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エピローグ~婚礼から二年が経って

もう本当にこんな拙い話に付き合ってくださり有り難うございます

設定ごちゃごちゃガン積みでゴメン、文章みっちり詰まっててゴメン


 二年後の雪解けの季節の昼下がり。ダキアがアシル駐屯地の執務室で庶事を片付けていると、卓上の水盤が揺れてマナがひらりと動いた。

『殿下聞こえますか』

 マルスの声だ。

「ああ、良好だ」

 水盤のマナを使っての通信だ。元気そうな声にダキアは安堵した。


 実際この二年の間、毎日が怒涛のような勢いで過ぎていった。





 ・グラディアテュール~観察者との親交


 あのアシル城での邂逅から数えて、ヴィナーマが一晩中輝く金色の夜を6回迎えた日。白銀に輝く金属の甲虫に乗った観察者の一行がアンシャル城に降り立った。観察者の医療チーム・ニンティ、アシル神殿のルプス神官、エガルマハのサピエンスによる共同手術が始まるのだ。

 煮沸洗浄消毒に使う火のマナ、水のマナ、患部を照らすための光のマナが大量に用意された清浄な部屋で術は行われた。神殿のルプス神官ソリルがサージャルの下半身のねじれたマナの流れを正しく導き、エガルマハのサピエンスが骨を筋を正しく動くよう整形する。

 その様子を観察者たちはマナの水鏡に酷似した映像化と呼ばれる技術でつぶさに記録を撮った。


【すごい、マナがこんなにはっきり映ってる】

【……素晴らしい!】

【アベストロヒにもこの様子が見えてるかな】

【ああ、見てるさ】


 サージャル大帝の術が済むと、次はダキアの番だ。

 こちらもかなり大掛かりなもので、ルプス神官がダキアのマナに働きかけ、仮死状態にすると、観察者たちは爛れた患部を丁寧に剥ぎ取り、ヴィマーナで培養した淡い金褐色の体毛が密集する新しい皮膚を重厚な金属の箱から取り出し、丁寧に移植していく。エガルマハのサピエンスにとって全く未知の術式だ。

 固唾をのんで見守った。


 尤も、この手術を行うための交渉はスムーズに運んだわけではない。


 観察者は、サージャルを半身不随にした元凶だ。理解を求めるのにはしばしの時間を費やした。

 城の重鎮たちは勿論、実兄であり王太子のシェダル兄は「お前をこんな姿にしたのも観察者なんじゃないのか」と怒りと猜疑を露わにし、エガルマハのサピエンスにも「彼らも観察者の仲間ではあるまいな」と疑心暗鬼の眼差しを向け、シェリアルがシェダルに食って掛かった。最後は喧々囂々侃々諤々の兄弟喧嘩に発展し、最終的に「ならば、父上の判断を仰ごう」ということになった。


