前日譚・この世界の魔法の始まり カタストロフ
本家の兄、分家の弟はそれぞれ砂漠と密林に居を構えた。堅牢な城を建て、強固な外壁と堀で囲い、守備を固めるよう命じた。
お互い疑心暗鬼に駆られていたからだ。
兄は「魂を封じる秘儀を知るものは俺だけでいい。弟も本家も滅ぼしてやる」
弟は「兄が攻め込んでくる前にやらなければこちらが殺される」
そうしてお互いマナの禁忌を悪用に行きついた。
ついてきた配下の者たちは唯々諾々、山から森から平野から草原から生き物を片っ端から捕えて城に運び込んだ。
謎だった虹の渦の正体もまもなく氷解した。
砂漠、密林の集落がそれなりに都市機能を備えた頃、サピエンスだけで構成された宝石の行商人が「珍しい石を持ってきた」と言ってやってきた。貴石宝石の採掘と行商、取り扱いはマナを扱えるミアキスヒューマンが同伴しているのが普通だから、サピエンスだけというのはかなり怪しい。それに本家に出入りしていた商人はみな顔を見知っている。この商人は見覚えがない。指摘すると下卑た笑いをうかべて「先祖がちょっとやらかしましてね。本家の集落には出禁喰らってるんでさぁ」と返してきた。
「ルプスよ、どう思う」
「分かりかねます我が主様」
獣皮をなめした革袋から、赤くとろりとした質感の石がちらりと見える。あんな色味の石は記憶にない。
「どれ。見せて見ろ」
本家の兄が命じ、商人が恭しく石を取り出して見せる。
それは巻貝によく似た形状の色とりどりの輝きをまぶしたような色合い。まるで巻貝が宝石になったかのようだ。
「これだけの上物はなかなかございませんや」
目にした瞬間、商人の口上を遮ってひぃと悲鳴が響いた。
「ななななななんだその禍々しい石は!!どこでそんなものを手に入れたんだ!」
本家の兄の傍に控えているルプス系ミアキスが叫んだのだ。
「落ち着け、落ち着かぬか」
本家の兄の制止も利かず身体中の毛という毛をぶわっと逆立てルプス系ミアキスが吠えたてる。まるで気が狂ったかのようだ。
「帰れ!二度と来るな!!」
威嚇というより半ば半狂乱のルプスに追い立てられて商人が館から逃げるようにまろび出ると、ルプスは今度は本家の兄に向き直り、額まで床につけて這いつくばった。
「どうかあの者を取り立てることはおやめください我が主様」
こんなルプスの姿は初めて見る。いつもはお調子者の太鼓持ちなのだ。本家の兄は怯むと同時にいぶかしく思った。
広間を見渡せば種もさまざまのミアキスヒューマンたちがそろいもそろって身体中の毛を逆立て腰を抜かし耳を寝かせ尾を腹に付け完全におびえきった醜態を晒している。サピエンスはそのさまを困惑した表情でに見つめていて、なかなかに異様な空気が立ち込めている。
ミアキスヒューマンがそんなに恐れ怯えるとはどういうことだ。
「ルプスよ、あの石がどうしたというのだ」
「あれは生命の理を秘めたものにございます」
あまり学の無い本家の兄同様ルプスも浅学菲才なのでお互い共通の認識を得るまで少々時間を要したが、どうやらあれは石ではなく生き物が石化したものであること。それがミアキスヒューマン達を怯えさせる要因であることは兄はどうにか理解した。
「つまりあれは死骸というわけか」
確かに死骸にマナを封じるというのは聞いたことがない。同時に本家から出禁を喰らった理由がこのミアキスヒューマン達の反応だとしたら、あの不思議な石は本家にはないという事になる。
一方、商人は密林の分家の弟にも虹の渦を売りつけに向かい、同じように分家の弟の相棒であり傍に仕えるルプスに追い出されていた。
「あれが虹の渦の正体か」
良くも悪くもマナのことになると興味津々の分家の弟を従者のルプスが諫める。
