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叶わなかった願い「100年たって再び民が共存の意思を示した時には」

caution:最後の方に地震と水害描写があります。ご注意ください。

 エンキが地上の者たちの記憶を消したのは初代の頃に確かにあったはずの共存共栄、の関係に戻ることを願っての事だった。

 地下のサピエンスたちが歴史を鑑み過ちを省みて再び地上のミアキスヒューマン達と共存を決意してくれれば。

 それがエンキの願いだった。



 クマルビ110歳。大天災以前の地上を知るただ一人の存在である。

 あの日のことは昨日のように思い出せる。昼頃に夜の星のようにキラキラ瞬くわけでなく、とても小さな陽光を一点に凝縮したような緑色を帯びた光芒の欠片が幾つも空を横切るのが見えた。

 それが最後にみた地上の光景だ。

 神殿に避難するように神官のルプスや大人たちに言われ、言われるままに大人の誰かに手を引かれて暗い階段を降りた。


 それがグラディアテュールのアンシャルとキンツェムのキシャルがマナを使って引き起こした人災だというのは後々で父から聞かされた。

 砂漠と密林に別れる以前のアシルの様子で薄々察してはいたから、息子二人の暴走を止めなかった、煽った、煽動した唆した連帯責任としてアシルの民が罰を受けるエンキの采配には納得ができなかった。最初からアンシャルキシャルを処罰すれば、それで済む話ではないか。そんな蟠りがずっと燻ぶっていた。年を経てクマルビにも曾孫が出来る頃には、エンキにそれが出来なかったのは肉親の情と言うものだと言うことは理解した。

 それはそれとして、地下より出でるためには、民のこの傲り高ぶりを改めさせねばならない。クマルビはことあるごとに大災害の起きた日の凄惨な有り様をかたってきかせた。

 しかしクマルビの努力は徒労に終わった。


 17年前、極北に生息する大型翼竜が飛来した。その白い候鳥は地上を良き餌場と認識したのか、以来、雪の時期になると必ず姿を現し、地上に甚大な被害をもたらしていった。クマルビはこれを蔓延する歪曲した神託を糺し、地下の住人たちに改心を促す転機と考えた。そこで今から10年前、「我々は10年後、ともに生きることになる地上の者たちに助力するべきではないか」とエガルマハの住人を一堂に集めて問うた。

 しかしエガルマハの住人の答えはクマルビを絶望させた。

「なにをどうするというのだ。食料の供給か?技術供与か?」

「そんなことをしたら我々が地下で暮らしていることを知られてしまうではないか」

「滅多にない娯楽をとりあげる気か」

 その年は白竜を討伐できるか賭けをするものまで現れた。賭けは大盛況で住人は熱狂した。


 流石にクマルビも悟った。この者共は地上に帰すわけには行かない。

 いずれ確実に災禍になる。ならば、ここで過去を清算するべきだ。そう考えた。

 その憎悪はエガルマハの民に向けられた。怒りの矛先はエンキに向けられた。

 いっそこの者たちの記憶を消してくれれば良かったのだ。そうすれば全て丸く収まったのに。

 徹頭徹尾己が愛されることだけを望んでやまなかった。そんなに民に愛されたまま死にたかったか。なにがアンシャルキシャルの神話だ。ぬけぬけとほざきやがって。



 一方で、その様子を正しく神託を理解していた曾孫と、その良き友輩の幾人かはエガルマハの現状を嘆き悲しんでいることにも気付いていた。

 あの子たちだけは巻き添えにしたくない。だがマルスが地上に出るためには地上への唯一の出口に障害として立ち塞がるエンキのマナをなんとかしなければならなかった。


 あの忌々しい爺を運び出してくれたこと、感謝するぞ、シチフサとやら。お前がどこから来たのかは分からぬが、親御の許に還れるよう、心から祈ってやろう。




「よいのですか?」

 ただ一人、宮司の本心を知る権宮司が、問うてくる。

「ああ、よいのだよ…しかし、主は神殿に戻って良いのだぞ」

 権宮司が困ったように笑う。

「サピエンスはマナを使えないでしょう」

「そうじゃったの」

「最後までお供しますよ、我が主」

「感謝するよ、わが相棒よ」


 メラナイトよりも強力に作用するオリーブ色の橄欖石に封じられている、アシルの湖を支える浮遊のマナを一斉に解除された。





 奥の院から湖を渡って城下の船着き場に降りた時、ドン、と地面が突き上げられるような衝撃が足元から感じた。地が揺れることはままある。しかし低い地鳴りの前触れのない揺れは今まで体験したことがない。

 湖が、激しく波打ち、満々と水をたたえた湖が見る間に濁った渦を描いて干上がっていく。湖面に人が浮いてどんどん滝壺の方に押し流されていく。


 マルスが膝から崩れ落ちた。

「何やってんだよ爺ちゃんの馬鹿!」




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