その感情の名は
ケ・ボニートには平和が訪れた。もはやショバ代を請求してくるようなギャングや、不死身の暗殺者もいない。これでヒースやカシアは安心して店を続けられるだろう。今日もリュンヌは店で仕事をしている。この店でもう少しだけ仕事を続けることにしたのだ。人生は長く、広い世界を旅する中でこんな時間があってもいい。私は、リュンヌを店に残し依頼を探した。
お店は今日も大盛況だった。近隣を荒らしていたギャングが私達と警備隊によってついに一掃されたため、皆が安心してお店に来ることができるようになったのだ。お店に来る人はみんな笑顔でカシアの料理を楽しみにしている。私自身も初めて仕事に入ったときに比べてお皿を傾けずに持つことができるようになり、沢山の料理を一度に運ぶことが出来るようにもなった。ヒースが一つ一つ丁寧に分かるまで説明してくれたおかげだった。
しかし、あの時傷を手当てしてもらってからずっとヒースが気になるようになってしまった。つい無意識に彼の方を見てしまう。そしてすぐにハッとして顔を逸らすという動作を繰り返していた。この気持ちは何なのかずっと分からなかった。頭の中は自問自答でぐるぐると思考を巡らせる。だが仕事中の本当にふとした時、かつて父さんに貰った本で読んだことがある主人公の気持ちとよく似ている気がしたのだ。これが恋というやつなのかと、私は衝撃を受けた。
「ではリンゴのジュースをお願いします。」
「かしこまりました。ぶどうのジュースですね!!」
「え?」
「えっ!?……し、失礼しました!!もう一度お伺いしてもよろしいですか!?」
というようなやり取りをしてしまう位には衝撃で動揺していた。ヒースに後でそのやり取りを見ていたことを言われ、本当に恥ずかしかった。ヒースの笑った顔が優しくて、いつまでも脳裏に残った。昼の営業が終わり、昼食を取る。今日は簡単にパンとスープだった。
「リュンヌ、食べ終わったら少し付き合ってくれないか?市場に買い出しに行かなくちゃいけないんだ。」
「あれ?カシアは?」
「夕食の仕込み。だから二人で行ってきて。買ってきて欲しいものは伝える。」
「今日結構沢山買わないといけなさそうで、俺一人だとちょっと大変だから手伝ってくれると嬉しい。どう?」
「うん、行くわ!!市場の方に行くのはこの街に来て以来かも。」
「そうだったのか。なら、少し市場を案内するよ。面白いもの沢山あるからさ。」
「そっか!楽しみ。」
心の中は凄く嬉しかった。父さん以外の人と二人で行動したことなど殆ど無い。舞い上がる気持ちを抑えて食事を取った。




