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8.わからないから知らない

 思わず宇喜多に見惚れていると、サトルがお手洗から戻って来て、


「悪い、待たせた―――――って、シオリ、なんかあったのか?」

「えっ! あ、う、ううん! なんでもない、なんでもないよ!」


 宇喜多は両手をぶんぶんと左右に振りながら、脱兎のごとく俺から逃げるように離れた。


 ……………はっ。


 ふう………、危ない。

 俺としたことが、恋愛病に罹るところだった。サトル、よくやった。

 宇喜多はビショウジョといって過言でもないから、そんなオンナノコにあんな態度やら仕草をされては、病床に臥してもおかしくはない。オトコとして当然の反応をしたという範囲にとどめることができたと言えるだろう。


「……………タカ?」

「なんでもないぞ、なんでも」

「そうか、それならいいんだが」

「そ、それより、もうトイレはいいのか?」

「え? あ、ああ。まあ、こうして戻ってきた、ぞ?」


 サトルは困惑顔を浮かべて、俺を見やる。

 誤魔化すの下手か、俺。トイレから戻ってきたんだから済ませてるに決まってんだろ。

 いかん、まだ少し動揺が見られる。早く平常運転に戻らないと。

 深呼吸をして素数を数えるんだ………。


「…………ごめんなさい、遅れたわ」


 素数を53まで数えたところで、時雨沢が戻ってきたらしい。

 落ち着くついでに、先に伝言を済ませておくか。


「時雨沢、ちょっといいか?」

「…………何かしら?」

「さっきの電話、美穂さんからだった。夕飯までにかえって来いって……、お前、スマホの電源切ってるだろ」

「…………わかったわ」

「……………………?」


 話している間、時雨沢がなぜか目を合わせようとせず、下を向くばかりだった。

 詳しくは知らないけれど、オンナノコの日ってやつだろうか。気落ちするとは聞いたことがある。


「タカっち、ミホさんって、もしかして時雨沢さ――――、みのりんのお母さんかお姉さん?」


 と、宇喜多。

 なぜ言い直した。


「まあ、時雨沢の母親だな。時雨沢に家庭教師をしてもらってるって話したろ? その関係でな」

「へ、へー。か、家族ぐるみなんだ。ふーん」

「家族ぐるみっていうか……、まあ、なんかもうそれでいいや」


 契約相手がバイトの保護者の連絡先を知っているのは当然だとかなんとか、親父が言っていたような気がするが……、説明する必要もないだろう。


「なあ、時雨沢さんの夕飯の時間って何時くらいなんだ?」

「さあ、それは本人に聞いてくれ」


 流石にそんなことまで知るわけがなかった。ストーカーじゃあるまいし、時雨沢はただの隣家の娘で家庭教師というだけである。


「そうね、大体、あと一時間くらいかしら」

「一時間だと、もう遊んでらんないねー。今日はもう、解散しよっか?」


 宇喜多が言った。


「そうだな。時雨沢さんとタカもそれでいいか?」

「俺は別に。時雨沢は?」

「……………いいわよ、別に」


 と、聞こえるか聞こえないか微妙な声量で、時雨沢がぼそりと言う。

 マジでどうした。


「それじゃ、今日はもう解散だな」

「はーい。まあ、決行疲れてたし、丁度良かったかもだね」

「あ―――っと、そうだ、タカ」

「?」


 サトルがわざとらしく、思いついたようにぽんっと手を叩いて、壁の隅へと移動すると、俺を手招きしてきた。

 え、何あの猿芝居。絶対、思い付きじゃないだろ。


 妙な予感を覚えながらも、サトルの下へと歩み寄る。

 サトルは俺の肩を組んで、顔を近づけてきた。


「え、なに? 俺にはそっちの趣味はないんだけど」


 そういうのは同意を得てやってほしい。


「俺にもねえよ! そうじゃなくて、頼みたいことがあるんだよ」

「頼みたいこと?」

「ああ。この後、お前も家に帰るだろ?」

「まあ、そりゃな」


 別に行きたいところもないし。


「なら、俺がシオリを家まで送るから、お前が時雨沢さんを送ってほしいんだ」

「…………まあ、わからなくはないんだが、こんなこそこそ話すことか?」

「本題はここからなんだよ」


 サトルは一泊置いて、続ける。


「時雨沢さんに、好きな人がいないか聞いてほしいんだ」

「はあ?」


 思いがけない言葉に、俺は変な声を上げてしまう。

 いや、だって、あれだよ? 好きな人を聞くってそれ、『僕、君が好きなんだ!』って言ってるようなもんだよ?

