繋がりはここに
リュンヌはハルに避けられたことを悔しがっている。ヒースとカシアは驚きで開いた口が塞がらない。ヒースは首を振って我を取り戻し、話を聞いた。
「どこから聞いていいの分かんないけど……え?二人は知り合い?」
「幼い頃に。一度だけ会ったことがあるの。ハルさん!!本当にありがとう!!」
ヒースは接客モードが完全に抜けている。ハルは打って変わって元気になっているリュンヌの頬を撫でた。その目線は妖しさを含み、何を考えているのか分からない。優しく撫でていたかと思えば今度はリュンヌの頬を引っ張って遊んでいる。
「じゃあやっぱりあの男の仲間の魔女じゃないんだ。良かった……。」
「ハルさんはそんなことしないよ!!……、ねぇヒース、父さんどうなったか分かる!?」
リュンヌはハルに出会い、傷を癒やしてもらえたことに浮かれて重要な事を忘れていた。ヒースは自身が最後に見た光景を話し、今警備隊が捜索してくれていることを伝えた。ハルもその話を聞いている。
「父さん……、私のために……。」
「あら、あの人今そんなことになってるの。初めて会った当時から、随分吹っ切れたのね。」
「どういうこと?」
「子供は気にしないで。」
「もう子供じゃないもん!!」
その言い方はあまりに幼かったが、リュンヌの一面だった。色々な話をするうちにハルは食事を終え、温かいミルクティーを片手にリュンヌを見た。
「それで?あなたはどうするの?」
「父さんを探すよ。どこにいるのか全く検討もつかないけど、絶対探し出してみせる。」
「でも彼はあなたを守ってその男と一緒に行ったのでしょ?あなたが行ったら無駄じゃない。かと言って、彼を囚えておけるような相手から、所詮警備隊に助けられるとも思えないわね。諦めた方がいいのではなくて?」
ハルは冷徹にもそう言い放った。リュンヌはしばらく何も言えなかったが、限界がきたのか肩を震わせながら言う。
「私……、父さんを護るって言ったのに……。結局、護られてばっかりで……。」
リュンヌは瞳に大粒の涙を溜めていた。悔しい気持ちと、大切な人に二度と会えないかもしれないという不安に駆られ感情が溢れ出している。リュンヌがポタポタと涙を床に落とし始めると、ハルは白く細い指でそっと涙を拭ってくれた。
「独りぼっちでかわいそう。ちょっといじわるしすぎちゃったかしら。」
リュンヌは涙を止め処なく溢れさせる。ヒースもハンカチを差し出した。柔らかいハンカチは石鹸のいい匂いがする。ハルは足を組み直し、頬杖をつきながらもう片方の手でリュンヌの顔を上げさせた。
「……手、貸して欲しい?」
「えっ……?!どうして……?」
「魔女は自由を求める。でも、魔女は人々から疎まれ、行きたい場所や住みたい場所、食べたいものだって自由じゃないの。この店は本当に珍しい位よ。好きに生きればいいけれど、人間からあれこれ言われるのは気分が悪いわ。心の声が聞ける私からすれば尚更ね。おかしなことに魔法を使う魔女がいるからいつまで経っても魔女というだけで制限されるのよ。だからその魔女、叩きのめしてあげるわ。いい見せしめになるでしょう。魔女の世間は狭いから。」
「一緒に、戦ってくれるの……!?」
「そう言ってるでしょう?私の気が変わらないうちに、相手の男と揉み合った場所に連れて行って。魔法の残穢を見れば行き先もある程度分かるわ。それと、これは契約じゃないわよ。私はあなたのために戦うわけではないから。だから気が変わったら突然消えるかもしれないけれど、仕方がないことよ?」
「ハルさん……!!!大好き!!」
涙で顔はグチャグチャだったが、またハルの胸に飛び込んだ。そして今度はきちんと受け止めてくれた。優しくその背をぽんぽんと叩かれ、なぜかとても安心した。ヒースとカシアは顔を見合わせ、苦笑いをしている。強力な助っ人のおかげで、道は開けそうだと二人も胸を撫で下ろした。