「おやめください御主人様、あれは死んだものが土へと還ることなく残ったものにございます」
「そんな現象があるのか」
「はい、あのように輝くものは私も初めて目にしましたが」
「世界は広いな」
分家の弟はしばし感心した後、シャイヤー湾を挟んだ砂漠にいる本家の兄のことを考えた。あの兄なら虹の渦をどうするか。
「ルプスよ」
「何でしょう御主人様」
「落ち着いて聞いてくれよ?あの虹の渦、本家の兄はどう扱うと思う?」
ルプスは体毛を総毛立てながらも答えた。
「無用の長物です。手に入れたところでミアキスヒューマンは誰も触りたがらないでしょうから」
「なるほど」
しかし兄は粗暴で狡猾な男だ。自分を追い出した本家を出し抜けるとなったらどんな手段を講じてでも虹の渦を手に入れるだろう。マナを封じる実験だって嫌がるミアキスヒューマンを拷問にかけて無理やり行わせることも辞さない男だ。
「ルプスよ、少し出かけてくる」
「どちらに?」
「俺は主だぞ?主に意見する気か?馬を引け」
そういわれては仕方ない。ルプスは分家の弟を心配そうに見送った。
ルプスの不安は的中した。分家の弟は、さきほど城から追い出された商人を追いかけ虹の渦を贖ったのだ。
「ご主人様!なんという!」
分家の弟はルプスの憤慨も意に介していない。
「なにも使おうというのではない、俺が虹の渦を占有すれば本家の兄も手出しは出来ないと考えたのだ」
小心者だがマナの研究には熱心な分家の弟にはもう一つ目論見があった。虹の渦を見ても恐れない、できれば年端のいかない子供のミアキスヒューマンを探して連れてくるよう宝石商人に依頼していた。
虹の渦にマナを封じるとどんな現象が起きるのか。研究書にも書かれていない。つまり誰も試していないわけだ。
分家の弟は口止め料も兼ねて法外な価格で虹の渦を贖ったが、商人もこの石が法外な価格で取引されるとなったら砂漠に再度出向かないわけがない。今度はサピエンスに言伝を頼み、ミアキスヒューマンのいない郊外を待ち合わせ場所に指定して再交渉した。
「密林の城ではこのくらいの価格で召し上げましたがねぇ」
分家の弟が提示した三倍の法外な額面をふっかけ、巻き上げることに成功した。
遊ぶ金が無くなったらまた鉱脈で虹の渦を採掘すればいい。虹の渦様様だ。
本家の兄は盲目のミアキスヒューマンに従事させることで虹の渦にマナを封じる実験を行った。
「領主様大丈夫なんですか?嫌な感覚がしますぜこの石」
盲目のアライグマは耳を寝かせて念を押す。
「いやな感覚?」
「なんっていやぁいいんですか、こう意識が引きずり込まれてしまいそうな。普通の石じゃこんな感じはしませんや」
確かに渦というものは巻き込んだものを飲み込んで返さない。ミアキスヒューマンにはそれを異様な恐怖として肌で感じるのかもしれないな。
「気のせいだ、仕事に取り掛かれ」
皮肉なことに分家の弟もその結論にたどり着いた。条件を満たす従順なミアキスヒューマンが見つからなかったからだ。だから彼は、初代から連綿と続く相棒であり従者である狼ミアキスヒューマンの目を斬った。
「すまないな、ルプスよ。だが、お前なら分かってくれるよな?あの兄を出し抜くにはお前の協力が必要なんだよ」
密林と砂漠の当主が互いいがみ合った末にマナの開発に勤しんでいる報告はアシルの本家にも届いていた。
時の勢いで兄、弟を支持して移り住んだサピエンス、ミアキスヒューマン達が失望し憤り、領主に責務を果たすよう働きかけてほしいと嘆願、陳情に来たからだ。
「城外に竜がうようよいるのにマナの開発に明け暮れて困っている」
「灌漑設備も整備されていない、農地の耕作も出来ない」
「馬を飛ばし、ほうほうのていで逃げ出してきた」
