変化
次の日は、久しぶりに目覚ましが鳴る前に起きた。
二度寝する気にもなれずに、布団から出た時特有の寒さに体を震わせながら洗面所へと向かう。
冷水から温水に変わるのを待ってから顔を洗い、歯を磨く。
普段よりも少しだけ時間が早いだけなのに、今この瞬間だけ異常なまでに紗枝のことが心配になった。
何が心配なのか、なぜこのタイミングなのかは俺にも分からないが、ただ本当に気まぐれかもしれない自分の感性に従って、寝室の扉を開けた。
「…………」
扉の先にはいつものしかめっ面ではない、力の抜けた顔で幸せそうに眠る紗枝の姿。
それを見て安心するのと同時に、とてつもない罪悪感に飲み込まれそうになって、音を少しでも立てないよう、ゆっくりと扉を閉めた。
「ん……おはよう……」
「……おはよう」
それからしばらくして俺がコーヒー片手にくつろいでいると、放射状に髪を跳ねさせた紗枝がおぼつかない足取りで寝室から出てきた。
昨日の夜に俺が「おやすみ」と言った時は反応してくれなかったのに。
なんて少しでも考えてしまった自分の心の狭さに嫌気がさした。
その日の紗枝はまるで人格が変わってしまったかのようで、もう最近は作ってくれなかった朝食を作ってくれたり、何よりも口数が多い。
ただ、時折見せる、軽く口にすることができないほど重大なものを隠そうとしているような紗枝の引き攣り笑顔が、皿にこびりついた油汚れのごとく頭から離れなかった。
「行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい」
まただ。
彼女の笑顔を見ると、息が詰まるような心苦しさや気持ち悪さに襲われる。
それは、心の中で拡大し続けるそれに気分が悪くなった俺は、足早に家から出ていったのだった。