ある夜のできごと
新しく連載始めます!RPGのシナリオとして新しく考えたものです!カクヨムにコンテストように投稿していたものよりもより深く、新しく書きたいと思いますので、よろしくお願いします!
私が人ではなくなったのはもう随分前のことだ。もはや歳を数えることも意味をなさないほど年月が経った。私が殺めた者たちの怨念に囚われ、死ぬことを赦されず、ただこの世界を漂い続けるだけのこの身に生などない。そして私はもうこの世界を見ることも出来ない。この目だけは等の昔に腐り果てたのだ。だが何も見えずとも、感じることはできる。この道は、以前に比べて随分と整えられたようだ。このあたりは獣も多く出る。影も多く、夜は危険だ。
ほら、また影たちがこちらの様子を伺っているようだ。目は見えずとも、影の気配は濃い。この影は、私が殺めてきた者達の怒りや怨念、哀しみなんかの負の感情を煮凝りにしたようなものだ。恨みを以て襲い、死ねない私を傷めつけて嘲笑っている。もはやそこに感情などないが、不愉快だ。
「失せろ……。」
剣を引き抜き、影を切り裂く。呻き声にも似た叫びを上げて影は消滅していく。何度倒しても影は毎日何処からともなく湧き出てくる。現れた影を倒していると足元に小さな気配を感じた。影ではない、生きている者の気配だ。影もそれに気がついたようだ。たちの悪い影はその小さな者へ手を伸ばし捕らえてしまった。その小さな者に興味はない。だが胸の奥に少し違和感がある。あの日、もう二度と自分のせいで誰かを悲しませることはしないと誓ったのだ。袖に忍ばせた暗器を用いた攻撃で小さな者を捕らえている影を倒し、背後に回った影も大きく切り開いた。小さな者は解放され、ドサッという地面に落ちる音がした。
影はもういなくなったが、次は獣が現れる可能性がある。付近には街も村もない。なぜこのように小さな者がこの森で倒れていたのかは謎だが、今夜だけはこの者に付き合うとしよう。焚き火を起こし、カバンを枕にしてマントを掛けてやった。赤子ほど小さくはないが、物書きが出来る程大きくもない。小さな者は何も知らずにスヤスヤと眠っている。やがて月が朝に向けて傾き始めると、小さな者は目を覚ました。
「気が付いたか?」
小さな者が起き上がると、じっとこちらを見ているようだ。何も言葉を発さず、ただ自分を見つめている。
「名は?」
その問いの答えが得られることはなかった。小さな者に、どのような問いを投げかけても返事が来ることはない。この者は喋れぬようだ。家に帰したくても家が何処だか分からない。そもそもなぜこのような森の中に子供が一人で倒れているのかも疑問だ。救えぬ理由があったか、あるいは……。
「この森を抜ければ街がある。そこで新しい家族に出会え。」
街に着いたら教会に預けようと考えていた。ただ考えを巡らせていると、この小さな者は突然自分の胸に飛び込んできたのだ。
「は、離せ!」
小さな者はその手を離さなかった。涙を流しながら小さな手で私の服を掴みかかっている。小さな者に触れると、とても温かかった。この涙にどのような意味があるのかなど分からない。ただ、自分の知らない感情に惑わされた。悪い気はしないが、過去の罪を感じる。
影は待ってはくれないようだ。今宵は本当によく現れる。小さな者を抱え、再度剣を引き抜く。
「小さな者よ、ただそのままでいろ。何も見るんじゃない。」
先程よりもずっと濃い影が何体も現れている。それにこの子供がいるせいで動きにくい。影を倒していくが、久しぶりに傷を負った。その傷が新たな傷を生む。影の鋭い手に首を掻き切られた。これは、死の痛みだ。斬られた箇所から血が噴き出す。だが死ぬことは出来ない。痛みに耐え、剣を持ち直し、暗殺者として名を馳せたかつての自分を思い出す。全ての情けや感情を捨て、自分の持てる全ての力で影を切り裂いた。やっと、全ての影を倒した。
「無事か?」
小さな者は震えながらも、未だ私の胸に張り付いている。
「強い子だな。だが、私から離れてくれ。私のもとにいては危険だ。それに、私は君が思うような人間ではない。」
引きはがそうとしたが、なかなか離れなかった。それどころか影に付けられた傷が痛む。少し声が漏れた。そしてその傷を小さな者に見られてしまった。小さな者は驚き、私の胸から離れた。そして速足で私のもとを去って行った。
「これで……、良かったのだ。」
この作品は一話一話短く、クエストをクリアしていくイメージで書きたいと思います!