誓いを果たす時
また新しい気配が現れた。感じたことのある気配と、最もここに来ないでほしかった者の気配だ。前者は魔女のようだ。なら心当たりがあるのはハルしかいない。リュンヌもそこにいる。どうやってハルを引き入れることができたのか甚だ疑問だ。
「父さん……!!」
「おいおい、魔女はズルだろ。」
フェアリスはその場を離れようとしたが、リュンヌが道を塞いだ。ハルはフェアリスと契約している魔女に詰め寄っている。
「あなた、その血で何をするつもりだったの?答えなさい?」
ハルは地面に杖を突いた。空洞に響くその音に圧を感じる。
「血で作るまじないの品は高値で取引される。その品を作って悪いか?」
「それは結構なことね。でもあなたにそんな品を作れるほどの力があるのかしら。人の血を用いてまじないの品を作ればどうなるか、あなた……知らないの?」
相手の魔女は黙っていた。私にも分かる、ハルの持つ魔力は相手の魔女を圧倒している。
「あなたはまだ幼い。知らないのなら教えてあげるわ。血を用いたまじないは強力で、術者の命を必要にする。生半可な力の持ち主がそんなものを作ったら命だけでなく魂まで消えるわ。しかも、こんな穢れた血で作ったらそんなことでは済まないかもしれないわね。」
「そんな……。聞いてないぞ。」
魔女はフェアリスをキッと睨みつけるが、フェアリスはとぼけてみせた。そしてまた逃げようと出口の方へ走るが、リュンヌの攻撃にその足を止められた。フェアリスはリュンヌの攻撃を受け止め、突き放した。リュンヌは諦めずに攻撃を繰り返していく。だがやはり、フェアリスの方が実力はずっと上だった。リュンヌは地面に叩きつけられ、その顔を踏みつけられ苦悶の声を上げている。
「やめろフェアリス!!!」
「お前にとって、護るべき者なんだろ?なら、やってみろよ。」
フェアリスは更に重さをを掛けていった。骨がミシミシと音を上げている。今の私にはあの子のそんな状態をただ見ていることしか出来ないのか。いや、今こそ超えなければならない。護ると誓ったのだ。私はもう大丈夫だと言ったのだ。腕に全力で力を込める。そして私の身体を壁に繋ぐ拘束具を壁から引き千切った。壁に打たれていた釘やネジがポロポロと落ちている。散々傷めつけられた身体で立ち上がり、フェアリスに飛び掛かった。リュンヌは解放され、私に剣を投げ渡した。手首を杭に貫かれているが、軽く握る分には問題無さそうだ。
「ははっ、やっぱりバケモンだな。」
「もう逃さないぞ。今度こそケリをつけてやる。」
「いーや、分が悪くなった。俺はここで退散させてもらう。」
フェアリスは消え去ろうとした。だがリュンヌは執拗に彼を追いかけ、軽い身のこなしで彼の何かを奪っていた。フェアリスは逃げ果せたが、リュンヌは満足気だ。その手にはフェアリスの髪が数本握られていた。
「ハルさん!!」
その髪をハルに渡す。ハルはその髪を小瓶の中に入れた。魔女はフェアリスに騙されていたことに気が付き、項垂れている。ハルの前では抵抗する気も起きないようだ。そしてリュンヌは私のもとに駆け寄ってきた。フェアリスと魔女に散々傷めつけられたこの醜態を見られるのは本当に屈辱的だ。それに、さすがに血を流し過ぎている。剣を地面に突き刺し、膝を折った。呼吸が苦しい、一度死んだほうが楽そうだ。
「父さん!!大丈夫……!?」
「あまり……、見るな。」
ハルは魔女に先程までより少し優しい声で話しかけた。
「さて、あなたはどうするつもり?契約は履行中。逃げることは出来ないのではなくて?」
「だがあの男は逃げた。どうしていいか分からない。」
「あの男に復讐したくないかしら?魔女を良いように利用したあの男、潰してやりましょう。」
「あぁ、悪くない。」
向こうは今後の方針が決まったらしい。そろそろ、私の気力が保たなそうだ。リュンヌの声が遠くに感じる。あぁ、限界が来たようだ。地面に身体を預けた。