 なめとんのか。


「いや、自分で聞けよ」

「無理無理。時雨沢さんが俺に話してくれると思うか?」

「逆になんで俺なら話すと思ったのか、10文字以内で教えてもらおうか」

「仲いいじゃん」

「よくねえよ?」


 時雨沢と俺のどこが仲がいいように見えるのか。むしろ、時雨沢に仲の良い奴なんて――――


 ―――――――あの子は綾鷹君を信用しているから


 ふと思い出すのは、美穂さんの言葉だった。

 いや、いや、ない。ない……とおもう。

 だが、サトルの人を見る目に関しては、一定の信用を置くことができる。そのサトルがいうのであれば、あるいは、というこのもあるかもしれない。


 だから何だ、と言う話なのだが――――――。


「――――――そう見えるのか?」

「見える見える。お前、気づいてるか? 時雨沢さんが変な冗談をいうのって、お前だけだぜ?」

「まあ、一応は幼馴染、だから……?」

「だとしても、だよ。な、頼むよ。朝、協力してくれるって言っただろ?」

「それは………」


 そう言われると、確かに弱い。それに、親友の頼みを無碍にすると言うのも、なぁ………。


「わかった、わかったよ。聞けばいいんだろ、聞けば」

「流石、親友! 頼りになるぜ!」

「げほっ……痛、痛いっての!」


 バンバンと背中を叩かれて、咳込む俺。お前、運動部としての自覚を少しはもちなさい。


「んじゃ、頼んだぜ―――――――おーい、シオリ、俺が送ってやるよー」


 サトルは俺から離れて、二人の元へと駆け寄っていく。

 今のサトルを見ていると、本当に、恋愛病とは難儀なものだと再認識させられる。






 夕方6時過ぎ、時雨沢と二人。

 流石に春先とはいえ、日が暮れるのは夏ほど遅くはなく、夕暮れもお空のかなたへと消えてしまっている。

 あたりを照らすのは、その残り香ばかりで、暗さに慣れていない目は足元すらはっきりと映しやしなかった。


「………………」

「………………」


 並行して歩く俺達の間には、沈黙が居座っていた。

 ゲーセンを出た時からずっと、時雨沢は口を噤んでしまっている。つい先ほどまで、小学校時代を彷彿とさせるくらいには元気だったはずが、今は逆戻り――――、いや、むしろ悪化しているとさえいえるだろう。

 やはり、オンナノコの日なのか

 しかし、このままではサトルの頼みを果たすこともできない。

 どうしたものかと、内心で頭を抱えていると、


「ごめんなさい」


 静かに歩いていた時雨沢が、唐突に謝りだした。

 え、なに? 急にどうしたの?


「その、私、わかったから」

「え、ちょっと、何? 急にどうした?」


 まさかとは思うが、時雨沢も宇喜多と同じクスリをキメているのだろうか。最近の流行り? 俺にも教えて?


「わからないなら、いいわ」


 でたよ、オンナノコにたまにある『わかんないなら、もう知らないっ!』ってやつ。

 ほんと、無茶ぶりやめてくれない? 機嫌でも悪いの?


「いや、話さなきゃわからねえけど……?」

「いいのよ、これは私の問題だから」


 気になるところだが、時雨沢はこれ以上話す気もないとばかりに、再び口を閉じる。


「…………なんだってんだよ、もう」


 隣の幼馴染さんが何を考えてるのかが、まるでわからん。

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