4月30日:目安箱
「お疲れ。どうだった?」
……どうだったも何も。この姿を見てわかりませんか。この泥だらけ血まみれの状態を見て。
「あれ、何か怒ってる?」
「……怒るに決まってるでしょう? 何が楽しくて僕はあんなことをやらされるんですか?」
あんなこととは、猫探しのことだった。何故僕が猫探しをしていたかと言うと、それには色々と説明が必要になる。
とりあえず始まりは緋澪先輩の一言。
「そうだ……部活作ろう」
僕もそうだが、緋澪先輩は部活に加入していなかった。特に興味があるものがなかったのだ。
緋澪先輩は『あること』を除いて。
「そうよ! 私による世界平和その他諸々のための部活……呪術部を作りましょ!」
そう、緋澪先輩が好きなもの。それは、『呪術』だ。僕はそれが何なのかは知らない。緋澪先輩にだけ見える気持ち悪い世界だ。
「……と、言うことで、生徒会に掛け合ってきたの」
そう言って緋澪先輩は僕に紙の束を差し出した。最初の一枚には『グランド整備のお願い』と書かれていた。
「職員室の前に置いてある『目安箱』って、君も知ってるわよね?」
目安箱とは、生徒会が運営している学校に対する不満や要望。その他個人的な悩みなどを投稿するために作られたものだ。
「そこに送られた依頼を、定期的にやれば部活として認めてくれるらしいの。……と、言うことで今回の分だから、夜音クン。よろしくね」
……ということだ。いつの間にか僕は加入することになっていたらしく、今回の猫探しもその依頼の一つで、拒否権なして僕がやらされていたのだ。
「……とにかく、もう寝ていいですか。かなり疲れました」
「君ってすぐに寝たがるのね? 病気?」
何て失礼な人だろう。と思いながらも僕は、近くの机に伏せた。すると緋澪先輩は、はぁ。とため息をついたあと、ガサガサと音を立て始めた。そして、すぐに僕の背中を思い切り叩いた。
「痛っ!」
「これ見て! 何だか面白そうじゃない?」
僕が痛がるのも気にせず、緋澪先輩は一枚の紙を差し出した。
「ちょっと待ってください。いきなり叩くってどういう……」
「はいはい、ごめんごめん。ほら、そんなことより、早く見て!」
何て自分勝手な人だろう。と思いながらも僕は、緋澪先輩の差し出す紙を読んだ。
「『彼が変なの。助けて』って……」
そんなことを目安箱に入れてくるっていう行動も十分変だと思うんだけど。
「……じゃ、頑張ってこの子を助けてあげてね」
「結局僕がやるんですか! ……面白そうって言ってませんでした?」
「えぇ、言ったわ。夜音クンが頑張るのを『見るのが』面白そうって」
あぁ、そうですか。
「とにかく、よろしくね。これもちゃんとした依頼の一つなんだから」
「っていうか、僕元々関係ないんですけど……」
「拒否権はなし! よ」
僕はもう何だか面倒になり、また机に伏せて目を閉じた。