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きじも鳴かずば…

※実質一話になるお話しは読み切りにあります。先にそちらを読んでからこちらを読むことをお勧めします。

読み切りとして出した後も話が膨らんだため暫く書こうかなと思いました。

自身の性格上更新は不定期になりますが温かい目で見ていただければ幸いです。

「ハアッ、ハアッ、ハアッ」

森の中で傷だらけの身にボロボロの制服を羽織っているだけの姿の女性が絶え絶えの息を漏らしながら走り続けていた。

「助けて、助けて…あっ!」

だが地中から飛び出した木の根に足を取られてしまう。

「痛っ、足が……ヒイッ!」

先ほどの転倒で捻ってしまった足を押さえながら後ろを見た彼女の目には、大量の鳥達とそれを指揮するように後ろには着物姿の少女がある言葉を呟きながら近づいてくる。

「きじ…も…鳴かずば……」

「や、やめて!お願い!来ないで!誰か、誰かァァァァ!」

動くのもままならない女性の命乞いが少女の心に響くこともなく…

「きじ…も…鳴かずば………」

「やめてぇぇぇぇぇ!!」

「……うたれまい」

「「「「「ケーーーーン!!!!!」」」」」

少女は無情にも指先を女性に向けた瞬間、彼女を獲物だと判断した鳥達が我先にと群がり始める。

「い、嫌ァァァァ!!」

その数時間後、とある村の森の中で一人の女性の変死体が見つかった。

その亡骸は無惨にも身体中を鳥に啄まれたかのように抉り取られており、さらにトドメと言わんばかりに木の先端で身体を貫かれた惨たらしい姿で近くの村の子ども達に発見されたという。


拝啓、お母さん

 私、水角式は紆余曲折ありながら人妖相談事務所という所で正式に働くことが決まりました。

しかし、所長や先輩達は悪口ではないんですけども人間ではありません。

 全員が妖怪、もしくは妖怪を食べて不老長寿になった人という、敬意を知らない人が聞けば笑い話になるような人たちと共に働いています。

 最初に5歳ぐらいの男の子の日乃君は飛縁魔という妖怪で普段は羽を腕に変えて生活していますが、最近、足にも鳥のような細い足を隠すためにお札を貼っていることがわかり、私はとても驚いています。

 次に雪那さんという方は雪女という妖怪で昔話とは違い、氷を出す模造刀を振るう心強い人ですが、私だけじゃなく所長や日野君にも苗字呼びを徹底させており、時折氷織さんって名前で呼んでしまうとすごい形相で睨みつけてきます。いつか名前で呼べる日が来るといいなぁ。

そして所長はというと……


「…………」

アパートの一室、テーブルを挟んで一人の男と二人の男女が向かい合っていた。

「さて、結論を言うと…屋根裏の騒音の原因は妖怪ではない」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、ただのねずみじゃ」

(まぁ、妖怪の仕業なんて早々ないわよね)

式は採用先である人妖相談事務所の所長である和尚こと和見尚哉のもとで仕事を学ぶことになった。

この依頼は彼女にとっては四軒目の妖怪被害についての相談である…が、

「ねずみ…ですか」

「ねずみじゃな、ちりも積もれば山となると言うし、相当な数が屋根裏におるぞ。害獣駆除に頼むとよい」

「じゃ、じゃあ時折起こる金縛りは……」

「睡眠麻痺、じゃよ。バランスの悪い食事やストレス下の生活が原因じゃろうな。妖怪や霊のせいというのは思い過ごしじゃよ」

「…………」

「な…なんだ。ああ良かった。所で妖怪のせいじゃないと分かったのなら……」

「金を払わんくとも良い。と言うなら大間違いじゃぞ。相談料は相談料。ちゃんと3000円は払ってもらうぞ」

「………ハ?」

(さぁ、ここから揉めるぞ)

そこから男同士の醜い言い争いが始まり数分後…

「帰れ!この詐欺師ども!二度と頼むかこんな所!」

「お主の過ぎた被害妄想が原因だとまだわからぬか!こんなくだらんことで呼ばれるなら二度と来ぬわこんなばっちいねずみ屋敷!ねずみに噛まれろ!」

「お、和尚落ち着いて……」

(こういう時、たまに和尚なのかって疑問に思うわ)

「てめぇ!ぶっ殺す!」

(まずい!)