双方の領民を顧みない施政に、出て行った幾割はアシルに戻ってきたりもした。アシルの総本家は出戻ったサピエンスとミアキスヒューマンを咎めることなく受け入れた。あの二人を抑えられなかった、抑えられずに放逐した、初代から連綿と続く、マナを扱い管理する者としての責任を放棄した負い目があったからだ。
総本家の長老は戻ってきた者を一堂に集め、砂漠、密林の様子を聞くことにした。つらいがそれも責務だ。あの二人がマナの悪用にたどり着く危険まで考えが及ばなかった責任がある。
「話してはくれぬか」
長老に促され、戻り組は口々に城で見たものを話し始める。
「まずさせられたのは、城づくりです。城壁の周囲に堀を巡らせて物見の塔をいくつも建てて」
「その時は別に不自然だと思わなかったです、だってここと違って、これから開拓をしなきゃならないんですから」
「遠くにいても竜がうろついているのが分かるようにしてくれているものだと思っていたんです」
それが間違いだと思い始めたのは城が完成して間もない頃だった。
城外で開墾をしていた農夫が小型の走竜に襲われた。すぐにサピエンスで編成された親衛隊が駆け付けたが、農夫を助けようとせず、竜を瀕死まで追い込んだところで城内に運び込んだのだ。
「ひどい怪我だったのに、親衛隊は助けてくれなかった」
長老は不審に思った。その場にいた彼も農夫もマナを持っていなかった?
「あなたはマナを持っていなかったのですか?」
はい、と俯いて続ける。
「持っていたマナは城で管理すると言われ、全部取り上げられました」
知らせを受けた農夫の妻がどうして助けてくれなかったのか問いただすと言い残して城に出向いた。彼女は帰ってこなかった。
「マナを持っていなければ城外の開拓もおちおち出来ません」
総本家当主である長老と側仕えのルプスは顔を見合わせた。
二人を勘当した後、「研究書が無事か確認した方がよいのでは」というルプスの助言に従って宝物庫を確認した。研究書の封が切られていたのを確認した。宝物庫に忍び込んで盗み見たことは咎めるべきだが、持ち出されなかっただけマシだと、あの二人にもまだ良心が自制心があったと善い方に解釈した。
本当は、全く逆だったのではないか。
夜間の灯に始まって治癒は元論、解毒、害獣避けとマナは今では身を守るための護身具だ。それを取り上げるという事は。マナの凝縮を行ったのではないか。
「変な石まで持ち込んで、もはや付いていけませぬ」あの場に居合わせたイタチのニアミアキスは思い出すのもいやだという風に毛を逆立てて身をすくませる。
「変な石?」
サピエンスがイタチの発言を補足する。
「見た途端ミアキスたちが脅えきって。あんな光景は初めて見ました」
「それ、どんな色でした?」
「色んな色が入り混じって見えました」
長老とルプスはその場に崩れ落ちた。
虹の渦だ。
砂漠の禁忌のマナが完成した。
禍々しい光を帯びた虹色の輝きを纏ったそれは玉座の背面、領主の頭上に嵌め込まれた。
ミアキスヒューマンたちは燦然と輝く禁忌のマナを恐れて領主の許に近づかなくなった。
側仕えのルプスも、玉座の間の扉からこちら側には立ち入りたくない、と震えながら暇を乞うた。
本家の兄はせいせいした気持ちだった。
ミアキスヒューマンは使えない、信用できない、役に立たない。いちいちこのマナは使わない方がいいだの、この石は質があわないだのと、水を差しやがって。
あいつらはマナの発動だけやっておればよいのだ。
そんな時にアシルの総本家長老直々の書を携えた使者が来た。「なぜ公務を行わない」と詰問された。
「決まっている。分家の弟が攻めてくるからだ」
「何故そう言い切れるのです。確証なんてない。全て思い込みです」
