夢を叶えるその日まで
しばらく父さんと私は別行動の日々が続く。父さんは日雇いで要人の護衛をするときもあれば、懸賞金の掛かっている危険生物を倒す日もあるらしい。私は毎日ヒースとカシアの店で給仕の仕事をしている。最近はもう仕事に慣れ、堂々と店に立てるようになっていた。
「リュンヌさん、これお願い!」
ヒースから渡された皿を注文のあったテーブルへ運ぶ。その後も注文は続き、大忙しだった。そして、お昼の時間を難なくこなしたその日の休憩時間だった。
「さ、お昼ご飯にしようか。」
皆で食事をしていると、【closed】の札が掛かっているにも関わらず、乱雑に扉を開けて人が入ってきた。すぐに立ち上がって対応をしようとしたが、ヒースは私を止めた。
「下がってて。カシア、警備隊を呼んで。」
「分かった。」
お客さんは4人いて、柄が悪いといえばその通りだった。だがそもそも、彼らはお客さんでは無かった。男たちのその手にはそれぞれ武器が握られている。カシアが裏口を行こうとしたが、そこは既に塞がれていた。
「よぉ、繁盛してるらしいじゃねぇか。」
「なんの用だ。」
ヒースはキッと彼らを睨んだ。彼の怒っている顔は初めて見た気がする。
「いつも通り、俺達にちゃんと払うもん払ってもらいに来たんだよ。」
「あなた達に出すお金なんてない。帰って。」
「カシアちゃん、相変わらず顔が怖いなぁ。あれれ〜?新人さんいるじゃん。君達がちゃんと言うこと聞いてくれないなら、あの子とお話しようかな。」
「今すぐ出ていけ。そして二度とこの店に関わるな。」
ただ事ではない空気にリュンヌはどうしていいか分からず、何もできずにいた。店中に緊張した空気が流れる。こんなことは初めてだった。
「だめだなぁヒース君。言葉で分からないなら、身体に分からせるしかないね。」
先頭にいた男が武器の棍棒を振り上げヒースの頭に叩きつける。ドゴッという鈍い音がした後、ヒースは血を流して倒れた。カシアがヒースに駆け寄り、その傷をトーションで抑えた。リュンヌには意味が分からなかった。突然来た男たちが突然暴力をふるい、自分に優しくしてくれた人を攻撃したのだ。男たちはカシアにも暴力を振るおうとニヤニヤと気持ちの悪い笑顔を向けている。そして、気が付いたときには身体が動いていた。ヒースに攻撃をした男の武器を奪って反撃をする。日頃倒している相手に比べれば、彼らなど相手にもならかった。ガラの悪い男たちで床が埋まっている。少し目線をずらせば、意識を失ったヒースが見える。許せない気持ちがまだ沸き立ってくるが、これ以上男たちに手は下さないと決意した。
「カシアさん、警備隊を……。」
「わ、分かった。」
ヒースの怪我はかなり酷い。カシアが置いていったトーションで傷を抑え、その出血を塞いだ。しばらく待っているとカシアが警備隊を連れて戻ってきた。
「これは……どういう……。」
カシアが状況を全て説明してくれた。警備隊の人は全て理解してくれたようで、伸びていた男たちを叩き起こし、連行していった。彼らはこのあたりを島にしているギャングだったらしい。カシアから最近あのギャングに目を付けられていたことや、それが原因でスタッフが辞めていったことを聞いた。最近姿を見せなくなり、油断していたらしい。そして店には再び三人だけになった。
「ありがとう、リュンヌ。あなたのおかげでこの場は収まった。ヒースのこと、上に連れてくからそっち持って。しばらく目は覚めないと思う。今夜は開店できない……。」
カシアも手を貸そうとしてくれたが、大人の男一人くらいなら私は軽々運べる。二階には二人の自宅があった。彼の部屋に運び入れ、そっとベッドに寝かせる。簡単な手当をして、患部に濡れた布巾を当てて冷やした。カシアはホットチョコレートを用意してくれた。それを飲むととても気分が落ち着く。段々と夕食の開店時間が近づいた頃、ヒースは目を覚ました。
「ヒース!分かる?」
「……カシア、店……しないと……。」
「何言ってるの。今夜はダメ。そもそもなんで起きるの。もう喋らないで。」
「店は……、開けてくれ……。頼む……。」
ヒースは絞り出すように言った。これだけの怪我を頭に負いながら、それでも店をやり続けようとする執念に、なぜか胸が熱くなった。手を差し伸べてくれた人に、私には何ができるのか。何もできずに怪我を負わせてしまった、そんな自責の念もある。だけど、それ以上に彼の思いを見ないようには出来なかった。
「わ、私頑張るよ!ヒースさんの分も。二人の大事なお店だし、悪いことにはしたくないの。」
「リュンヌ一人で?全部できるの?」
「やってみる……!!」
カシアはジッと私の目を見つめた。そしてヒースに視線を向け、また少し考えていた。
「……。分かった。やってみよう。客席を減らして、きちんと対応しよう。リュンヌはいつも通り動いて、私も手伝う。」
「はい!!」
「ありがとう……、ふたり……とも……。」
ヒースは安心したのかまた眠ってしまった。二人で顔を見合わせ、頷きあう。店は開店時間より少し遅れたが、なんとか開けることができた。ホールは大忙しだったが、なんとかお客さんを満足させることができていた。父さんが店に戻ってきてからはヒースの治療をお願いした。閉店時間の頃には、体力の全てを使い果たしたような身体の重さだった。でも、やりきったという満足感で満たされる。