 後々、シェダルは「シェリアル姫があんなに気の強い女性だと思っていなかった、びっくりした」とダキアにこっそり本音を漏らしている。


 ダキアの話を聞いた父王サージャルは、考えるように目を瞑って、しばらくした後、低い声で問うてきた。

「ダキアよ、お前にとって観察者は信じるに足る存在だと、そう申すのだな」

「はい」

 真っすぐ曇りの無い返答。

 父王は頷いた。

「ならば、お前の言葉を信じるとしよう」



 そして父王サージャルは、半身不随から、杖を突きながら歩けるまで回復した。

 ダキアも義眼以外はかってと遜色ない外見に戻った。


 ハフリンガーに住まう者達は一様に驚愕し、再び歩けるようになったサージャル陛下の姿に歓喜し涙を流した。

 二年半ぶりにバルコニーに姿を現したサージャルが、赤金の鬣を震わせると、朗々とした咆哮を轟かせ、高らかに宣言する。


「この奇跡は我のみの物に非ず、ハフリンガーのあまねく隅々に伝えるべし」





 ・キンツェム~心配性な大叔父


 半年後、仕切り直しとなった行幸が滞りなく終わって、キンツェム女帝・ヴァルダナールの国葬がしめやかに執り行われた。

 ダキア、シェリアルにとっては番となって初めての公儀だ。

 大公は「義姉上が生きていれば」と悔やみつつ、シェリアルの記憶が戻ったことを我が事のように喜んでくれた。奥方も「頑張ったわね」と涙ぐんでダキアを労ってくれた。

 エガルマハの水鏡での通信を術を伝えると、それから毎日のようにひっきりなしに様子窺いの連絡を入れてくるようになった。

 気持はわかるが、こちらにも公務と言うものがある。

 最終的にグラディアテュールの王太子シェダルがこっそり大公の奥方の耳に入れることで大公ののべつ幕無しの通信騒ぎは落ち着いた。





 ・エガルマハのサピエンス~未知の世界の誘い


 観察者、天人たちは足繁く地上にやって来てはエデンの様々な場所の話を聞かせてくれた。

 ダキアたちも、通訳なしで会話が出来るよう古アシル語を学んだ。天人も、現アシル語を瞬く間に学習し、すぐに通訳なしで意思疎通が可能となった。。

 氷で覆われた海、山から噴き出す火の川、昼と夜が半々に訪れる極地。夜を彩る光の帯。天まで届く砂嵐。ハフリンガーにはいない首の長い羽毛竜の群れ。三蹄重種に鎧を着せたような獣竜。海を薙ぐように進む巨大海竜。

 水鏡を介さない映像というもので、その様子を見せてくれた。

「これマナを使ってないんだよね???」

 映像も気になるが、機器の仕組みも気になるサピエンスたち。その様子を嬉しそうに見つめ、仕組みを説明する天人。そんな中、天人の一人が首を傾げて問うてきた。

【逆に問いたい。マナでは遠方の景色は見えませんか】

 マナはいたるところに存在する。ならばマナを介してハフリンガー以外の地も見ることが出来るのでは、と問われて水鏡で像を結ぼうと試してみたものの、上手くいかなかった。

「原因はなんだ?」

「マナの性質が違う?」

「その場所に存在するマナが手元にないと通じない?」

 エガルマハのサピエンスにとって今までハフリンガーの世界が全てだったのだ。バルバリ山脈の向こう側にも空が大地が広がっているなんて想像もしていなかった。

 様々試行錯誤する傍らで、彼らの中に、ある願望が膨れ上がっていった。


 同じ時期、ダキアには考えるところがあった。

 バルバリ山脈の先に広大な大地が広がっているなんて思ってもいなかった。そこからやってくる走竜。翼竜。竜鳥。なぜこんな広い大陸からわざわざハフリンガーに向かってやってくるのか。

 その答えは天人が教えてくれた。

【彼らはハフリンガー大陸をよい餌場だと考えているのです】

 餌と言うのはハフリンガー大陸に住むサピエンス、ミアキスヒューマンであり、キンツェムのオルコック高原で獲れる麦や野菜、リピッツァ平野の米、グラディアテュールのバルブ山麓で放牧されるヒツジや馬だ。

