表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪の在処  作者: 衣吹
9/193

居るべき場所

 影はやはり小癪だ。彼らの目的は私を苦しめることなのだろう。そのために私の傍にいる弱い物に手をかける。すぐに標的をリュンヌに当ててくるが、リュンヌはかつてほど弱くはない。影の攻撃はリュンヌにかわされ、空振りに終わった。その隙を、私は見逃すことはない。一体目の影は消えた。リュンヌは影から逃れた後、生き物たちを抑えた。生き物たちは獰猛になり、リュンヌに襲い掛かる。明かりを持ちながら戦うのは大変で、少し高台に明かりを置いた。洞窟全体が少し明るくなり、両手もあいたようだ。あの状況なら放っておいても大丈夫だろう。影の攻撃は激化していくが、暗闇の中だからと言って何も見えない私には関係ない。影は次から次へと現れるが、一体一体倒していく。弱い物が何体集まって戦おうと、結果は何も変わらない事を影は学ばないようだ。生き物たちの勢いは収まってきているようだ。


「父さん!加勢するよ!!」


 リュンヌは生き物を鎮めたようだ。また私と共に目の前にいる影を前にナイフの刃を向ける。まだ影と戦うには力不足だが、何も言わず、戦わせてみることにした。だがやはり、洞窟内という閉鎖的な場所で、ランタンの明かりのみの小さな光では普段の力も出せない。影の刃はリュンヌに振り下ろされた。


「下がれリュンヌ!!」


 その言葉は間に合わず、リュンヌの身体は切り裂かれた。


「リュンヌ!!」


 リュンヌはしゃがみ込んでしまい、私は群がろうとする影を一蹴した。すぐにリュンヌに寄り添ったが、彼女の服は切り裂かれていても、身体は傷一つついていなかった。リュンヌ自身も、驚いて腰が抜けただけらしい。


「ハルさんだ。あの石が守ってくれたんだ!」


「そのようだ。そこから動くな、影はまだ澱めいている。」


 リュンヌを自分の背にし、正面から現れる影を倒し続けた。今回はかなりの量の影を倒した気がする。やっと、影が現れなくなった頃には、相当の体力を消耗した。剣を一度地面に突き刺し、支えにした。老化するはずはないが、年老いたという感覚はこういうものなのかと実感した。


「父さん!!」


 リュンヌは私の足に縋りついた。ぎゅっと力いっぱいしがみついてくるところは、まだ変わっていないようだ。優しくその背を叩いてやると顔をうずめてくる。沢山の勇気を出して、戦ったのだろうと伝わってくる。


「そろそろ、行こうか?」


 リュンヌはうんと唸り、影が道を塞いでいたその先へ進んで行く。道はどんどん深くへとつながっていく。方角は間違っていないはずだが、やけに遠く感じる。力は身近に感じただけで、距離はずっと遠かったのかもしれない。そこからも道を辿って進み続け、やっとリュンヌの足が止まった。


「あった!!あったよ父さん!!」


 リュンヌは私の手を引いて走り出した。そこには確かに先程感じた力をより身近に感じる。だが先ほど感じた者よりも、邪悪なものも交じっているように感じた。リュンヌはその石の姿を、水晶の中に虹を閉じ込めたようで大きな石だと話していた。


「これは、持ち帰って良い物なのだろうか。」


「どういうこと?」


「ここが、この石のいるべき場所なのだ。石には力がある、つまり生きているということだ。ここがこの石の家であり、安定した場所ゆえ、ここから石を持ちかえればきっと良くない力が働くだろう。」


「じゃあ、この子はここに居ないとね。」


「そうだ。この石を持ち帰るのはやめよう。あの魔女には、適当にごまかそうか。」


 リュンヌは嬉しそうに頷いている。洞窟の来た道を順番に戻って行く。洞窟の出口に出るとすっかり日が暮れ、月が真上に輝いていた。そしてその月の下には猫を抱えたハルがいた。その眼が月明かりに怪しく光る。


「おかえり。どうだった?」


「お出迎えとは……本当に魔女は分からん。」


「だって、どんな顔して帰って来るかしらってね。分かっているわ、全部。」


 ハルはリュンヌに渡した石を渡すように求めた。あの時翠と紫色をしていたフローライトという石は、違う何かに変化していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