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25話 事件は突然に①




「――お兄ちゃん! お弁当持ってきたよ~!」

「あ、ゆず。持ってきてくれたのか。サンキュー」


 知り合いと可愛い女の子の図を、龍一と須郷はじっと眺めていた。当の本人が弁当包みを持ち上げてその場へ戻った時、二人の無表情の歓迎に居心地悪そうだった。


「……なんだよ」

「いや、佐藤って妹居たんだな。知らなかったんだけど」

「あれは妹じゃねぇぞ。家が近くて、昔から兄妹みたいに仲が良かったけどなぁー」


 妹ではないらしいが、それに近い存在であるようだ。どこかの軽めの小説によくある設定に、龍一と須郷は目を細める。そこに、丁度その話を聞いていた磯部が乱入する。


「ふーん。あんなに可愛い子が近くにいるのに、なんで年上好きなの?」

「――おい、磯部。そろそろ切れるぞ」


 磯部を「こめかみぐりぐりの刑」に処したあと、鼻息荒く席に座ると体を乗り出して話し始める。


「あのなぁ、お前ら夢見すぎなんだよ。顔は確かに可愛いかもしれないけどな、性格は――」

「――あ、お兄ちゃん! そう言えば、お母さんがー『次忘れたらもう作らねぇぞ!』って言ってたよー。……じゃ、ちゃんと伝えたからねー?」

「お、おぅ……」


 いつから居たのか、タイミングの良すぎるカットインに佐藤は冷や汗を拭う。


「……まぁ、お前ら。夢は見るなって話だ」


 何があったのかまでは、誰も問わない。ただ、綺麗な花にはとげがあるとはよく言った物だと感心するだけだった。







「今日からだな!」


 あと一時間で学校が終わるという時、佐藤はやけに嬉しそうにそう言う。いまいちピンとこなかった龍一だったが、隣に座っている須郷は、なぜ佐藤が嬉しそうなのか分かっていた。


「あー、中間なー」

「へへっ。テスト期間に入ったら、ようやく、あのきつい練習から解放されるぞぉー!」


 そこでようやく龍一は佐藤が言わんとしていることを理解した。本来なら、テスト期間が近づいて来ると憂鬱になるはずなのだが、運動部で、特に厳しいと言われているサッカー部に所属している佐藤からすれば、厳しい練習から解放される日でもあるのだ。


 ただ、同じ運動部に所属している須郷は違う様で、少しあきれ顔で佐藤を見る。


「おいおい、テスト期間は勉強のための期間だぞ?」

「お前も一年の時は同じこと言ってただろ?」


 須郷は一瞬間を置く。二人は一年時からの付き合いなのでお互いの事をよく知っている。どうやら、一年前の須郷は同じようなことを言っていたようだ。しかし、二年生になった須郷は諭すように佐藤に声をかける。


「……俺らもう二年だぞ? そろそろ現実見ようぜ!」


 須郷のド正論を受けて、佐藤は両手で耳を塞いで聞こえないふりをする。どうやら、勉強する気は全くないようだった。


「花田くんはテスト期間はどうするの?」


 佐藤を無視して、須郷は龍一に問いかける。普段から勉強をしている龍一からすると、特段変わったことをする必要もなく、いつもの様に図書館で勉強をするだけだ。


「俺はいつも通り図書館で――」

「――あれ、テスト勉強の話してる?」


 龍一が答えている所に、最近よく話をする女子が割り込んでくる。少し長めの黒髪に、たれ目気味の大きな目。大柄な龍一と比べると小さく見えるが、女子の中では背は高い方に入るだろう。


 その後ろには、彼女とよく一緒に行動している女子が二人いて、龍一と彼女とを交互に見ていた。


「そうだ――」

「あぁ! そうだぞ!」


 須郷が答えようとしている所に、カットインで佐藤の大きな声が割り込む。さっきまで耳を塞いで聞こえないふりをしていたというのに、変わり身が早すぎる。


 三浦は「そうなんだー」と小さく頷いた後に前のめりに龍一に詰め寄る。


「ねぇ、私達もその勉強会に参加してもいいかな? そろそろ真剣に勉強しないとまずいし……」

「いや、俺は一人で――」

「是非是非!」


 ――コイツは何を言っているんだ?!


 流石の龍一でも、心の中でそう叫ばざるを得なかった。しかし、佐藤の勝手な発言を咎めるまもなく、三浦の嬉しそうな声があがる。


「やった! じゃあ、放課後よろしくね!」


 何故か嬉しそうな三浦と終始驚いた様子の女子たちは、嵐の様に三人の男子の輪を去っていく。


「……佐藤」


 須郷の軽蔑のまなざしと、龍一の鋭い眼光が佐藤を襲う。さっきまで、あんなに勉強したくないという旨の言動を繰り返していたにもかかわらず、三浦が来た途端に態度を豹変させたのだからそういう視線にさらされてもおかしくはない。


 流石の佐藤も悪い事をしたとは思っているようで、両手を合わせて頭を下げる。


「悪い!――でも、俺の恋の為なんだ。協力してくれ!」 

「……はぁ」


 佐藤にはこれまでの恩もある。それに、今更になって勉強会を取りやめるというのも三浦たちに悪い気もする。龍一はため息をつきながらスマホを取り出す。


 メッセージの送信先は「椎名こころ」だ。


『すまない

 テスト期間中は一緒に帰れそうにない』


『分かりました!

 テスト期間中はしいちゃんもみいちゃんもお休みなので

 大丈夫です!』


 数秒で返信が返ってくる。どうやら、三田村詩乃も同様に部活動が休みであり、高野美穂もテスト期間中という事もあってバイトは休んでいるみたいだ。


 不幸中の幸いというやつだろうが、少し寂しい気持ちもある。


「……あれ? 彼女に連絡?」

「ち、ちげぇよ」


 須郷からの珍しいからかいに、龍一は口どもりながら否定した。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!


今回からちょっと展開変わります。

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