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第二話part2

久遠を男性にするか女性にするか迷ってあの口調になりました。

自殺相談所レスト 2-2





登場人物

嶺井リュウ……超能力者。真面目。

依藤ヨトウシンショウ……殺し屋。不真面目。

久遠……嶺井の幻覚(?)敵意はない。





 嶺井リュウは一人暮らしだ。大学卒業後に家を出たときは、職場に近い、安いアパートに住んだ。その後仕事を辞める時に、今の借家に移り住んだ。この家は事故物件であり大家も持て余していたという。霊的なものを信じず、嘱託殺人を生業とする嶺井には、人の寄り付かないこの一軒家はぴったりだった。


 その日嶺井は朝八時に家を出ると、いつものように駅へ向かった。健康のため駅までは歩くことにしている。

 

 どこからだ?


 先日、自分が何者かに尾行されていることを知った。当然自宅は突き止められているだろう。尾行がどこから始まっているのか、まずはそこを知る必要があった。


「久遠、いるか?」


「呼びましたか?」


 数メートル先の電信柱に、この間と同じ、白いワンピース姿で彼女は居た。嶺井は立ち止まることなく、小声で久遠に話しかけた。


「僕がどう生きるか見たいんだろ?手伝ってくれ。」


「ほう、というと?」


「僕を尾行する人間を探してほしい。今、僕はつけられているか?」


「ええ。十メートルほど後ろに、いつもの男がいますね。」


「わかった。僕はこのままいつも通り事務所に向かうから、男に変わった様子があったら教えてくれ。」


「構いませんが……まさか私がこんな役回りにされるとはねえ。」


「僕の意識の中に居候するんだ、少しは働いてもらう。」


 久遠は笑いながら嶺井の後ろをついてきた。


「私に臆するどころか道具として利用するとは、面白くなってきましたよ。」


 次に嶺井は歩きながら、一件のメールを打った。依頼人や関ではない。嶺井にとって唯一、仕事仲間と呼べる相手だ。


『事務所に来てくれ。どうせ暇だろ?』


 すぐに返信が来た。




 嶺井は電車に乗り、尾行の男もついてきた。


 確かあの男は刑事や探偵ではないと久遠は言っていたが……


 ためしに、嶺井は人の乗り降りが多い駅で途中下車し、人ごみに紛れた。


「おお、尾行の男があなたを見失っているようですよ。」


 久遠が背後を実況してくれている。嶺井は今降りた車両の隣の車両に乗り込んだ。


「上手いですね、男をまけましたよ。」


 だがこれはほんの実験に過ぎない。


「久遠、尾行の男が戻ってくるかどうかを見ていてくれ。」


「はいはい。」


 尾行や監視が一人であるとは限らない。万が一警察沙汰になったりしたら、どうする?僕の力は殺しの証拠を残さないが、警察に力のことを隠し通せるだろうか……




 事務所には、既にメールの相手が到着していた。ソファでくつろいでいる。


「おうおう、几帳面なお前が遅刻なんて珍しいねえ。」


 嶺井は別に遅れてはいない。彼はいつになく先に着いたので調子に乗っているのだ。


「突然で悪い。来るとき誰かにつけられたりしてないか?」


「俺を誰だと思ってんだよ?そんなのいたらすぐ気づくぜ。」


 彼の名は依藤シンショウ。ひげも髪も伸び放題、ジーンズにジャケットというラフな格好の、年令不詳の男だ。実は彼は堅気の人間ではない。暗殺業、つまり殺し屋だ。


「依藤、ここ最近僕を尾行している人間がいる。今日もまいてきた。」


「おい、とうとうサツに嗅ぎつけられちまったのか?」


「わからない。とりあえず捕まえて尋問してみようと思う。」


 視界の隅で久遠の驚く顔が見えた。


「うっひょー!いいねそれ!俺もやる!」


 依藤は楽しそうに声を上げた。彼はかなりの変人で、殺し屋をやっているのも『刺激を求めた』からなのだ。嶺井が何か新しいことをするとき、声をかけると依藤はこうして乗ってくる。たとえそれがどれだけ危険なことでも。


「君ならそう言ってくれると思ったよ。今回はさらにもう一つ、試したいことがあるんだ。」


「試したいこと?」


「僕の力の新しい応用だ。具体的には、人の記憶の消去ができないか試したい。」


 久遠が興味津々でこちらを見ている。


「お前の力ってそんなこともできんのか?」


「まだやったことはない。でも、この間ヒントを得てね。人は二度死ぬっていうだろ?一度目は肉体の死。二度目は人々の記憶からの死。その二度目の死だけを引き起こせないかと思ったんだ。」


 依藤はいまいちピンと来ていない顔をしている。


「別に構わねえが、お前の力ってそういう頓智みたいな理屈なのか?」


「どうもそうらしい。この力は、僕の中で腑に落ちてさえいれば、ある程度言うことを聞いてくれるんだ。」


 嶺井の力はその昔初めて使った時より格段に使い勝手がよくなっている。最初は殺すことしかできなかったが、訓練の末に、手加減し気絶に留めることができるようになり、じかに触れないと効果がなかったのが、少しづつ距離を空けても力を使えるようになった。


「ふええ、おっかねえ、ほんとお前が敵じゃなくてよかったぜ。」


「でも、もし僕を殺したい人間がいるとしたら、君に依頼するのが一番だと思うよ。僕を一番よく知ってる君に。」


「怖えこと言うなよ、返り討ちになる未来しか見えねえぜ……まあでももしそうなったら、俺たちの友情に免じて、」


「ああ、君を安楽死させるよ。」


「殺しはするのかよ。」


 その後、二人は一時間かけて、尾行者を捕まえる作戦を練った。




「やっぱお前と一緒にいると退屈しなくていいなー。」


 頭を存分に働かせた依藤が、背伸びしながら言った。


「快楽主義は気楽でいいな。」


「いや、金には結構困ってる。」


「働け。」


 依藤は殺しの仕事ですら、つまらないと判断すると断ることが多く、常に金欠にあえいでいる。最近は嶺井の手伝いで小金を得たり、嶺井に金を借りたりしている。


「リュウ、そういやまだ聞いてなかったがよ、なんで記憶を消す技術が欲しいんだ?」


「ああ、それは、主に、関のためだ。」


「モモコちゃんの?」


「関は、今でもあの頃の記憶が蘇って苦しむことがある。それを消してあげられないかと思ってね。」


「ふーん、そうだったのか、全然気づいてやれなかったなあ。」


 嶺井は少し微笑んだ。いつもなら、このお人好しめ、などとからかわれそうなものだが、関の話題になるとこの男は急に優しくなるのだ。


「あ、そういやモモコちゃんは?そろそろ来る頃だろ?」


「今日は休みなんだ。」


「なーんだ。」


「だから依藤、今日はついでに事務を手伝ってくれ。」


「ええええええ……」


 ちなみに、依藤は現在、嶺井に50万円ほどの借金がある。逆らえる立場ではない。一部始終を見ていた久遠がつぶやいた。


「さては嶺井さん、あなた人使い荒いタイプですね?」

 


また個性あふれるキャラが増えましたね。依藤との会話は書いてて楽しいです。

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