「うちの娘を誑かすなんて、どこの馬の骨だっ!」『異世界だよ』
『お父さん、ちょっといい?』
「何だ?」
『ちょっと、話があるんだけど……』
「分かった、少し待ってくれ」
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「どうしたんだいきなり」
『あのね、驚かないで聞いて欲しいんだけど』
「何だ?」
『えっと、私が行方不明になってた時の話なんだけど』
「……無理に話さなくてもいいんだぞ、お前が無事だったなら、それで十分だ」
『あーえっと、違うの、そういう話じゃなくて、いや、そういう話なんだけど』
「うん?どういう意味だ」
『あのね、今から突拍子もないこと言うけど……信じてくれる?』
「あぁ、父さんはいつも、お前の味方だ」
『……私ね、行方不明の間、異世界に行ってたの』
「そうか、それで?」
『えぇっ、軽くないっ⁉︎私の一世一代の告白、軽くない⁉︎』
「いや、結構驚いている。だがいちいちそうしてても話が進まんだろう」
『なんか納得いかないんですけど……」
「それで、異世界がどうしたと言うんだ」
『……まぁ信じられないよりはいいか』
『それでね、その行った先の世界で、私は勇者として呼ばれたの』
「ほう、それはまた」
『……なんか調子狂うわね。それでね、この世界をどうか魔王の手から救って下さいっ!て言われたの』
「……ふむ、その場にいたのは誰だ」
『えっと、王様と王妃様に宰相、護衛の近衞騎士団長と魔法騎士団長の2人と、私を召喚した張本人の第二王女ね』
「そうか、それで、異世界とやらと行き来は出来るのか」
『出来るけど、なんで?』
「その場にいた全員にお礼参りしてくる」
『やめてっ‼︎お父さんが行ったら本当にやりそう!お父さん、元軍人じゃないっ‼︎』
「なに、安心しろ」
『よ、よかった、それでね』
「一人も残さずにヤってくる」
『分かってないじゃん!』
「当たり前だろ、可愛い娘にそんな物騒なことさせようとするなんて。そいつら全員現代アートにしてやる」
『何でそこで無駄に芸術性を入れるのっ!』
「なに、女性は半殺しで済ますさ」
『温情があるようでない!それに近衞騎士団長と魔法騎士団長の2人、すごく強いんだからっ。近衞騎士団長のケイネスさんの剣は見えないくらい早くて一振りで鉄も斬っちゃうし、魔法騎士団長のヴェインさんはお城だって簡単に燃やしちゃうんだからねっ!』
「次元も斬れない剣士など話にもならん。それに、隣の安心院さんの所の旦那はたとえ鋼鉄製でも城を残さず焼ける」
『嘘でしょっ!なんでお父さんたちそんなこと出来るのよ‼︎』
「昔は物騒だったからなあ、これぐらい出来ないと話にならなかった」
『それ、絶対に日本じゃない』
「いや、日本の話だよ。まぁそれは一度置いといて、そのあとどうなったんだ?」
『……納得いかないけど今はいいや』
『色々考えたけど、私はその話を受けたの。剣道の経験とかもあったし、皆んなが困ってて、それをどうにか出来るならしたいと思ったから』
「……お前がそんな優しい子に育ってくれて嬉しい反面、もう少し自分勝手に生きるよう育てなかったのを後悔している」
『いいえ、結構自分勝手よ私』
『だってこのまま帰って、私が、後味が悪くなるのが嫌だったから助けただけだもの』
「……そうか、確かにそれは、嫌だな」
『でしょう?で、そのあと私は三ヶ月間の稽古を終えた後、魔王の住む城に向かって旅に出たわ』
「お供のような者たちは居なかったのか?」
『なんというか……私の力って協調性皆無なものだったから』
「どんなものだったんだ?」
『魔力、体力の常時強制搾取。後々オンオフができるようになったけど、最初は城でも隔離されてたわ』
「ふむ、ではとりあえず行ってく……」
『待って!ステイ!気持ちは嬉しいけどとりあえず最後まで聞いて‼︎』
「……分かった」
『はあ……まあそんな私にも世話係くらいはいるってなって、同年代のテレサって言う女の子が付いたわ』
「その子にはドレイン能力は効かなかったのか?」
『えぇ、一切の魔法が使えない代わりに魔法の類が一切効かない高い体質らしいわ』
「よかった、そこで男を送って勇者の血を手に入れる、とかってなったら、その国を滅ぼさなければいけない所だった」
『………』
「……さて、少し用事を思い出した。すぐ戻るから待って……」
『うわぁ待って!大丈夫、そう言う話は断ったし、その後それっぽいのも全部撃退したから‼︎』
「……分かった、半壊で納める」
『分かった、分かったからとりあえず座って』
「……で、そのあとは」
『魔王城に向かう途中で、私達は魔物の襲撃に会ったの』
