誰もいない
ハルはまじないが完成したであろう小瓶をその手に持っていた。リュンヌいわく、瓶の中には深い碧の液体と小さく輝く粒子が入っていたそうだ。ハルが魔法陣の上に立ち、その術を起動させた。強い風が吹き、一部のテーブルクロスは吹き飛んでいった。アイリスは静かに頷き、ハルがこちらに一度目を向けた。
「行けるよ。」
「じゃあ、飛ぶわよ。」
あたりに吹く風が更に強くなった。魔法陣に引き込まれるように風が吹いている。
「どうか、ご無事で!!」
ヒースがそう叫ぶのが聞こえた後、我々は魔法陣に引き込まれた。ふと気が付いたときには、空気が変わっている。そして我々の先には高台に腰掛けたフェアリスとその下に以前襲ってきた者たちも含め、かなりの数のギャングがいた。
「来ると思ってたぜ。だが、随分時間が掛かったな。」
「その分楽しめたでしょう?それより、ここには沢山の魔女がいるようね。」
確かにフェアリスとギャング以外にも少なくない気配を感じる。
「あぁ、これのことか?」
フェアリスが片手を上げると、天井に吊るされた沢山の魔女達が姿を現した。随分酷い目にあっているらしい。先程より血の匂いが増した。リュンヌはその光景を見て、かなりショックを受けているようだ。
「あら……、素敵。」
「あんたもコレクションにいれてやるよ。」
「いいえ、あなたのものが欲しいわ。」
ハルは穏やかに言っているが明らかにキレている。彼女のもつ魔力が普段よりもずっと大きく膨らんでいる。
「おっと、こりゃ渡せないな。俺のコレクションだからさ。暗翳、お前もいれてやりたかったよ。残念だ。」
「お前は……どこまでもクズだな。」
「あんたに言われたくはないな。……いい加減ケリをつけようか、暗翳。」
「あぁ、終わりにしよう。」
フェアリスは真っ直ぐ私に対して仕掛けてきた。それが合図だったのかギャング達も、こちらに襲いかかってくる。私はフェアリスと一騎打ちの形になり、ギャングは全てリュンヌが相手をした。数は多いが、下手をしない限り勝てない相手ではない。フェアリスの攻撃は鋭く、キレがあった。だが惑わしてくるような攻撃をしないため次の手も分かりやすい。力は強いが僅かに私のほうが速いため、その攻撃をまともに喰らうことはない。フェアリスを組み伏せ、その喉に刃を突きつけた。
「お前は私には勝てない。過去から何も変わっていない。」
「それはどうかな。」
フェアリスは余裕の表情をしていた。次の瞬間、捕らえていた私の手から、フェアリスは消えた。そしてすぐ背後から手が伸びてきた。気付けたから躱せたが、どうやらどこに現れるも自由自在のようだ。
「我々の術ではないな。」
「あぁ、なんのためにこれだけの魔女がいると思ってる。俺は今や、魔法だって自由自在だ。」
フェアリスは手に炎の弾を作って投げつけてくる。だがやはり、どれも付け焼き刃だ。多少攻撃が読みにくくはなったが関係ない。倒すだけだ。空に浮いたフェアリスを追うため壁を駆け上がり、後ろに飛んでフェアリスを蹴り落とした。落下する間に体制を整え、ある程度高い位置から落ちてもダメージが無いようにする。地面に降りた瞬間、その場所全体に魔法の弾が雨のように降り注いだ。その攻撃は敵味方関係なく与えられ、防ぐ力もないギャングたちは倒れた。魔女たちは自身にバリアを張って防ぎ、私やリュンヌはある程度当たることを許容した。ギャングがその雨に倒れたのを見たリュンヌはフェアリスに怒りをあらわにする。
「どうして、仲間じゃないの!?」
「知らないね。都合が良かったから利用しただけだ。」
フェアリスはそう言って笑っている。心の底から人殺しを楽しんでいるフェアリスに善意など微塵もないだろう。他人との関わりは利用出来るか出来ないか、または自分が楽しめるかどうかしかない。
「本当に……、哀れだな。」
「そうか?俺は今最高に楽しいぞ!!」
反り返って笑うフェアリスの顔面に一撃、本気で殴った。フェアリスの身体は衝撃で吹き飛び、そのまま壁にもたれかかった。身体の半分が潰れた状態でもまだフェアリスは笑っている。