使者は続ける。
「領民からマナを取り上げたのは何故です」
「必要ないからだ」
「あなた様を慕ってついてきた者たちですよ。あなたには竜の脅威から民を守り庇護する責任がある」
「ふん、ならば弟の許へ行き、密林で生産した食糧を毎年七、いや八割寄越すよう取り付けてこい。出来たら考えてやる」
同じ頃、密林にもアシルからの使者が来て公務を行うよう分家の弟を問いただしていた。
「何故領民の庇護を放棄した、答えよ」
使者は本家筋の者だ。愚挙を犯した分家に対して言葉使いも自然ときつくなる。
「そんなの、砂漠が攻めてくるからだ」
純金の箱に納められた禁忌のマナを取り上げられぬよう抱えている姿は実に小心者らしい。
「確証もないのに言い切るか」
「攻めてこない保証だって同じくらい無いじゃないか」
「禁忌を行うことが領民のためか?」
「やらなければこちらがやられると言っているじゃないか、それとも何か?あの横暴な兄に唯々諾々従えと??そんなに言うなら、砂漠から武器という武器をこちらに引き渡すよう伝えるがいい!出来たら考えてやる!」
この頃、夜明け前になると気味の悪い青緑の筋雲が見えると騒がれ始めた。
「雲のようでありながら形が変わらない、風にかき消されることがない、陽が昇ると見えなくなる」
空に起きた得体のしれない現象を、禁忌に触れたからだとミアキスヒューマンは怯え、サピエンスも気味悪がった。その青緑の筋雲は日を追うごとに長く伸びていったからだ。
七日経ち、十日経ち、青緑の筋雲は成長しながら徐々に日の出の方角に向かって近づいているように見えた。
その頃には青緑のそれは筋雲ではないとはっきり分かるようになった。目を凝らすと雲というよりも密集した何かがじわじわと蠢いているように見えた。
不気味な現象は地上でも起きていた。金色の光が弱まる時期の夜にはマナが活性化する。それがぴたりと止んでしまった。異様な静けさが相まって不気味さに拍車をかけた。
砂漠の本家の兄も密林の分家の弟も、わずかばかり残った領民が異変に脅えて城に匿ってくれるよう懇願しても耳を貸すことはなかった。
一月経って本家の兄も分家の弟もしびれを切らし、堪忍袋の緒を切った。
「いいだろう弟がそのつもりならこちらにも考えがある」
「やられるくらいなら先にやってやる、折れない兄が悪いのだ」
その日は金の光の無い夜を迎える時期だった。気味の悪い筋雲は姿を消していた。
兄は側仕えであり相棒でもあったルプスの首に縄を着けて引っ立て塔に登った。ルプスの手首をこれでもかというくらい強く打ち据え、無理やり禁忌のマナを掴ませ麻縄で縛り上げると、ルプスを抱き上げその腕ごと天高くかざした。
「マナよ、敵を討て、撃ち滅ぼせ。密林を焼き払え」
「もうやめてください我が主様、こんなことをするためにアンタに仕えたわけじゃない」
ルプスは兄の腕を振りほどこうともがき、禁忌のマナを手に縛り付けたまま塔から落ちた。
弟も盲にしたルプスを騙して城の塔に登ると、その手に禁忌のマナを握らせ、驚いて悲鳴を上げるルプスの腕を斬り落とし、腕を拾い上げて空に向かって突き上げた。
「マナよ、敵を討て、撃ち滅ぼせ。砂漠を塵も残さず滅せよ」
「ご主人様は変わってしまった、俺はもう付いていけませぬ」
ルプスは塔から身を乗り出し、飛び降りた。その際弟にぶつかり、弟は禁忌のマナごとルプスの腕を取り落とした。
双方の禁忌のマナは地に落ちて砕けた。
兄と弟の目には見えなかったが、虹の渦が割れた瞬間、封じ込めた生き物の魂が火柱のように噴き上がり、空に昇って行った。
それからしばらくして天頂に輝く陽から数多の光る矢が降り注いだ。
「やあ、星が落ちてきたぞ!!」
