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アシル城

 ネルガルが、泣き崩れるマルス、フルリ、シャルマを叱咤し、立ち上がらせる。

「クマルビ宮司の意向に反対したから、二度と戻らない覚悟でエガルマハを出奔したんでしょう?」

「ネルガルあんたそんな言い方ッ!」

 シャルマがネルガルの襟を掴んで食って掛かるが、ネルガルは冷静だ。

「私の言っていることは間違ってますか?」

 この10年険悪な関係ではあったけれど、それでも肉親だ。マルスの中には曾祖父クマルビをエガルマハを水没させるまで追い込んでしまったのはこの10年の不仲に加えて自分の出奔が決定打になったのではという慚愧と後悔の念が渦巻いている。だからネルガルは憎まれ役を買って出た。いつまでも自己嫌悪に苛まれ内罰し続けるよりは憎悪する相手がいる方が精神的に楽になる。

 だがそれはマルス達の中でのクマルビの立場がネルガルにすり替わるだけだ。

 だから、ダキアは彼らの諍いの中に割って入った。

「やめないか」

 クマルビに頼まれた以上、彼らは仲間で、自分は保護する立場だ。意思疎通の齟齬、思惑のすれ違いで相争わせたくない。諍いは好むところじゃない。

「今クマルビ宮司が挨拶をしていった」

 フルリ、シャルマがダキアの方に顔を向けるが、煙に巻かれているんじゃないかといった猜疑の色が滲んでいる。

 それは仕方のないことだ。ダキアは義眼を指さし、更に続けた。

「エガルマハでの我々に対する非礼を詫びていたよ。そして君たちを託して消えていった」

 シャルマがネルガルの襟から手を放し黙り込む。シャルマの肩に手を添え、フルリが嗚咽を堪えて口を開いた。

「分かってるんです、クマルビ叔父さんがこんなことをしたのは、私たちがエガルマハに戻ってこないようにしたかったんだって」

 ぐしぐしと泣きながらシャルマが後を引き取る。

「だけど、こんなあんまり急すぎるから感情の整理が追い付かなくて」

 泣きはらした目のマルスが顔を上げた。

「ダキア殿下、見苦しい姿をお見せして申し訳ありません」



 そうしてちょっとの間、全員でクマルビを悼んだ後、アシルの城に向かった。


 アシル城は小さい。ダキアたちは知る由もないが、ここは100年前、エンキの離宮だった。だからグラディアテュールのアンシャル城、キンツェムのキシャル城と違って、防衛機構は備わってない。間取りも宮として最低限の機能を満たしているだけだ。その代わり、広間や食堂、生活の場である奥の居間や寝所からはアシル湖を一望する素晴らしい眺望を楽しむことが出来る。

 今はそんなことにうつつを抜かしている場合ではないのだが、、父王サージャルやシェダル兄に伴って何度もこの景観の素晴らしい小さな城に訪れる度に、シェリアル姫の様子や自分に対する気持ちを聞きたくて、だけど「まだ鬣も生えていない小童のうちから異性を気にかけることだけはいっちょ前のおませさん」と思われたくなくて聞き出せなかった事を思いだし、ダキアの中に改めて不思議な気持ちが沸いた。


 ここはシェリアル姫が生まれ育った城なのだ。


 同時にダキアには思うところもあった。

 エンキだ。

 発端の婚礼の神託を残したのもエンキなら、姫の記憶を消し、俺を砂漠に放り出し、婚礼行幸の妨害をしたのもエンキ本人だ。

 この神託の婚礼自体、言祝ぎと称して100年前の大災害を逃れたサピエンスを地上に還すことが目的だった。

 だが、その言祝ぎは宮司クマルビによって阻止された。残された子供たちは気の毒だけれど、あのエガルマハの住人が滅んだのは正直自業自得、因果応報だ。彼らが地上にやってきたところで、我々と上手くやっていけるとは思えない。

 反面、フルリ、シャルマの存在が、ウルススとサピエンスの蟠りを解消した。

 俺はエガルマハの技術で失った視力をとり戻すことが出来た。


 一事が万事起きたことの全てにつじつまが合わない、整合性がとれない。

 だからエンキがいるなら問いただしかった。

 お前はこの神託を与えて何がしたかったのだ?

 シチフサの存在も分からない。白地に七つの黒斑。中ほどで折れた耳。黒い大きな瞳。そんな姿のミアキスヒューマンなんて聞いたことも見たことも無い。

 どこから来たのだ、お前は。何故シェリアル姫に固執する。



 城下の住人と駐屯地の兵士たちは全員城にいる。クマルビの発言を確認した。ナランがマナを使った水鏡でアシル城の中を調べると、アルハラッド王とシュクル妃を始め、城仕えの侍従女官侍女、グラディアテュールの兵士、城下の住民と思しき大勢がうっとりとした顔で眠っている。そう報告してきたからだ。

 覗いてみると、玉座には王妃夫妻、玉座の段下にはラタキアとジウスドラが、少し離れた辺りで城への使いとしていかせたはずのシャオチェが、護衛に付けたニアミアキス二人によりかかるように枕にして眠っている。


「間違いありません、エンキのマナのなせる術です」

 一同は顔を見合わせた。

 



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