誰が為に
鳥が朝の目覚めを伝えると、リュンヌも伸びをしながら起きてきた。
「おはよぉ……。昨日どこか行った?」
「どこにも。」
子供とは敏感なものだと感心した。宿を離れたのは数刻もないはずだが、気が付くものらしい。
「居なくなっちゃったの、夢だった。良かった。」
リュンヌはぎゅっと服を掴んできた。何か思うところがあるとき、いつもそうする。服はなんとかリュンヌが起きる前に乾いたので良かった。リュンヌに顔を洗うように促し、出立の用意をした。次の目的地は決めている。
「リュンヌ。強くなると、約束したな。」
「うん、私強くなるよ!!影を一人で倒せるようになる!」
「ならば、修行が必要だな。これからしばらくは厳しめに行くぞ。」
リュンヌは真剣な表情でこちらを向いている。覚悟はあるようだ。今までリュンヌには一本のナイフを護身用に持たせていた。次に渡したのはそれよりは長い短剣だ。それを両手に持たせる。
「ナイフに比べて、こちらの方が攻撃力も高い。扱いは難しいが、使いこなせるようになれば圧倒的だろう。」
「かっこいい!!」
「そうか、なら使いこなせるようにならないとな。とりあえず食料はリュンヌが集めろ。戦いはそれからだ。」
リュンヌは嬉しそうに短剣を抜き差しする。腰に装備させてやるととても歩きにくそうだった。まだ彼女の力では重いのだろう。だがそれも修行のうちだ。リュンヌも頑張っている。大丈夫だろう。町を出て西へと進んでいく。その道をずっと歩けば高い山へ辿り着く。修行にはもってこいの場所だ。
「あの山を登るの?」
「そうだ。私は手を貸さない、自分の力だけで登りきるのだ。」
リュンヌは分かったと自分に活をいれている。両腰についた短剣を歩くたびに右へ左へと振りながらなんとか私について歩こうとする。いつもより早足だったが、しっかりとついて来ようしている。それでもやはり途中でバテてしまった。リュンヌは膝をついたが、私はその場所まで戻らない。ただ先に進みもしなかった。リュンヌには水筒も持たせている。少し水を飲み、呼吸を整えると私のもとまで走ってきた。
「いけるか?」
「うん……!!」
「まだ道は平坦だ。このあとはずっと山道が続く。こんなところでバテているようでは山など一人では登れないぞ。」
リュンヌは一瞬辛そうな顔をしたがすぐにその感情を振り払っていた。山道に差し掛かる頃、日は既に傾いていた。山を登るのは明日にして、リュンヌは今夜の食事を得なければならない。あたりを見渡しても獣はいないようだ。だが果物や木のみはありそうだった。リュンヌはなんとかして木によじ登りリンゴや梨を得た。そして落ちている栗を拾い集め、なんとか夕食が調達出来たようだ。
「よくやったな。それはお前の戦利品だ。」
「戦利品……!!」
「そうだ、明日は山を登るそのために力をつけておかなければな。今日は特別だ、チーズも食べなさい。」
リュンヌは嬉しそうに跳ね回る。そんなことをすれば体力が消耗するだけだが、関係ないようだ。りんごや梨にかぶりつき、栗は焚火の中で煎った。
「父さんも食べる?」
リュンヌは取った梨の一つを差し出してきた。なんの企みもないような純粋な瞳だ。
「いや、リュンヌが食べるんだ。私に食事は必要ない。明日の朝に食べてもいいんだぞ。」
リュンヌは少し悲しそうに続きを食べる。栗は丁度よく煎れたようだ。流石にこの熱い栗をリュンヌに剥かせるのは酷だろうと、栗を剥いてやった。熱そうにしながらも、美味しそうに頬張る姿は嬉しいものだ。リュンヌは食事中に眠くなり、うとうとし始めている。ここまでかなり無理をしてついてきたのだ。かばんを枕にそのまま寝かせてやった。毛布をかけ、ぐっすりと眠っている。焚き火の火が消えないように、しっかりと見張って夜を明かそう。




