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22話 お出かけ(デート)①

本日2話目です。




「――ねぇ、デートって何?」


 休み時間、一年一組の教室の隅っこで三人の女子生徒が輪になっている。そして、つい最近「棘の龍一」という学校でも有名なヤンキー(仮)の連絡先をゲットした美少女からそんな言葉が飛んでくる。


 勿論、その場にいる二人に投げかけれらた質問なのだが、視線は自然と片方へ向く。そして、その片割れも自然と黒髪ロングの女子生徒へと向いた。


「……いやいや、何で二人とも私の方を見るの?」


 黒髪ロングの女子生徒である美穂は、二人からの熱い視線に困った顔を浮かべながらそう言う。


「えー、だって私は部活と趣味で忙しいしー」


 その片割れでショートカットの女子である詩乃はわざとらしく目を右へ左へと動かしながら、おどけたように答える。


 ただ、美穂だってバイトで忙しいのだ。以前はバイトがない日は椎名と一緒に帰って、家で一緒に遊んだりもしていた。しかし最近はそうもいかないので、適当に街をブラブラしてから帰っている。ただ、別に一緒に遊んでいるのは同じバイトの女子友達くらいのもので、別に付き合っている人がいるわけでは無かった。


「私だって、別に付き合ってる人なんていないよ?」

「でも、付き合たことはあるでしょ?」

「……それは、まぁ」


 それを言い出したらあんたもでしょ、と言いかけて美穂は口を閉ざす。詩乃の過去の恋愛事情はあまり深堀しない方がいい。彼女がBLに目覚めたのは、その恋愛歴に原因があるからだ。


 椎名は恋愛に関して知識が無いし、詩乃はあまりその話をしたがらない。仕方がないので、自分なりの答えを話し出す。


「デートって言っても、買い物したり一緒に帰ったり、遊びに行ったり、家に行ったり? とりあえず、一緒に居ることがデートなんじゃないの?」

「……じゃあ、あたしって毎日デートしてるってこと?」


 美穂の基準ではそうなってしまう。しかし……。


「……帰りに寄り道なんかしたらデートになるんじゃない? こころの場合は……同伴?」

「おぉ、なるほど!」


 同伴という単語に詩乃は納得したように、ぽんっと手を叩く。そして、そのまま視線を椎名へ向ける。


「――で、デートに誘うの?」


 椎名の一瞬で顔が一瞬で真っ赤に染め上げられる。話の流れからしてその流れになるのは当然なのだが、椎名自身は予期していなかったらしい。


「――ち、ちがうよ! その、お礼をしたいと思って。でも花田先輩の趣味とか分からないから、一緒に買い物に行って、それでって思ったんだけど……」

「あー、なるほどね。だからデートって何かって聞いてきたんだ」


 椎名の言いたいことは何となく二人に伝わった。律義で真面目な椎名らしい思考だろう。


「ねぇ、みいちゃん! もし、異性のお友達同士で買い物に行ったら、それってデートなのかな?」

「え、うーん……」


 美穂は言葉に窮する。そこの部分は、その人同士の関係性による所なのだろうが、正直、美穂の目から見た二人の関係性を鑑みると「デート」になってしまう気がする。


 しかし、そんな美穂の思考を隣に座っていた詩乃が一蹴する。


「――てか、どっちでもよくない?」


 まさに鶴の一声とでも言わんばかりに場が収まった。デートであろうとなかろうと、椎名がお礼をしたくて一緒に買い物をするのならば同じことだ。結局は端から見た他人がどう思うかだけで、本人同士の意志などは一切関係ないのだから。

 

 短い休み時間は瞬く間に過ぎ去っていった。







 金曜日の夜。椎名は、自室のベッドの上でスマホとにらめっこしていた。


「どうやって誘えばいいのかなぁ……」


 左手の掌にスマホを乗せて、右手の人差し指で画面を操作する。何度も打って消してを繰り返し、既に10分以上が経過していた。


『日曜日、一緒にお買い物に行ってくれませんか?

 お礼もしたいですし、

 花田先輩のことをもっと知りたいでs』


「――これじゃダメ! あたしが意識してるのがバレちゃうもん」


 書きかけのメッセージを勢いよく消し去る。そして、新たな文章を書き始める。


『椎名です

 いつもお世話になっているので、お礼がしたいです。

 日曜日、お時間頂けませんか?』


「……これじゃ、堅いよね」


 再度消す。どこかで見た定例文をなぞったようなメッセージで、こんな可愛くない文章を龍一には送りたくはなかった。もっと柔和で、それでいて簡潔な文章を……。


『いつも一緒に登下校してくれてありがとうございます!

 よければ、日曜日、一緒にお買い物に行ってくれませんか?

 お礼もしたいので!

 お願いします(>x<)』


「――うん、これで良い……と思う」


 椎名は20分ほどかけて打った文章をくまなく確認する。失礼ではない範疇には収まっているはずであるし簡潔にもまとまっている、と思う。


 椎名はスマホを天井へ掲げるように持ち上げて、「えい!」っと小さな声を上げながら送信ボタンをタップする。


 送ってしまった。もうこうなったら後戻りはできない。

 

 椎名はじっと画面を見続ける。すると、予想以上に早く既読マークがついてしまったので、急いでアプリを閉じて画面を伏せる。


 1分――いや、65秒が経過してから椎名はぱっと画面を回転させる。すると、新着メッセージの部分に龍一からの返信があった。


『分かった。日曜日だな』


「……やった。やったぁー!」


 椎名は急いでアプリを開いて、『ありがとうございます!』と打ち込む。そして、勢いよくベッドから立ち上がると、クローゼットへと向かう。


「――どうしよう。えっと、お店を決めないとでしょ。あとは、服も決めないと……!」


 お気に入りの服を引っ張り出して、ベッドの上に並べていく。すると、ベッドの脇に置いてあった姿見に移る自分の姿が目に入る。


「あ、あとは……」


 椎名はスマホを開いて、とある条件の場所を探す。そして、その条件にあう場所を見つけて即座に予約したのだった。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!


今回からお出かけ(デート)編です。可愛い二人を優しく見守ってあげてください。

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