暗闇の灯火
洞窟はたしかにすぐ見つかった。入り口も大きく開けていて中も深そうだった。洞窟内は壁に手をつけながらゆっくりと進む。全く目が見えていなくとも、なんとなくの空間は分かる。だが、全てに意識を研ぎ澄ませるのは少々困難だ。
「リュンヌ、明かりを持ってゆっくりついてくるといい。」
リュンヌにランタンを渡し、奥へと進んでいく。まだ何かあるような気配はない。ゆっくりと足を前へと進めていくが、分かれ道にきてしまったようだ。
「分かれ道だ。どちらに進んでもいいが、どちらに行きたい?」
リュンヌは明かりを照らしながら二つの道を見比べた。どちらも奥が深そうで進んでみなければ何があるかわからない。リュンヌは少し考えたあと、左の道を選んだ。
「左がいい気がする!」
「そうか、なら行ってみよう。」
「父さん、私が前を歩くよ!!そしたら私のあとをついて来れば安全な道が分かるでしょ!?」
そう言ってリュンヌは私の前へ出ていった。待てと言いたいし、危ないと言いたかったがその言葉は呑み込んだ。私のために、そうしてくれたのだ。リュンヌは成長している、何でもかんでも危ないからと言って抑え込んでは彼女も辛いだろう。いざとなったとき、私が護ればいいのだ。リュンヌは先に進み、チラチラとこちらの様子を確認する。リュンヌは真剣ながらも、嬉しそうだった。やはり、危険だからといって何もさせなさすぎたようだ。これからは、もう少し自由にやりたいことをやらせてやろうと考えた。リュンヌの後をついていくと開けた場所に辿り着いた。そこは外界とも繫がっており、外の光が入ってきている。
「父さん、ここすごく綺麗だよ。天井にあいた穴から太陽の光が差し込んでるの。それで、岩と湧き水を照らしてキラキラ光ってる。」
「湧き水があるのか。それはとても綺麗だろうな。少し見ていくか?」
リュンヌは頷きその広場を探検した。水に触れてみたり、岩壁によじ登ってみたり、光を全身に浴びてみたり自由に楽しんでいた。満足するまで遊んだあとは、リュンヌが先に進もうと私の手を引いた。広場から先につながる道は5つに分かれていた。
「また分かれ道なんだけど、どこに行けばいいかな……。」
「真ん中の道と、左端の道は行き止まりだろう。他になにかあるようにも思えない。進むなら、それ以外の道だ。」
「う~ん、じゃあ右端にする!」
リュンヌが明かりをかざしながら右端の道へ進んでいく。その道は幅が狭く、天井も低かった。リュンヌはまだ通れるが、私は屈まなければ通れないほどだ。その通路を抜けた眼下には大きな穴が開いているようだ。リュンヌも足を止め、どうしたらいいか迷っている。
「道を戻ろう、ここから先は進めない。」
「待って父さん!!あれ分かる!?」
リュンヌが指さした方向に、僅かに力を感じた。そこにあるものが魔女の欲しがっていた石なのだろうか。
「すっごく大くて、綺麗な石があるの!!きっとあれだわ!」
「分かった、ならその方角へ進もう。分かれ道まで戻るぞ。」
来た道を再び戻り、再びあの広場に辿り着いた。方角からして、進むべき道を考える。あの石には左から2番目の道が近いように感じる。その道はかなり広い通路になっていた。慎重に進んでいくとやがて坂になっていった。深くまで降りていくことになり、もはや光はランタンの明かりだけだ。
「リュンヌ、ここからは私から離れずにいなさい。影の気配がする……。」
リュンヌは分かったと頷き、私のすぐ傍に来た。石の力はすぐそこに感じる。だがそれよりも先に影が現れてしまった。いつもより深く、暗い影だった。それと共に洞窟に住む小さな動物も、こちらに敵意を向けている。きっと住処を荒らされたと思ったのだろう。
「リュンヌ、影は私が倒す。動物たちは、出来るな?」
「うん、出来る。」
影の攻撃と共に、動物達が襲ってくる。背中を合わせ、武器を手に取った。