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第二話part1

第二話は嶺井さんの視点になります。チヨちゃんは出てきますからご安心を。

自殺相談所レスト 2-1



登場人物

嶺井リュウ……超能力者。人に好かれるタイプ。

関モモコ……嶺井の助手。精神年齢低め。

五月女チヨ……JK。レストによく来る。

久遠クオン……嶺井の見る幻覚(?)






 嶺井リュウは、自分が人間ではないのではないかと本気で思っている、珍しいタイプの人間だった。何年か前までは、自分の理解力・思考力・コミュニケーション力といった能力的なものに自信過剰なだけの若者だった。だが現在の彼は人より優れているのではない、違っているのだ。


 嶺井はその昔、不思議な力に目覚めた。


 『自殺相談所レスト』は、彼が目覚めたその力を受け入れ、共に生きていく覚悟を決めたことの象徴でもあった。今でも自身の『力』に対する疑問は尽きない。自分はいったい何者なのか、自分のこの『力』は一体何の役に立つのか、と。




「みーねーいーちゃん!!!」


関モモコの甲高い声が事務室から聞こえた。次にドタドタと足音がし、ドアを激しく開け放って関が応接室に飛び込んできた。


「私!暇!!」


「関、僕は暇じゃないんだけどな。」


嶺井はいわゆる『塩対応』をした。しかし関は食い下がった。


「依頼人来てないよお?暇じゃん!」


「五分後には待ち合わせの時刻だ。」


「五分あればいっぱいお喋りできるね!!というわけで私の半日のダイジェストをお送りします!」


「関、持ち場に戻れ。」

「ああん、そんなこといわないでよお!ね、聞いて、聞いて?私今朝ね、味噌汁のえのきがが歯に挟まって大変だったんだから。」


「そうか。」


 嶺井にとっては心底どうでもいい話を延々と聞かされるのは、もはや日課だ。


「それでねそれでね、電車の中ではね、イケメンの男の子にナンパされたの!」


「良かったな。」


 ちなみに、一切心のこもらない相槌でも関は満足する。


「あとね、あとね、今朝嶺井ちゃんのことを尾行してたやつがいたから追いかけたけど、逃げられちゃったりとか。」


 ん?


「関、今なんて、」


「あ、もう時間だ、私戻るね。」


「おいっ!」


 関が事務室へと去ったと同時に、入り口のドアを叩く音がした。


 絶妙なタイミングだな……


「どうぞ、入って。」


 午後4時ちょうど。ドアを開け現れたのは、五月女チヨ……ショートカットで背の低い、16歳の女子高校生だ。彼女はこの相談所始まって以来の、常連だった。


「また来ちゃいました!」


「おとといぶりだね、チヨちゃん。どうぞ、座って。」


 言い終わらないうちに、チヨはソファに座っていた。


「私、どうしてもリュウさんに会いたくなっちゃって。」


「夏休みのほとんどをここで過ごしてないかい?」


「だってここが私の居場所ですし。」


 嶺井はチクリと心が痛んだ。


「前回は確か、高校生ユーチューバー牧村サトシ君のゼリー飲料動画の話の途中だったね。」


「ちゃんと覚えてるんですね!」


 困ったことに、こうしてチヨと雑談をするのも、嶺井の日課になっていた。いじめを苦に自殺しかけていた時に比べれば彼女はずいぶん元気になった。だが、相談所の常連にするつもりはなかった。ここは自殺相談所なのだ。生きがいとして通うような場所ではない。


 終わりにしなければ。


「あの、リュウさん?」


「え?」


「なんか暗い顔になってましたけど大丈夫ですか?」


 しまった、顔に出ていたか。僕としたことが。


「ああごめん、なんでもないよ。」


「そうですか……あの、実は前から聞きたかったことがあるんです。」


「なんだい?」


「その……リュウさんはどうしてこのお仕事を始められたんですか?これってその、つまり、人殺し、ですよね。悪いことじゃないのかなって……」


 彼女も、何も考えずにここに通っているわけではない、か。


「ああ、殺人はもちろん、犯罪だ。」


「でも、リュウさんは私にすごく優しくてくれましたよね。人を平気で殺せるような人には見えないなって……」


「人は見かけによらないものさ。実際僕は、もう何人もの人を安楽死させている。」


 この発言に、チヨは動揺したようだった。一瞬、居心地の悪い沈黙。


「ごめんごめん、怖がらせちゃったね。今日はここまでにしておこうか。」


「そう、ですね……」


 チヨはまだ引いている。


 当然と言えば当然か。彼女は僕が殺人者だという事実から、目を背けていたんだから。だが、これはチャンスだ。


「チヨちゃん、君の事情は分かっている。どこにも行くところがない間は、此処へ来るといい。けど僕らにはいつか別れるべき時が来る。それだけは覚えておいてほしい。」


「はい……」


 突き放されるように感じるかもしれないが、甘い夢ばかり見させているわけにはいかない。


 チヨは少し落ち込んだ様子で、帰っていった。


 彼女が歩いていくのを窓から眺めながら、嶺井はため息をついた。


 あの子にはいじめの専門家を紹介した方がいいな。僕では彼女の問題を解決できない。


 ふと、背後に悪寒を感じた。


「かわいそうなチヨさん。」


 嶺井が驚いて振り返ると、ソファに一人の女が座っていた。白いワンピースに身を包んだ黒髪の女で、手元を見つめ、あやとりをしている。嶺井は右手を構えた。


 この女、いつの間に?


「ご依頼ですか?」


 自分の声に警戒の色がにじんでいるのがわかった。女はこちらを向いた。


「はじめまして。私の名は久遠。そう警戒しないでいただきたい。仮に今殺し合いが始まったとしても、あなたに勝てる人間なんていませんよ、死神さん。」


 死神?僕の力のことか?