 我々は竜に喰われるために生きているわけではないし、竜に食わせるために農耕、牧畜を営んでいるわけではない。


 防衛拠点を強化するのは勿論、もっと抜本的な対策を講じることは出来ないか。

 それを知るためには大陸の調査が必要だ。


 そんな時にマルスから、「ハフリンガーの外の世界を、未知の世界をその目で見たい」と申し出を受けた。

 願ったり叶ったり、渡りに船。ちょっぴり心が痛んだが、ダキアはマルスの申し出を快く請けることとした。

 名目は立った。が、エガルマハのサピエンスたちはまだ若い。知恵を持ち、頼れる大人が必要だ。

 そこでダキアはハフリンガー全土に、未知の世界に向かう旅の希望者を募る檄を飛ばした。

「白竜は倒した。しかし第二、第三の白竜が現れないとも限らない。竜の脅威を最小限に抑えるための調査として彼らに同行して欲しい」

 その言葉に男女を問わず500人ほどのサピエンス、ミアキスヒューマンが名乗り出てくれた。

「彼らの再建技術で、息子が動けるようになった、今度は俺が手を貸す番だぜ」

 と、子供に後を託す者。

「ここは家族との思い出が多すぎるから」

 そう言って死出の旅とする天涯孤独の者。

「山の向こうがどんな場所なのか知りたい」

 そんな単純な理由の者もいた。これは、婚礼の朝、ダキアを呼びに来たアシル神殿の狼小坊主だ。


 更にまとめ役としてジウスドラ、そしてカズゥを補佐に付けた。

 カズゥは白竜に縁のあるサピエンスだ。一も二も無く快諾してくれた。

 ジウスドラには辞令を下した。

 ラタキアやカインといるときよりも、カズゥやエガルマハのサピエンスたちと過ごしているときの方が、生き生きしているように見えたからだ。

 ジウスドラは最初固辞する姿勢を見せたが、シェリアルに「彼らを守り、導いてほしいのです」と諭され、最終的に首を縦に振った。


 出立の日は、よく晴れた雲一つない空が広がっていた。

 500余りの人員と騎馬、そして家財や糧食を積んだ三蹄重種が100騎、すでに準備を整えて、後は挨拶を済ませるだけだ。

「元気でね」

 シェリアルが、マルス、ネルガル、フルリ、シャルマと硬く抱擁を交わす。彼等は、シチフサとエンキの解決の糸口を見つけてくれた恩人。大切な仲間だ。

「シェリアル様もお元気で」

 泣きじゃくりながらフルリが別れを惜しんでシェリアルに抱き着くと、さらりとしたシェリアルの金褐色の髪が腕にかかる。色々あって短くなった髪もずいぶん伸びた。

「最悪にっちもさっちもいかない状況になってしまったら天人に助けを求めろ」

 冗談めかした口調だが、出立すればもうダキアにはしてやれることはない。想像しうる最悪の情況。そんなことにならないよう祈るしかできないのが歯痒い。

 すると、天人が、頼もしい言葉で後を引き取ったのだ。

【私たちも危険のないよう常時監視しますよ】

 有難い。百人力の加勢だ。


「ダキア殿下への恩義は忘れません。いえ、きっとずっと伝えていきます」

 面映ゆい言葉を残して、調査隊は山脈を目指して進み始めた。






 ・ウルススの砦

 バルバリ山脈の砦は信じられないくらい飛躍的な迎撃機構を備えた。

 観察者たちが、上空から撮影した砦付近の図面を頼りに橄欖石のマナで土砂を掘り、壁を築いた。上部は馬を四頭並走させても余裕のある幅を持たせ、随所に見張り台と防衛用の要塞兼補給基地を設置した。

 常時50人から100人が入れ代わり立ち代わり駐屯し、兵站の賄いや鍛冶や補修を行うのだ。

 砦、拠点というより、長城と呼ぶにふさわしい代物だ。


 更に山を越えて侵入してくる走竜を断崖絶壁に誘導する偽の切り通しも設置した。助走を付けて抜けられそうな斜面は大枝や柴を束ねた柵で塞ぐ。

 走竜たちは偽の道だと知らぬまま谷筋から尾根づたいに誘導され崖から落ちてゆく。

「はっはあ、壮観だな」

 ミザルが急流を挟んだ隣の峰に目を凝らす。

 今、走竜どもはまさに罠に嵌り、断崖絶壁で行き止まりに陥っていた。元来た道を引き返そうにも、後続が後からあとから押し寄せてくる。崖っぷちで足を踏み外した走竜が、仲間に掴まろうとして一緒にもつれて峰の天辺からぽろぽろ落ちてゆく様子が見えた。

「彼らには気の毒だけど、仕方ないね」

 彼らなりの生存戦略は、ハフリンガーに住まうものにとっては脅威でしかない。

 ただ、今は効果を発揮している誘導路だって、好奇心に満ちた個体が別の谷から迂回路を探して、新たな進入ルートを見つけないとも限らない。


「その時はその時さね」

 ミザルは鉤づめを空に向けて指さし、茶化した声で笑う。

「もしかしたら天人の閃きとやらで竜との第三の共存共栄の道が見つかってるかも知れねぇからな」

「そうだね」

 そんな話をしながら、長い坂を大分下っていったた。


 マルスらエガルマハのサピエンスは、サピエンス、ミアキスヒューマンの多くの仲間たちと、天人の語ったバルバリ山脈の反対側の未知の世界を目指している。彼女が隊の最後尾、殿だ。

