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失意

胸くそ展開が続きます

 心ここにあらず、無関心、投げやり。そんな宮司の態度にダキアは失望した。地下の住人の酷薄さに消沈した。そこはまだ呑み込める。が、言うに事欠いて宮司はシェリアルを詰った。それだけは許せない。もう怒りに任せて吠えてもいい。そう感じた。

 だから怒鳴った。全身の毛を逆立て牙を剝き片眸を爛爛と輝かせて獲物を狩るかの如き形相で咆哮した。

「我らが神託を台無しにした。そう考えるならそれでいい。そなたらが弱きものを挫き見捨てるのが流儀だというならもう構わん」

 シェリアルも、激昂するダキアを諫めるでも宥めるでも窘めるでもなく終始無言だ。しかしサピエンス宮司を見つめるその目は冷ややかでダキア以上の侮蔑の念さえ含んでいるように感じられる。

「地上の生きとし生けるものが死に絶えるまでここでのうのうと暮らせばいい。失礼する」



 宮司との謁見のあと、憤懣やるかたないミザルが洞窟の岩壁をばしんと叩いた。

「何だあれは」

「やっぱりサピエンスは信用ならねぇ」


 カインも流石に放心している。うわの空で「嘘だろ……」と呆けた声で呟いている。彼も、幼いダキアの側近として採用されるまで、ラタキア将軍とともにサージャル先王の白竜討伐に従軍していた。同僚、兄貴分、新米、仲間が喰われ死んでいく阿鼻叫喚を、白竜の雄たけびがあがるたびに血と臓物が飛び散る凄惨な地獄絵図を、地下の者たちは面白おかしい見世物、娯楽として消費していたという宮司の暴露は少なからず衝撃だった。

 リョウはカインの様子を直視できずに頭を抱えうずくまっている。


 広間ではなにやら揉めているような大音声が響いてきて苛立ちに拍車をかける。


 シェリアルと二人きりになったタイミングでダキアが消沈した声でぽつりと呟いた。

「俺は、この神託の婚儀に誇りを持っていたんですよ」

 そのままその場に膝を付いて崩折れた。やや間をおいて、落涙がぽたり、ぽたりと地べたを濡らす。

 幼いころにアシル神殿での話し合いで、シェリアルとの婚約が決まった時から不思議ではあった。ミアキスヒューマンは同族以外と番うことはない。だから、この本来あり得ない異種族婚には自分にしか出来ない、何か大切な、大事な意義がある。だから神託なのだとそう言い聞かせてきた。

 それが実は100年前に地下に避難したサピエンスが地下を出るためのきっかけ、として用意された茶番だったとは。

 地下の住人に良いように利用されていたのだ。そう思うと全てが忌々しい。恥も外聞もなく大声で泣きわめいてのたうち回りたかった。そうできれば少しは楽になれるのかもしれないけど辛うじて堪えた。踏みとどまった。宮司の心無い言葉の鏃でズタズタにされて傷ついているシェリアルの目の前で、そんな見苦しい醜態を晒したくなかった。

 そんなダキアの背に温かいものが触れた。シェリアルが屈みこんで掌を添えたのだ。

「帰りましょう」

 静かに発せられたシェリアルのその言葉が優しく感じられた。無性に嬉しかった。

「シチフサが危害を加えようとしている、最初の認識が間違っていたのかもしれません。シチフサはお礼を言いたがっていた、宮司はそう言った。なら、聞きましょう」

 その言葉に、不意に婚礼の朝の事を思い出した。あの時も、シェリアルは自分の身より国家間行事だから、と婚礼を強行するべきだと主張した。ヴァルダナール女帝の御前でも同じ状況があった。本当に滅私奉公の鑑のような女性だ。

 また守るべき人に助けられてしまった。冗談めかして

「姫は本当に強いな」

 そういうと

「強くなんて無いですよ、本当に腹に据えかねているんですから。今からでも取って返して宮司の尻を蹴り飛ばしてやりたいくらいです」

 と何とも物騒で頼もしい答えが返ってきた。


 そこに、年若いサピエンスが、アシルの神官とはまた異なる装束のルプスを伴ってやってきた。

「砂漠の、グラディアテュール、の、ダキア殿下、ですね」

 急いで来たのか息せき切っている。

「私は」

「いい加減にしとけや」

 ミザル、アルコーがさっと間に割って入った。もうこれ以上サピエンスとは関わり合いになりたくない。なる気も無い。そんな意志を込め、低い唸り声をあげて宮司のひ孫を威嚇する。

「まて。ミザル、アルコー」

「控えなさい」

 ダキア、シェリアル双方に言われ熊兄弟が口を噤む。

 年若いサピエンスはマルスと名乗った。宮司の曾孫だという。



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