9何もない金もなけりゃ力もない
「神よ、私たちに恵みの水を…浄化!」
エマは樽に入った濁った水を魔法で浄化した。その水を汲み、コップに水を入れた物をカイとひよりの前に置いた。
ひよりとカイはお揃いの服を着ている。
ワイシャツと黒色の膝丈ズボン。エマ達のお母さんが魔力を込めて作った服らしく、丈夫で汚れても水で流せば綺麗になる有難い服だ。
お風呂から上がり、3人はひよりが介抱してもらった最初の部屋にいる。この部屋はエマ達の家で、この建物には他の聖職者も住んでいると言う。お風呂とトイレは共同で、キッチンだけ各部屋に備え付けられてるとの事。
聖職者たる者、決して贅沢なんてしませんよと、部屋をみてわかる。
3人はキッチンの前にある、四角いテーブルを囲んで座っている。
「クロちゃんは、何か思い出した?」
エマがひよりに問う。
「いえ、何も…」
ひよりは首を横に振って答えた。
神様に転生してもらった事を話そうと思ったが伝説の神様云々の話がくるだろう、そしたら、非常に面倒臭い事になると思い、隠す事にした。
「そう。」
エマはコップに口を付け一口飲むと、
「じゃぁ、まず、私達の自己紹介から。さっきサクッと紹介したけど、もう一度。
私の名前は、エマ。17歳。聖女。聖職者の女性の意味ね。あと3年で立派に神官になる予定…だったんだけど、街みたでしょ?魔物が暴れてしまって神官の試練が滞ってなれるかどうか…。で、これが弟のカイ。10歳。クロちゃんと同じ位かな〜。この子も聖職者になる予定だったんだけど、同じくこの有様でーー」
エマが話しをしているが、ひよりには途中から聞こえなくなる。
ちょっとまて、カイが10歳だとぉぅ?2歳サバ読んだ!私に8歳ってさっき風呂で言ってたよね?!子供の年齢で8も10も同じだが、そこ嘘をつくか?
ひよりはカイを睨む。
カイは何もなかった様にコップの水を飲んでいる。
くっ…こいつ、腹黒だ!あ!もしかして、私、また殺されかける?!くぅ〜腹黒めぇ。ひよりはコップをギュッと握った。
エマは左腕の袖をまくり見せはじめた。
腕には蛇の様な文字がビッシリ書かれて虹色に光っていた。
途中の話を聞いてなかった、ひよりは少し驚く。
「とーちゃんが、自分の魔力をねーちゃんに注いだんだ。全部を受け取るのは無理だったけど…あと、そのせいで、ここから、教会から離れられない。」
カイがそういうと、俯く。
「何度もいうんだけど、魔物に大神官の力を渡す訳にはいかないの。教会にいれば地下にある濃厚な聖なる泉の力で魔物は入って来れない。」
エマがそういうと、ひよりの手をとる。
「ここから歩いて5日位で着くミルノアと言う街があるの。ここ、ミルミアと同じ位の大きさの街よ。同じく聖職者がいるわ。2人で行って、助けを求めてきて欲しいの。」
エマの手に熱が籠り、ひよりに伝わる。
「子供2人だけで行かせるのは忍びないんだけど、カイ1人だと心細くて…お願い。助けて。」
エマの目から涙が溢れる。
きゅうん。ひよりの胸が締め付けられる。
涙ながらに美人に頼まれては断れない。
「エマさん…わかりました。助けを呼んできます。」
ひよりがエマの手を握り返し答えた。
「クロちゃん、ありがとう。」
涙を流しながら満面の笑顔になるエマ。
それを半目でみてるカイ。
そうして、ひよりとカイの初めてのお使いの幕が上がるーーーー