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第5話 再び求婚される聖女

 竜の里へ運ばれて、私はティアから献身的な介抱を受けました。彼女も魔力が戻りきっていないというのに、私なんかにかまけていいのかと尋ねると「少しでも恩返しがしたい」と笑って答えるのでした。


 そして彼女からいろんな話を聞きました。ティアはこの国より遙か遠くの北の国で生まれたこと。竜族への迫害で国を追われたこと。その際に家族とはぐれて悪い人間に捕まり、この国まで流れ着いたこと。


 ティアは今日も私のベッドのそばでいろんな話をしてくれたところでした。彼女の話は楽しく、時間が経つのを忘れるようです。


「竜族の本来の大きさは年齢じゃなくて魔力で決まるんだ。大人になって魔力が増えればそれだけ大きくなるし、弱ってくれば小さくなるんだよ」


 私はティアを拾い上げた時のことを思い出しました。子猫ほどの大きさしかなく、竜というよりトカゲのようなティアは息絶える寸前でした。


「竜の里なら竜の姿のままでもいいんだけど、みんな人間の前なら大体人間の姿になるんだ。リーベはやっぱり、大人の竜は怖い?」

「あの、そのリーベっていうのは何?」


 ティアは私の顔を覗き込みます。涙のような紫色の鱗は忠実に泣きぼくろになっていました。


「だってルベリアって呼びにくいじゃん! だからリーベ!」

「でも、私はずっとそのように呼ばれたことがなくて……」

「じゃあ今日から慣れようよ!」


 私は生まれたときから聖女として育ってきたので、友達らしい友達もいませんでした。そのため、皆は私のことを「聖女様」「リベリア様」と呼びました。リーベ、などと気軽に呼んでくれたのはティアが初めてです。


「そ、そうね……何だか恥ずかしいわね、こんな風に気軽に話しかけてくれる人がいなかったから」


 するとティアは私の手を強く握りました。その手のひらはとても柔らかくて、私の心をほぐしてくれるような温かさがありました。


「大丈夫、リーベは強くて優しくてかっこいい女の子だよ。だからボク、好きになっちゃった」

「好き? それは慈愛のこと?」


 ティアはオレンジ色の髪を揺らして、小首を傾げました。


「うーん、なんか違うな……そうだ、友達じゃなくて恋人! ボクはリーベの恋人になりたい!」


 ぱっと顔を輝かせて手を叩き、ティアは叫びます。


「ねえリーベ、ボクのお嫁さんにならない?」


 急に竜の少女に求婚され、私の理解が追いつきません。


「な、何を言うんです!? まず私たちお互いのことをよく知らないじゃない!」

「でもボクはずっとリーベのことを見ていたよ」


 ティアは急に真剣な顔になりました。その真摯な紫の瞳に見つめられ、私は心臓を掴まれたような気分になりました。


「ボク、リーベに会うまで人間なんか滅びればいいって強く呪ってたんだ。でもリーベがボクを救ってくれた。だから、ボクはリーベを救わなくちゃいけないしリーベを一生守らなきゃいけないんだ」


 そこまで彼女が強く私を想ってくれているのだと思うと、私は何と返事をすればよいのかわからなくなりました。


「だってボクは誇り高き竜族だ。キミを傷つける奴はボクが許さない……その前にボクの魔力がちゃんと戻らないとダメなんだけどね」


 しょんぼりするティアの手を私は握り返しました。


「貴女の気持ちはよくわかったわ。今はゆっくり魔力を取り戻しましょう」

「そうだね、それにね、ボク……ううん、何でもない」


 ティアは何かを言いかけましたが、最後まで言い出せないようでした。


「それよりもリーベに無理させちゃったね! 気にしないでゆっくり休んでて!」


 そう言うと竜の少女は恥ずかしそうに私の前から姿を消しました。


「でも、女同士で、竜と人が結婚できるのかしら……?」


 聖女として育ってきたので、結婚に関して私は全て他人事だと思っていました。「聖女は人と心体を交わしてはならない」と神の教えにありました。でも、竜と恋愛してはいけないとは仰っていません。私はどうしたらよいのでしょう……?


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