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大団円~シチフサの浄化

 一方、ダキアと共に、観察者とシチフサの会話を翻訳するルプス神官と、その語訳を考察するエガルマハのサピエンスたち。


「《鉱石ではない。死んだ骨で出来た。限りなくマナを吸い込む》」

「何のことだろう?」

「骨がマナを吸い込む、治癒を指しているのかしら」

「《ブラックホール》……知らない単語だ。なんだろう」

「前後の文脈から、吸い込むものを差してるみたいだけど」

「《限りなく美しい螺旋…際限なく続く、マナを閉じ込める》」

 ナランとソリルの訳に、何か思いあたる物があったのか、ネルガルが息をのんだ。

「虹の渦の事じゃ……」


 バルバリ山脈の頂近くでは、虹の渦の他にも、虹色でなはいけれど規格外に大きな蝸牛の殻、エビやザザムシなど、水棲昆虫に似た何かの姿をそっくりそのままとどめた奇妙な石が見つかることは知られていた。

 だが、なぜ。どうして。


「天人はあの奇妙な石群の成り立ちを知っている?!」

「そのようですね」

 想像だにしなかった展開に、興奮しきりのマルスとネルガル。


 歴としてそこにあるのに誰も知らない、答えられない謎。

 その答えを天人は知っている。

 エガルマハのサピエンスの中で、警戒するべき不審な者から、叡智を凝縮した存在に姿を変えた瞬間だった。



「《夜間、蓮星、ガリカが空にある時はマナは出てこない、とエンキ様は語られた》…天人たちは本当にマナが見えてないんだね」


 ダキアの義眼を通じて水鏡に映る観察者の姿に、マナはない。

「マナを持たない存在が空にあるのを感じ取っているのかも知れない」

「またよくわからない単語が出てきた」

「何度かシチフサが口にしている《アベストロヒ》という単語、観察者の固有名詞なのかな」


「けど、意味は分かります。《天人たちもマナを視えるような何かを作った、それはシャイヤー湾で起きた、奇跡を得た》と言っている」

 カインとリョウが「あれか」「あのときの」と顔を見合わせる。

 観察者の襲来時、参謀ジウスドラが観察者はマナにひかれていると指摘した。そこで、マナの入った水晶を海に向けて放った。後を追うように観察者たちは飛び去った。




 訳を聞きながら、ダキアは全く違う事を考えていた。

 マナというのは基本死ぬと空に散っていくものだ。留まることはない。マナが散らずに凝ったまま留まること自体が、あり得ない。

 そのあり得ない現象を引き起こしたのが、虹の渦が作り出した冷たい空虚の残滓、海のマナ。


 しかし、シチフサは虹の渦とは全く無関係だ。どうしてこのシチフサは消えずにとどまり続けていた?

 その疑問は解消している。

 シェリアルに礼を伝えたかった。あの観察者に再会したかった。それが心残りだった。


 では、心残りが自ずと解消されるようなことが起きたら?




 その時だった。

 水盤に映るシチフサの姿が急激に変化するのが分かった。シチフサの内側から白く温かい光の靄があふれ出し、自身を浄化し始めたのだ。

「あ…っ」

「白いマナが、内側から…」

 さあっと光が舞い散るように、シチフサのマナが空に溶けて消えてゆく。

 天人の目から、大粒の涙が零れ落ち、《ナブネイド、ナブネイド》と小さな慟哭をあげた。


 ダキアにとって、マナを持たぬ観察者にも悼む心があるという現実は少なからず衝撃だった。


 ではなぜ行幸を妨害した。父の治癒の邪魔をした。

 あれもマナを知りたいが故の行動だったのか。


「マルス、旧アシル語は理解できるか?」

 はい、とマルスが大きく頷く。

「ならば、俺の言葉を観察者に訳してくれ」



 そう命じて剣を抜き、刃を観察者の首にあてがった。

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