 竜には来るなと言っておきながら、サピエンス、ミアキスヒューマンが竜の住まう大地に進むのは道理に合わない事は理解している。

 だが、そこにまだ解き明かされていない手つかずの謎があったら。

 好奇心は生きる原動力だ。探求心は押さえつけることなどできない。制御されることを望まない。


「じゃあ、行くね」

 名残惜しそうにシャルマが微笑むと、騎馬の腹を軽く蹴った。

 ミザルと話しながら歩を進めていたから、本隊と大分距離が開いてしまっている。

 のんびり歩を進めていた蹄が、軽やかなリズムを刻み始める。

 ミザルは遠ざかる背中に向かって、大声で叫んだ。

「元気でな。狼煙が見える範囲ならいつでも駆けつけてやる」

 サピエンスはか弱い。本当は心配だ。出来ることなら近くでとどまってほしい。ミザルはその本音は言葉にせずに飲み込んだ。




 ・新天地

 バルバリ山脈を越えて新天地に到達した面々は、興奮しきりで状況を報告してきた。

 雨も降らないのに突然発生する濁流を、ジウスドラはバルバリ山脈の雪解け水じゃないかと推測している事、濁流に乗ってみたことのない川魚が大量に現れること、その魚を狙って小型の竜鳥の大群が姿を見せること、馬に似た竜の大群が水を求めてやってくる壮大な眺め、そういったハフリンガーではみられない自然の雄大な営み。

「殿下がカズゥさんとジウスドラさんを着けてくださらなかったらどうなっていたか」

 それから、砦から大分下った麓までミザルが送ってくれたこと。砦で、ナランがチャラワンとの子供を孕んだ事、ジウスドラが常時清水の湧くオアシスを見つけ、そこに拠点を築いたこと。調査に向かう天人も気が付いたようで、上空を三度輪を描くように旋回していったこと。拠点でネルガルとフルリの間に子供が出来たことなどを調査隊の面々がかわるがわる生き生きと報告していく。

「僕がフルリさんの仔を取り上げたんですよ、サピエンスの赤子なんて初めて見ました」

 狼小坊主が、いつもダキアの傍にいるはずのシェリアルがいないことに気づいた。

「シェリアル様は?」

 何かあったのか心配げな表情を浮かべている。

「今ちょっと臥せっていてな、なに、シャオチェが付いているから問題はないさ」

 伴侶の病気なのに、ダキアがさほど心配していないどころか、含み笑いまで浮かべている事に狼小坊主は首を傾げ、それから「そんなに冷たいとシェリアル様に愛想を尽かされますよ」と不満げに肩をそびやかす。

 その様子にダキアは体は大きくなったがまだ子供だな。と笑み崩れる。

「では、また報告をいれますね」

「ああ、また」

 賑やかな通信が終わる。執務室には静寂が戻ってきた。

 再び、業務にもどるか少し休憩するか、少し思案し、休みを入れることにしたダキアは窓際に歩み寄って伸びをする。

 少し前は頃合いを見計らってシェリアルが水と菓子を持ってきてくれたのだが。


 夫が妻の病気に心痛を覚えない理由はただ一つだ。

 まさか、種が違うのに子を授かるとは想像もしていなかった。これもエンキの言祝ぎと言うやつなのだろうか。だとしたら、この神託の婚礼には感謝せねばなるまい。


 燦々と日が射す窓の外には蓮星、ガリカ改め天人の船ヴィナーマが浮かんでいる。

 さて、我が子が生まれたら、マルスたちにも天人たちにも紹介しないとな。


 観察者、天人は今もヴィマーナにいて、惑星エデンに生きる者たちを見守っている。




 終



なにか、忘れてる伏線などございましたらこっそり教えてくださると助かります


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