相談料に関しては何とか払ってもらったものの腹の虫が治らない依頼者が言い争いの末に暴力に訴えようとしたために式は慌ててドアをバタンと閉める。

「それでは!」

そのまま尚哉の腕を引っ張り全速力でアパートから離れていく!

ちなみにこういった感じで依頼者と言い争う尚哉を止めるのはこれで四回目である。さっきの家だけで四回、ではなく一件に一回必ず相談料の件で揉めるのだ。

「ふん!全く最近の奴らは何でもかんでも妖怪のせいにしおって!少しは自分の行動を省みようとせんのか!」

(それは貴方も…いや、これを言うのは野暮ね)

「……まぁ良い。相談料は貰ったんだ。これならば……」

「?」

そう呟いた尚哉は式を連れて少し歩いた後、途中で事務所への帰路を外れ、住宅街に入ると一直線に看板に真雪堂と書かれた和菓子屋へと入ると初老の店主が朗らかな笑顔をしながら二人を迎えていた。

「おお、いらっしゃい、注文はどうする?」

「いつもの四つ、じゃなかった。五つじゃ」

(五つ?)

「はい。苺大福五つね。隣にいる子は新しい人かな?」

「ああ、水角式という。覚えておいとくれ」

「はいよ。じゃあいつも通り2000円だね」

「2000?1個500円じゃぞ」

「いや。彼女の分は私が奢るよ。また来て欲しいからね」

そう言いながら店主は式に苺大福の入った袋を渡す。

「あ、ありがとうございます!」


「ただいま戻りました!」

「おかえり!」

「おかえりなさい、こんなに早いということは……」

「ああ、原因はねずみじゃった。妖力も感じなかったし、というかここらの妖怪はもう騒ぎを起こさぬとは思うがの」

(まぁ、あの時の戦いを見てわかったけど、この三人の近くで人間に危害を加えられるのは余程の命知らずよね)

「ん?」

頭に疑問符を浮かべている日乃は敵を焼き尽くすほどの爆発する牙を持ち、雪那は敵を凍らせる氷の刃を振る上、尚哉に到っては強力な術を放つお札に鬼の力を解放すればその威力をさらに上げるのだ。