「やったぞ、私は成し遂げた!!」
流星の雨。最初のうち、それは壮大な景観に見えた。やがて甲高い風切り音を伴って、地響きにも似た恐ろしい轟音が響き始めた。光の矢が雲を突き抜け地上に到達したものは大地を抉り、周囲の木々を、集落の屋根を壁を吹き飛ばした。塔の天辺にいた兄と弟も爆風に攫われた。
こうして兄アンシャルと弟キシャルは初代から連綿と続くマナの研究に於いて、誰もが忌避してきた「マナを兵器にする」実験を成し遂げ、ハフリンガーの大地は荒廃した。
砂漠、密林の禁忌のマナから立ち上る、凝縮された魂の柱はアシルからもはっきり見えた。澱みくすんで不気味な色をした命の柱。捩じれ縒り合わさった馬の脚、鳥の嘴、竜の牙、猪の鼻先、猿の頭、鹿の枝角、鬣、蹄、鰭、羽毛、封じられた生き物とおぼしき片鱗がかろうじて窺える。それが降り注ぐ光の矢に纏わりついて地に誘い、業火の雨となって次々地上に落ちてくる。砂漠も密林も竜の山脈もこの森のアシル集落にも分け隔てなく降り注ぐ。
自然のマナには意思がない。思考がない。だから封じ操ることが出来た。
逆に言えば、意識のあるマナ、つまり魂を、無理やり生を絶たれる形でマナとして封じたら。
際限なくマナを喰らう虹の渦に封じ込め、解放したらどうなるか。
この地獄絵図が答えだった。
相棒のルプスから様相を聞かされた長老は放心し、へたり込んだ。
「お前の話が紛う事無き真実なら、あれはマナが呼び寄せているという事か」
「残念ながら」
「この惨事は儂の咎だ」
「それは違います、君主に責はない」
ルプスは胸中でごちる。そうは言ってはみたが、この惨事はどこで止められただろう。君主には申し訳ないが、あの兄と弟ではいずれ似た事態を引き起こしたであろうことは明白だ。かといって、ではこの事態をどうやって収束させればよいのだ。わからない。
長老が、へたり込み俯いたままローブの裾を握りしめ、ルプスを呼ぶ。
「ルプスよ」
その声音にただならぬ何かを感じた。
「はい、我が君主」
長老はしばしの間言いよどみ、すすり泣いているようだった。
「お前の命を儂にくれるか」
流石に返答に詰まった。命をくれるか。その意図を図りかねたからだ。
「儂は、マナとなって災禍をとどめ浄化しようと思う」
「!!」
マナ最後の禁忌。【ミアキスヒューマンまたはサピエンスの魂を封じる】
長老は、自らマナと化してあの荒ぶる魂を鎮める。そう言っている。
「じゃがの、マナとなっても、あれが見えなんだらなにも出来ぬでの」
サピエンスには自然に存在するマナは見えない。石に封じたマナしか見ることが出来ない。つまりは目となってくれ、という事だ。
否も応もない。
「お供します、我が君主エンキ」
天から降り注ぐ劫火が弱くなってきた頃、アシルのでは長老エンキと傍仕えのルプス、そしてルプスの愛鳥が互いをかばい抱き合うように事切れていた。
その胸には蜜色に輝く大粒の琥珀を守るように抱えていた。琥珀の中には三つのマナが淡くぼんやりと輝いている。
長老エンキと相棒のルプスの魂だった。
「兄アンシャル弟キシャルの起こし災禍は我らが100年かけて浄化せし。其の暁にアシル、キンツェム、グラディアテュール間の婚姻を執り行うものとする」
生き残ったミアキスヒューマン達は、なんとか生き延びる道を模索していた。
密林、砂漠に移住したサピエンスは殆どが死に絶えていたため、砂漠はシンバ系が先導し、密林ではチグリス系が群れを率いた。 アシルではパンテーラ系が民をまとめ、それぞれわずかに残った民衆と共に復興を始めた。
敵も味方もない。お互いが協力し合った。
アシル集落の七、八割を占めていたサピエンス、ルプス系は忽然と姿を消していた。