移り変わる情
この山道は緩やかな坂から頂上に近づくにつれて崖や岩場が続く険しいものになっていく。緩やかな坂とはいえ、山道は少し大変だろう。リュンヌは必死についてくるが、既に息が乱れている。高山地帯に行くのはまだ危険か。リュンヌはきっと、身体が限界になっても私についてこようとする。その異変が起こる前に気がついてやる必要があるため、常にその呼吸や一挙手一投足に意識を配った。ここは確か、高山地帯に向かう道に花畑なんかもあったはずだ。まだ目を失う前の記憶だが、その景色をリュンヌにも見せてやりたいと思った。だが、今のままではリュンヌにその余裕は無さそうだ。
「父さん……!ちょっと待って……!!」
「もうバテたのか?……、少し休むか。」
リュンヌはその場にへたり込んだ。水筒の水を一気に飲み一息ついている。少し補給もしたほうがいいだろうと干し葡萄を渡した。リュンヌは美味しそうにパクパクと食べている。
「もう大丈夫!行こう父さん!!」
「そうか。」
山そのものはそれほど高くない。初めて登るには丁度いい山だ。昼頃には高山地帯へ辿り着くことができた。だがやはり、ここは気圧が低いらしい。もう少し先に進めば岩場の道があり、その先に花畑があったはずだ。リュンヌの様子は変わらない、まだ大丈夫そうだ。少し歩みを緩めて先へ進んだ。岩場は足元が悪い。
「ここ、登るの?」
「あぁ、上で待ってる。」
感覚で岩場を超え、平野まで飛び上がった。リュンヌは下でずるいと叫んでいるが、構ってやるほど優しくはしない。リュンヌは大きな岩に乗り、次に手の届く岩へとよじ登った。一つ一つ的確に登れる岩を選択し手を掛けていく。なんとか岩場を乗り越え、私のもとへ辿り着いた頃には日が傾いていた。
「はぁ……はぁ……着いた〜。」
「いやまだだ。だが今日はこのくらいにしておくか。」
「ふぁああ。疲れた〜。」
「まだ仕事は終わってないぞ。今日の夕食はまだ何もないからな。」
リュンヌは見るからに落胆している。だがそれと同時に大きく腹の虫が鳴っていた。もう満身創痍だろうが、ここで手を貸しては修行にならない。リュンヌはなんとか自分に活を入れて立ち上がり、食料を探した。広がる草原には小動物の気配がする。リュンヌは大きな鳥に狙いを定め、短剣を握り直して飛びかかった。だが、あと少しのところで鳥には逃げられてしまったらしい。大きく羽ばたく音がした。リュンヌは悔しがってその場に寝転んだ。それが少し面白くて、声が漏れた。すぐに平静を装い、顔をそらした。
「あ!父さん今笑ったでしょ!!」
「いや、勘違いだ。ほら早くしないと日が沈むぞ。」
リュンヌはもう一羽、地に降り立った鳥に狙いを定め、今度こそと飛びかかった。そしてなんとか鳥を得ることができ、止めを刺した。その鳥を見てと言わんばかりに持ち上げている。
「やったー!今日の夕飯は豪華だ!!」
「これで明日も頑張れるな。火を起こそう、影も出てきそうだ。」
私が火を起こし、リュンヌは鳥を捌いた。木の枝に肉を刺し、少し塩をかけて焚火に当てた。いい匂いがしてくる。鳥の油が滴り落ち、火が燃え上がると、いい具合に鳥の皮が焼けてきた。
「そろそろ食べれるんじゃないか?」
「うん!いただきまーす!!」
夕食を腹いっぱいになるまで平らげ、満腹で動けなくなっていた。腹が満たされれば、今日の疲れを癒やし明日への活力にもなるだろう。リュンヌはそのまま横になり、またいつの間にか眠っていた。明日には山頂に辿り着くだろう。山頂でしばらく滞在し、そこで稽古をするつもりだ。リュンヌは筋がいい。きっとすぐに短剣だけでなく自分にあった武器を使いこなせるようになるだろう。この子の成長が楽しみになっている自分は少なからずいるようだ。




