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罪の在処  作者: 衣吹
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その眼に視えるもの

 辿り着いた街はとてもにぎわっており、沢山の人が行き交っている。前にこの街に訪れたのは何十年前だったか。リュンヌは全てに興味を示し、私の袖を引っ張って連れまわす。リュンヌの姿を見た街の人から視線を感じる。その声に耳を澄ませてみた。


「随分みすぼらしい恰好だけど、人売りかしら……?」


 なるほど、リュンヌはまともな服も着ていなかったのか。眼が見えないと、詳しい事が分からないのは不便だな。


「リュンヌ、まずは君にまともな服を買わなければいけない。服が売っている場所は分かるか?」


 リュンヌはただじっと私を見つめてくる。きっと、言葉の意味が分かっていないのだろう。リュンヌの目線に合わせ、私の服を引っ張って見せた。


「これと、似てるもの。リュンヌも着る。見つけられるか?」


 リュンヌは分かったというような仕草を見せ、また私の袖を引っ張って走った。リュンヌに連れていかれた場所はきちんと服屋だった。


「よく分かったな。ここで合ってる。」


 リュンヌはまた嬉しそうにキャッキャと私の周りを走り回った。店主もその声に気が付き、表に出てきた。


「いらっしゃい。何がご入用で?」


「この子に旅支度をさせたい。適当に見繕ってくれるか。」


 店主の目線が分かる。私の姿を足元からじっと眺められた。


「お客さん、眼が見えてないのか。分かった、悪い奴ではなさそうだしな。お嬢さん、こっちへおいで。」


 リュンヌの背を軽く押して、店主について行くように促す。分かったと言わんばかりに店主の方へ向かっていった。そして、店主に言われて初めて、リュンヌが女子だと知った。今後、どうしていくべきかまた考えなければならない。しばらく外で待っていると、リュンヌが飛び出してきた。そして私にその姿を見せようとしているのか、くるくると回って見せている。何も見えないが、ぼやけた姿が脳裏に浮かんでくるものだ。


「お客さん、お嬢さん相当喜んでるな。疑って悪かった、あの子はお客さんのことが本当に好きらしい。」


「そうか……。助かった。代金はいくらだ?」


 店主に言われた代金を支払い、店を出た。店主は私の分も勧めてきたが、自分の分はそれほど重要ではない。店を出ると、また大きくリュンヌの腹の虫が鳴った。どこか店を探そうとまた街を歩く。通りを抜けると、良い匂いが漂ってきた。


「そこで何か食べるか。」


 リュンヌは勝手に私の手を握ってきた。そしてこちらに笑顔を見せているようだった。その表情を見るは出来なくても雰囲気で分かるものだ。店に入ると席に案内され、メニューを渡された。店員が私の事に気が付き、メニューを説明しようとしてくれた。


「すまない、私の分よりこの子に何か貰えるだろうか。値段は気にしなくていい。」


「かしこまりました!ではお子様セットをご用意しますね!お父様も、コーヒーはいかがですか?」


 お父様と呼ばれたことに少し驚いた。街についた時は人売りと言われ、この店では父と呼ばれた。それほど見た目の印象は大切なのだろう。少なくとも、人売りに見えるよりはずっといい。それで、何と聞かれたんだったか。適当に返事を返してしまったが大丈夫だっただろうか。店はそれほど広くはなく、小さな料理屋という印象だ。だが、人が絶えず出入りを繰り返しているあたりからも、密かな人気店なのだろう。


「お待たせしました、お子様セットです!お子様が好きな料理をここぞとばかりに詰め込んであります。こちら、お父様にコーヒーと、お嬢様にサービスでオレンジのジュースをお持ちしました!お店の庭で朝に取れた新鮮なオレンジですので、ぜひお召し上がりください!」


 店員に礼を言うと、笑顔で去って行った。リュンヌは朝食を取っていたがとても腹を空かせていたらしく、パンや肉を両手に抱えながら勢いよく食べている。私も何年振りかのコーヒーを貰うことにした。


「リュンヌ、食事は落ち着いて取りなさい。ゆっくり食べても逃げはしない。パンはちぎって少しずつ、肉はナイフを使って小さく切って食べやすくしてから口に入れるんだ。」


 リュンヌにナイフとフォークを握らせ、切り方を教えた。それでも難しかったらしく、リュンヌは小さく唸っている。初めてでは仕方ないと、肉を切ってやることにした。食事はとても美味しかったのか、またリュンヌは嬉しそうに声を発する。しかし口に物を入れたまま話そうとしてくるのは勘弁して欲しいものだ。


「こら、食べながら話すんじゃない。飲み込んでからゆっくり話せ。」


 そうリュンヌに教えても、まだリュンヌは話そうとしてくる。これを教えるのには時間がかかりそうだった。若干のため息をつき、コーヒーを口に運ぶ。久しぶりに飲むと、美味いものだ。窓の外はすっかり陽が落ちているようだ。リュンヌは食事を終えると、ウトウトとしている。

すぐに店員に代金を支払い、リュンヌを抱いて店の外に出た。野宿は疲れが取れにくいし、ここまでよく歩いたと思う。ゆっくりと休ませてやろうと、宿に入った。


「よく、頑張ったな。」


 リュンヌに毛布を掛けてやり、その近くに置かれた椅子に座る。月明かりが差し込む部屋の中で、次の目的地を考えていた。

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