「何者だ?」


「その右手は降ろしてくれないんですね。触れた相手を死なせる……もしかしてこの距離でも効くんですかね?」


「質問に答えるんだ、何者だ。」


 嶺井は焦っていた。


「もし嫌だと言ったらどうしま、」


 久遠の声が突然止んだ。嶺井が力を使い、彼女の『声が殺され』たのだ。久遠は驚いた顔をするも、すぐににやりと笑い、


「容赦ないですね。あなたに危害を加えたりしませんよ?」


 どういうことだ?確かに力は使ったはず……


 嶺井は右手を下ろした。


「普通の人間じゃないな?」


「ええそうです。あなたをその力にちなんで死神と呼ぶのなら、私はその逆、『生き神』といったところですね。」


「生き神?君は人に命を与えることができるとでも?」


「ええ。できますよ。現に、私は不老不死の身です。」


 さっき僕の力は彼女の力で中和されたということか。


「それで、その生き神様が僕に何の用だ。殺してほしくなったのか?」


 久遠は呆れたように笑った。


「いい加減肩の力を抜いてくださいよ。私はチヨさんみたいに、あなたとおしゃべりしに来ただけなんですから。」


「おしゃべり?」


「私はね、嶺井さん、あなたの生き方に興味があるんですよ。私と同じように、常人ならざる力を持ったあなたが、どんな正義、信条、価値観を持って生きていくのかにね……」


 本当にそれだけか?


「別に君が期待するようなことはない。僕は自分の力を何かに活かそうとしているだけさ。」


「先ほどのチヨさんの質問にもそう答えるつもりでしたか?」


 『リュウさんはどうしてこのお仕事を始められたんですか?』というチヨの質問を思い出した。


 チヨちゃんとの会話も聞かれていた?この女はずっとドアの向こうに隠れていたというのか?


「もちろんそのつもりだ。それよりあんた、いつどこで僕に目を付けた?一応この力のことは秘密にしているんだ。さっき関の言ってた、僕を尾行してたやつってのはあんたか?」


 久遠はまた笑い出した。


「これは失礼、説明不足がありましたね、ちょうどいい、その関さんが戻ってくるようですよ。まずは状況を把握してもらいましょう。」


 事務室のドアが開き、帰り支度を終えた関が出てきた。久遠には目もくれず、嶺井に話しかけてきた。


「ねえ嶺井ちゃん、依頼人帰ったよね、誰と話してるの?」


「誰って……」


 嶺井は久遠を指し示そうとしてはっとした。


 この女、まさか関に見えてないのでは?


「いや、すまない、少し疲れて独り言が出ただけだ。」


 嶺井はとっさにごまかした。


「ふーん……それより嶺井ちゃん、あの子、また来たの?あたし二日に一回くらい見てる気がするんだけど。やばくない?まずくない?そろそろボディガード・モモコ出撃じゃない?」


 とりあえず関は帰そう。巻き込むわけにはいかない。


「関、すまないがしばらく一人になりたい。先に帰っててくれないか?」


 関はショックを受けたような顔になった。


「そ、そう、わかった……関モモコは先に帰ります……一人寂しく、満員電車に揺られてきます……」


 関はとぼとぼと入り口のドアから出ていった。嶺井は久遠に向き直る。


「関には君が見えてなかった。不老不死以外に何ができる?」


 久遠は逆に質問してきた。


「嶺井さん、あなた、『人は二度死ぬ』という言葉をご存じで?」


 何の話だ?


「一度目は肉体の死、二度目は人々の記憶からの死、ってやつか。」


 記憶からの死……まさか?


「そう。どうも私が克服したのは、肉体の死だけではなかったようでして。私はね、『他人の意識の中に自分を存在させておくこと』ができるんですよ。勝手ながら私は今、あなたの意識の中に居候しているというわけですね。それでほかの人間には私が見えない。」


「つまり君は幻覚と変わらないわけだ。迷惑な話だな。」


「いやあすみませんねえ、実は私、他人の中に自然発生しちゃうのを自分でも止められないんですよ、おまけに不死身ですので消えたくても消えられない。まあ私は無害ですし、仲良くやりましょう?」


 久遠の口ぶりには、少しも悪びれている様子はなかった。


「率直に言うよ、久遠。僕は君が気に入らない。消えることができないというならせめて、僕の邪魔はしないでほしい。」


 チヨや関と違い、久遠は少しも凹んでいないようだった。


「わかりました。ご希望に沿いましょう。そうだ、今朝の尾行の人物ですが、」


 知っているのか?


 嶺井は久遠に悟られないように聞き耳を立てた。


「私は関与していません。ですが、数日前あなたの中に発生したときから、あなたはもう尾行されていました。曲者はいつも同じ男です。やり方が素人臭いので刑事や探偵ではなさそうですね。」


「急に協力的だな。信用が欲しいのか。」


「いえいえ。あなたがどうするのか観たいだけですよ。」


 とことん、他人の人生を分析して咀嚼する趣味ってわけか。


「そうか、もう好きにしてくれ。」


 嶺井は久遠のことを無視し、帰り支度を始めた。


 今日が早上がりの日で良かった。




 人生に悩みはつきものだというのが嶺井の持論であった。その量や質で次第で人は強くも弱くもなる。彼自身、依頼人に対しこの言葉を慰めや励ましとして用いたことはなんどもある。嶺井は降りかかる悩みの種に対する受け身の取り方には自信があったが、今回ばかりは、自分がいくばくか滅入っているのを感じていた。


久遠は見た目20歳、中身40歳くらいです。

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