各々の身分証明書を出す。
それを見た二人は、渋い顔をした。
「傭兵か」
「どうする? オリー?」
「我々の立会いの下でならば、良いだろう」
「そうだね。じゃあ、皆さん。どうぞ中に」
シャルロットは中に入る様に促すので、信康達は建物の中に入って行く。