5月2日:尾行
「こっちよ、夜音クン! 早く!」
緋澪先輩が、小さな声で僕を呼びながら、腕をブンブン振って僕を手招きした。
「っていうか……何で緋澪先輩までついてきてるんですか?」
「だって、尾行なんて面白いこと、一人でやるなんてずるいわ!」
そう、僕たちは今、日向さんの例の彼を尾行しているところだった。
名前は、後藤剛貴と言う。背が高く体格もかなりいい。怯えるものなんか何もなさそうだけど……
「……高也、来たぞ」
学校から尾行を始めて、かなり離れた神社。僕たちが少し離れた木陰に身を隠していると、そこで彼は立ち止まり声を出した。声は若干震えている。
「おう、よく来たなー。ビビって来ないと思ってたんだが」
「……あぁ」
「んじゃとりあえず……」
緋澪先輩は目の前の光景に息を飲んだ。神社の裏から、十数人の男たちが鉄パイプやらバットやら、物騒なものを持って現れたのだ。
「これじゃまるで……」
緋澪先輩が、恐ろしそうに見ている。無理も無い、これは……リンチだ。
「……やれ」
高也と呼ばれた男が言うと、男たちがニヤニヤと笑いながら剛貴に近づいた。
彼は手を握り締めながら目を瞑った。
「嘘……」
次の瞬間、剛貴は地面に投げ飛ばされ、赤いものが飛び散った。
「夜音クン! 何とかできないの?!」
緋澪先輩は完全に動転した表情で僕に尋ねた。……そんな無茶な……
「緋澪先輩、ここから離れましょう。ここに居たら僕たちまで危ないです」
「でも……」
「早く」
僕は緋澪先輩の手を引いてその場を離れた。
ある程度神社から離れたところで、緋澪先輩は足を止めていった。
「夜音クン、放っておくの?!」
「あの中に入っていったところでどうしようもないでしょう? あの人数相手じゃ。それに……あの、高也って呼ばれていた奴。以前に聞いたことがあるんですが、あいつはかなりやばいらしいです……何で彼があんなのと関わってるのかはわかりませんけど……」
「やっぱり助けに行こ!」
この人は何を聞いてたんだ……
「こんなことにばっかりやけにこだわりますね……」
「当たり前でしょ! 私による世界平和その他諸々のための部活、それが呪術部なんだから!人助けくらいしなくてどうするの!」
まったくこの人は何を……
「いいですか? どちらかというとあれは警察沙汰でしょう? 僕たちが首を突っ込んでも意味がないんです」
「だからって、今放っておいたら、かなりやばい状況だったじゃない! ……大丈夫、私にいい作戦があるの」
「作戦……?」
「とにかく、私に任せて! 夜音クンは少し手伝うだけでいいから!」
……凄く不安なんですけど……
しかし、緋澪先輩の目はいつに無く本気……のように見える。
「ついてきてね!」
緋澪先輩は僕を置いて、神社の方向へと戻っていった。
「……そんな……」
正直、絶対に行きたくない。
怪我とか、そういう問題ではない。とにかく、僕があの場に行くことで、僕はやっと手に入れた何かを失う。
……最初からこの手の話だとわかっていれば、僕一人で来て、問題なく解決できたのに。
僕もてっきり緋澪先輩が言うとおり、浮気か何かと思ってしまっていた。
もう……帰ってしまおうか。怖かったと言ってしまえばそれで済むはずだ……
……。
「拒否権はなし! よ」
不意に僕の頭に、笑顔でそう言う緋澪先輩が浮かんだ。
「……そうですか」
僕は、既に緋澪先輩の姿は見えなくなった神社への道へと走り出した。
こんばんは、甘味です!
シリアスな感じですが、シリアスを書いてしまうと、所謂……中二な雰囲気になってしまうので、ちょっと見ている方も若干引いてらっしゃるんじゃないかと、かなりビクビクしております。。
でも、最初から考えてた絶対に必要な設定(?)が残されているので、頑張りますよ!
でも次話は少し小休止。番外編をお届けします!
それでは、次話もどうぞよろしくお願いします。