第一話part3
言い忘れてましたが、チヨちゃんはショートヘアです。
登場人物
五月女チヨ……JK。空気読めよってよく言われる。
栗島……いじめ女子。ルックス良し。
目が覚めた時、チヨは自分がなぜリビングのソファなんかで寝ているのかわからなかった。十秒ほどかけ、チヨは昨晩の記憶をたぐり寄せた。
そうだ、私、帰ってきてすぐ寝ちゃったんだ……
今日は学校の、夏休み前最後の登校日だった。始業までまだ時間はある。チヨはシャワーを浴びる事にした。
着替えも朝食も済ませ、通学カバンを手に取ったところでふと、思った。
これから私、学校に行くんだ……
気が重かった。しかし、今日を乗り切れば夏休みが始まる。それに勝手に学校をサボれば、まだ夜勤から帰ってきてない母が、いい顔をしないだろう。普段は娘のことは放置しているくせに、体裁の悪いことだけにはやたら口うるさいのだ。
今日一日だけ……とにかく今日だけでも……
チヨは通学カバンを引きずり、玄関へと向かった。
チヨの通う公立高校は、電車で二駅ほどの距離にある。春あたりには自転車で通っていたが、繰り返しタイヤをパンクさせられるので、電車通学に変えたのだ。
駅を出て、スーツを着た大人たちや、学ランやブレザーを着た学生たちの波に混ざる。ここまではいつも通りだ。チヨを傷つけるものは何も無い。
いつも通り、校舎に入る。
いつも通り、教室に入る。
いつも通り、席に着く。
あれ……何も、ない……
昨日あれだけ盛り上がっていたクラスのグループLINEも、静かだ。誰もチヨのことなど気にもしてない。
チヨは話し相手もいないので、ボーッとクラスメイトの様子を観察していた。みんな、明日から始まる夏休みが楽しみのようで、何をしようか、どこに出かけようか、などと話している。
そっか。私の事は眼中に無いんだ……
安堵はあったが、孤独が勝っていた。
その日の授業は午前中で終わり、締めに体育館での気だるい学年集会があった。学年主任が夏休み中の注意点、羽目を外しすぎないようにだとか、受験を見据えている人は今から勉強しておくものだとか、チヨにははっきり言って他人事だった。
教室に戻ってきて、集会の解放感から教室がざわついている時だった。チヨは視線を感じた。振り返ると、クラスカースト上位の栗島とその仲間たちが、こちらを見ながら談笑している。
「よく学校これるよねー。」
「面の皮厚すぎー。」
「あんな売女と同じ空気吸いたくないんだけど。」
見てない。聞いてない。無視だ、無視。
だが一度気にしだしたら、周りの声はどんどん耳に入ってくる。
「夏休みっていいよなー、嫌いな奴ともしばらくお別れじゃん?」
「お、誰のこと?」
「何言ってんだよ、みんなが嫌いな奴が1人いるだろ?」
私の事だ……
「あいつはもう二度と学校来なくていいよ。」
「さっさと転校して欲しいよねー。」
「あ、でも絶対転校した先でもハブられるよアイツ。」
私の事だ……
涙ぐみながら、チヨは帰り支度をした。担任の先生の締めの挨拶を聞いた後は、真っ先に教室を飛び出した。チヨは部活動はやっていない。家へと直行だ。
あまりにも早歩きだったため、駅の改札を抜けようとしてフラップドアにぶつかってしまった。定期券をポケットから取り出すのが間に合わなかったのだ。幸い誰にも見られていなかった。
あれ、定期どこにやったっけ。
ポケットの中にない。通学カバンの中を探すも、定期券は見つからなかった。朝は使ったのだ、どこかにあるはずだ。
うそ……学校に忘れた?
ポケットかカバンの中くらいにしか入れないが、そのどちらでも無ければ学校だ。せっかく急いで出てきたのに戻るのは悔しかったが、明日から夏休みで教室には入れなくなってしまう。
仕方ない……
チヨは来た道を再び早歩きで戻った。駅へと向かう同じ高校の生徒たちとすれ違う。その中に栗島のグループがいた。目が合った。
「慌ててる、慌ててるぅ。」
チヨの様子を見た栗島が言い、グループが笑い声を上げた。無視して通り過ぎたが、背後から「必死〜」「ダサッ」などと聞こえてきた。
教室にたどり着いた。まだ施錠されてはいない。自分の席、自分のロッカーを隈無く探したが、定期券は見つからなかった。チヨは座り込み、頭を抱えた。
まさか……盗まれた?
思い浮かんだのは栗島の顔だった。
「あいつはもう二度と学校来なくていいよ。」
そういうこと……?定期を盗ったのは学校来るなっていうメッセージ……?
さっきすれ違いざまに笑っていたのも、私が定期券を失くしていたのを知っていたからだろうが、証拠は無い。
「もう嫌だ……」
他に盗まれている物はないか、通学カバンの中を確認した。財布はあった。その中身は、
「あっ。」
昨日貰った、嶺井の名刺が出てきた。それを見た途端、一気に雑居ビルでの記憶が戻ってきた。
「嶺井さん……」
チヨは名刺をポケットに入れ、立ち上がった。自殺相談所は、学校からは歩いて行ける距離だ。
いじめの描写は、なんてひどいことするんだとおもいながら書いてます。