「ねぇ?その袋。真雪堂の?」

「えっ、あ、そうよ。苺大福を人数…人数分?」

「五つ買ってきたんですね。それで大丈夫です。この事務所にはもう一人妖怪がいますので」

「え?」

しばし沈黙の時が続き……

「えーーーー!?」

式の驚きの声が事務所中に響き渡った。

「やはり知らんかったか。まぁいつも別の部屋で寝てるし仕方ないかの」

「先程見に行ったらぐっすり寝てましたよ」

「となるとまた一個余るのか…」

「じゃあ僕が食べる」

「ダメじゃ。お主は前にも二個食ったろ。たまに冷やかしに来る連中に渡しておくとしよう、ほれ、お主のは一個だけじゃ」

「…はーい」

「ま、まだいたんだ妖怪……」

「おーい式、食わんのか?」

「あ、た、食べる」

「それじゃ、ほい」

「あ、投げないでよぉ、っと…て大きっ!でも…綺麗…」

式が慌てて受け取った苺大福は子供の拳ほどの大きさを誇り、白雪のような粉を被った大福の真ん中にはそれはまた大きな苺がこれでもかと存在感を出していた。

「いただきまーす!」

「あ!い、いただきます……」

日乃の挨拶に反応し、式も咄嗟に苺大福を口に入れると…

「ん…凄く甘くて…….美味しい!」

「そうじゃろそうじゃろ!真雪堂の苺大福は儂等の極上の甘味なんじゃよ!」

「美味しすぎて喉に詰まらせるような食べ方をしてはダメですよ」

式の口の中では大福の柔らかさと餡子の甘さ、そして大粒の苺の甘酸っぱさが次々に口の中で満足感を作り上げていく。

「あー、美味しかった」

「え?食べ終わるの早っ!」

「日乃…儂と雪那は食いはじめたばっかじゃぞ」

「あっそっ、じゃテレビ見てる」

式が一口を堪能している間に苺大福を食べ終わった日乃はテレビのリモコンに手をかける。

『続いてのニュースです。長野県の車道で男性がたくさんの鳥に襲われる事件が起きました…男性は近くにいた人達に救出され、無事だとのことです』

「物騒な事件ですね……」

「……あの場所、犀川の近くか?」

「さいかわ?」

「ああ、詳しいことは専門外じゃが、その昔は川の氾濫を鎮めるために人柱……生贄が捧げられていた場所じゃ」

「ッ!」

尚哉からの返答にぞくっと震え始めた式の肩を、雪那が落ち着かせるように優しく撫でていた。

「といってもそんなの昔の話ですよ」

「そ、そうよね。今更生贄の文化だなんて、ねぇ」

「ああ、今時そんな事をすればみんな警察の厄介になりかねんぞ」

「………ねぇ?」

式が落ち着きを取り戻し、会話を始めると日乃がスマホを片手に三人の方へ振り向いていた。

「?何じゃ日乃?」

「今の事件、ネットを見てみたら男の人を襲った鳥、その殆どが'雉,っていうんだって」

その瞬間、二人の顔は驚愕の二文字が覆うようにその視線を日乃に向ける。

「!!雉じゃと!」

「まさか!あの封印が!」

「え、何?何!?雉がどうしたの!?」

先ほどまで落ち着いた表情を見せていた二人の変貌に式もつられてパニックとなる中、 

『ピンポーン』

チャイムが押された音が事務所内に響き、三人は落ち着きを取り戻すと同時に、日乃がドアスコープに左目を近づける。

「……客か?」

「うん、だから早く片付けた方がいいと思う」

「じゃよな!」

「式、お茶菓子の用意、早く!」

「は、はい!」

三人が休憩モードから仕事モードに戻っている間に日乃は事務所の扉を少し開け、事務所前の三十代くらいの男の人の対応を始める。

「少々お待ちくださいませ。今、皆休憩中でしたので」

「こら!余計な事言わない!」

「はーい、それでご用件を依頼前に聞いておきたいんですけども、良いですか?じゃなくて、えーと…あ!宜しいですでしょうか?あれ?'でしょう,はいるっけ?」

「ちがう!'です,がいらんのじゃ!」

「そうだった。では…お先にご用件をお聞きしても宜しいでしょうか?」

と、日乃のペースにのまれて話せずにいた男性が口を開く。

「は、はい。実は……うちの村の連続変死事件について調べてもらいたいんです」


「このタイミングで来たと言うことは…お主、鳴地村の者かの?」

「はい、数日前から近くの森に入り込んだ人が行方不明になり、その後…死体として…」

「成程、写真はあるかの?」

「はい、持ってきてます」

「……ねぇ、雪那さん?」

「何ですか?」

来客への準備を済ませ、依頼者の依頼を聞いている尚哉の後ろでは式が小声で雪那に話しかける。

「鳴地村って何?私知らないんだけど」

「長野県は犀川の近くにある村です。その村人たちは代々森の中にある墓を守らねばならぬという掟の残るところです」

「その墓って?」

「今にわかりますよ。ですよね、和尚」

「……あぁ、これはやはり彼奴の仕業じゃな。最近、墓を見てきたものはおるか?」

「いえ、最初に事件が起きる数日前に墓を見る人が病気で倒れてしまい、その間は墓の様子を見ることができなかったんです。その後、新たに見に行った人が…第一の被害者になり…その写真はこちらです」

「………?、!?イヤァァ!な、何これ!?何で!こんな…惨いことに…」

依頼者から渡された写真を興味本位で見てしまった式は悲鳴をあげる。

その写真に写っていたのは五十代ほどの男が無惨にも身体中に抉られたかのような跡を残しながら木に突き刺さった姿が収められていたのだ。

「ん?なになに?どんな写真!?」

「子供は見ちゃダメ!」

式の悲鳴に怖いもの見たさで興味を持った日乃を彼女は慌てて押さえ、絶対にあの写真は見せてはなるまいと身体を両手足で掴んで離そうとしなかった。

「うう、あついぃぃ」

「………はぁ、すいませんね。子供の興味は尽きるところを知らないので……」

「え、ええ……」

日乃が人肌で暑がってるのを横目に三人は話を続ける。

「確かにこれは子供に見せるべきものではないですね…」

「写真を見るに…被害者は四人か」

「いえ、実は今朝、もう一人亡くなったと村から連絡が…」

「……計五人、そこに先ほどのニュースか……わかった、すぐ村に向かうとしよう。依頼料は後払いで構わぬ。今は犠牲者を増やさないようにするのが先だ。それと日乃、あれを持ってこい」