『そこで結構傷を負っちゃったんだけど、その近くの村にアルトっていう医者にかかって助けてもらったの』
「そうか、その人には、礼を言わんとな」
『え、えぇ、そうね。そのあと私達は魔王の情報を集めも兼ねてその村に1ヶ月ほど滞在したわ』
『その後、魔王城では警備の人数が薄くなって魔王ですら1人になる日がある事がわかったの』
「祭りか儀式の類か?」
『ちょっと違うわね、彼らは1年のうちに数度、魔力が強まる日があるんですって。それがその日だったのよ』
『でも同時に凶暴性も高くなるから、人数を減らして衝突しないようにしたのね』
「ほう、そんな日が。だがその日ならば、魔王もより強く成ってしまっているのではないか?」
『そこはほら、私の力はドレインだったから、とくに問題にははならなかったわ』
「それは重畳、して、魔王とはどうなったんだ」
『魔王とは戦ったけど、ちょっと予定と違ってね』
「負けたのか?」
『いいえ、もちろん勝ったわ。けど…その魔王ね、魔法オンリーの完全後衛型だったの』
「ああ、なるほど読めたぞ」
「お付きのテレサくんがからんでくるんだな」
『正解、テレサは体術を修めてて、魔法が効かなくて戸惑う魔王をあっという間に壁画にしたわ』
「ふむ、いい趣味をしている」
『そ、そうかしら……、まあそんなこんなで魔王の理不尽な侵攻をやめさせて、各国の王と話し合いをするようにしたの』
「殺さなかったのは分かるがお付きのテレサくんはトドメを刺そうとしなかったのか?」
『私が止めたわ、そこまでこの国に責任負ってられないし、必ず禍根が残るって説得したわ』
「なるほど、良い判断だ」
『そ、それでね、実は1番大事なのはここからでね……』
「まだあるのか?」
『えっと、その……』
「大丈夫か?嫌なら言わなくても……」
『だっ、大丈夫!ちょっと心の準備が必要なだけ!』
「そ、そうか?」
『スゥーはぁー、……私ね、一緒になりたい人が
出来たの』
「……っ!そ、そうか」
『そ、それでね、その相手なんだけど』
「いい、皆まで言うな」
『お父さん……』
「言っただろう、父さんはいつも、お前の味方だ」
『お父さん……!』
「異世界で培ったものだ、辛く困難な道だろう。周りからの風当たりも強いだろうし、文化の違いだってある、それでも、一緒になりたいんだろ?」
『お父さん……!!』
「父さんは、お前が幸せならそれでいい」
『お父さん……!!!』
「たとえ、相手が女の子だとしてもッ!」
『お父さん……⁉︎』
「命がけの旅を共にしたんだ、そこに生まれる感情に、性別なんて些細なことだ」
『あの、お父さん?』
「相手がそこらの男だったなら父さんも考えるが、そう言うことなら文句はない」
『いや、だから違くて』
「共に魔王を倒すまでに至ったテレサくんなら、父さんも安心だ」
『いや、お父さん、私の話を』
「なに、母さんなら心配するな。母さんの出身もこの時代ではない、きっと理解してくれる」
『聞いてって、今すごいこと言わなかった⁉︎』
「うん?言ってなかったか。母さんは戦国時代くらいの人間だぞ」
『聞いたことないわよッ!何でその時代の人がわたしのお母さんになつてるの⁉︎』
「その昔色々あってな。そこら辺については今度にしよう」
『そんな簡単に流していい話じゃない気がする…』
『って違う!お父さん、私が結婚したいのはテレサじゃないの!』
「なん、だと…っ!彼女以外に誰がいるんだ?」
『アルトよッ!私を助けてくれた医者!』
「……なに?」
『その、助けてもらった時に色々話をしてね、村の怪我人を見捨てられないからって残ってるって聞いて、すごい人だなって思って』
「……」
『私のこともずっと診てくれてて、寝ずに看病してくれてね』
「………」
『それでね、仲良くなって、彼から気持ちを伝えてくれて、私嬉しくて』
「…………」
『だから、お父さん。私、アルトと幸せになりたい』
「………その人にはお前の命を救ってもらった」
『!』
「志も立派だと思う。魔獣が頻繁に出る街で患者のために残り続ける勇気は称賛に値する」
『お父さん!』
「だがダメだっ!」
『えっ……』
「可愛い娘をそんなだことも知らない男に渡してたまるかッ!俺はまだその男の顔も見ていないのだぞッ!」
『それは患者さんを置いていけないからよッ!』
「そんな田舎の病院なんぞ安定した生活も送れんぞ!」
『魔王討伐の賞金でそこは心配しなくていいの!』
「いやだいやだ、絶対に娘はやらんぞッ!」
『もう、お父さんッ!』
「ええい、はなせ!第一、そんな何処の馬の骨とも知らん奴にお前をやれるかッ!」
『異世界の馬の骨よッ!』
もし娘がいたら子離れできない自信がある。