「はーい」

「あ!ちょっと…」

尚哉に呼ばれた日乃は式の腕を振り解くとすぐに近くのドアを開け、その中の部屋に入っていく。

「後は儂等で何とかする。お主はゆっくりとホテルとやらで休むと良い。依頼が済んだらお主の方に連絡するように頼んでおくからの」

「わ、わかりました。で、では…よろしくお願いします」

その言葉を最後に依頼人が事務所を出ると…

「………持ってきたよ、和尚」

「……え?」

日乃が部屋の中から大きな鏡を持ってきており、式は顔に疑問符を浮かべていた。

「….これ姿見よね?これが何になるのよ?」

「おいおいお主知らんのか?鏡の中にも数多の妖怪がおるんじゃぞ」

「妖怪?もしかして雲外鏡とかかしら?」

「よい慧眼だ、少女よ…」

「!?」

突如、式が姿見からの声に驚いて離れだすと同時に、その中に現れたモヤから二つの眼が開かれていた。

「う、雲外鏡…」

「どうした?少女よ。私が鏡の中にお前を引き摺り込むとでも思っているのか?」

いくら事務所のものとはいえ、姿見に現れた黒いモヤの集合体に式は警戒を解くことは出来ず、尚哉の側に寄ろうとする中、尚哉が口を開いた。

「お主…」

「………」

「今回はやらぬのか。白雪姫の鏡ごっこ?」

「ズコー!」

その厳かな雰囲気に似合わぬ言葉に彼女はギャグ漫画ばりの倒れっぷりを見せていた。

「遠慮する。雪那殿の怒りはもう買いたくないのだ」

「あの時、真っ二つにされかけたもんねー」

「当たり前ですよ。人を魔女だなんて失礼極まりのない…」

じゃあ妖怪はいいのか、というツッコミを抑え、式は尚哉に尋ねる。

「と、兎に角敵ではないのね」

「当たり前じゃ、雲外鏡は鏡の付喪神。持ち主の優しさには優しさで返す有難ーい妖怪なんじゃぞ」

「な、なるほど納得。でも雲外鏡が呼ばれた理由って…あっ、もしかして別の鏡に移動させる能力とか持ってたりする?」

「おお、今日の式は察しがいいの、大当たりじゃ」

「え?ほんと!?」

「まぁ、正しくは他の雲外鏡の力を借りてその鏡と此奴を繋げるんじゃがな」

「なるほどな、少し惜しかったがやはりよい慧眼をしているな、少女よ。前世からの善行がこの賞賛につながっていると言っても過言ではないぞ」

「そ、そう。なんかそう言われると嬉しいかも…えへへ」

「やはりお主を雇って良かったと思うよ儂は」

「ちょっと!?言い過ぎだよもう…」

「「…………」」

その時の式のデレ顔を見ていた雪那と日乃は…

「「なるほど結婚詐欺に引っ掛かるわけです(だ)」」

と呆れて呟きながら、式を誉め殺しにしている二人を止めに入っていった。


「なるほど、鳴地村か。すぐに他の私にも伝える」

「急いでくれ。事は急を要しているのだ」

(その時間を誰が食ってたのかしら?)

と内心呆れている雪那を余所に雲外鏡が目を大きく見開いた。

「よし、鳴地村近くの私が見つかった。すぐにでも迎えるぞ」

「流石じゃ雲外鏡。三人とも!すぐにでも鳴地村に…て、式?お主は何をしておる?」

尚哉の声に釣られ、二人が式の方を見ると当の本人はカバンの中をまさぐり、中から手鏡を取り出していた。

「あ、あった!」

「式さん、それは?」

「これ?これはお守り代わり、お婆ちゃんから貰ったの」

「綺麗だね」

「ありがとね、日乃君」

「………」

「どうした雲外鏡?」

彼女の手鏡を凝視していた雲外鏡に尚哉が話しかける。

「いや、なんでもない。早く通れ。向こうの私の気は長くないぞ」

「だそうだ。儂は先に行く!遅れるなよ!」

そう言うと尚哉は鏡の中にモヤへと入っていった。

「うわ、尚哉が消えた!」

「他人からはそう見えるだけですよ。それと式さんは初めてですので、私と手を繋いでください。事故って別の場所に飛ばされる可能性も0ではないので」

「わかったわ、日乃君も遅れないでね!」

それを告げ、雪那と式も尚哉に続く。

「は〜い、あっ、くーちゃーん!お留守番宜しくね〜!お土産忘れずに持って帰るから!」

残った日乃は扉の向こうの'もう1人の妖怪,に声をかけると三人の後を追って鏡の中へ入っていった。

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