8エマ様
「っうわぁ…。」
ひよりの体が暖かい光に包まれる。とても心地よい。エマが本日2回目の回復魔法を掛けた。
ひよりはカイに高い高所から落とされたので、怪我をした。エマがさっきよりも、しっかり魔法で治してくれたので直ぐに体が動く。
「エマさん。ありがとうございます。」
ひよりは自由になった体を動かしながらお礼を言う。
エマは笑顔で答える。
「いいのよ。……クロちゃんに酷いことをして、ごめんなさいね…。」
エマは深刻な顔をした。
「エマさんが悪い訳じゃないです。」
そう、悪いのはカイ。多分、さっきから言ってた伝説の神様云々を再現か何かしようとしたんだ。失敗に終わったけどね。そもそも、私はただの人。これだから信仰深い奴って嫌。前世も今世も変わらないのか…
ひよりはそう思いながらエマの深刻そうな顔をみて胸がきゅうっと苦しくなる。
すると、風であのキョーレツな臭いニオイが体中に貼りつく。
「あ、あの、それよりも、早くここから去りませんか?臭すぎます。」
臭すぎて、鼻奥がツンとして、涙が出てきそうになる。エマも臭いニオイを嗅いだらしく頷いた。
「そ、そうね。…あ、その前に、」
エマが浄化の魔法をひよりが下敷きにしていた鶏顔の、カイが顔を潰してしまって顔の原型無いんだけど。その生き物にかける。
すると、先程の糞転がしと同様、生き物の残骸は消えた。その生き物がいたところに、キラキラ輝く物が残る。
エマはポケットから袋をとりだし、そのキラキラ輝く物を詰めていく。
「エマさん、それは?」
ひよりは聞く。
「ふふふ、金よ。」
エマがにこやかに言った。
きん?金。。。金!!
ひよりの目は金に釘付けになった。
さっきの糞転がしには無かった様な…
「エマさん、さっきの糞転がしには無かったですよね?!何で鶏頭には金が?!」
ひよりはエマに食い気味に聞く。
「え、ええ。魔物って結構持ってるのよ。金とか。悪さする魔物を退治したらいてるの。ふふふ。」
エマは少し驚いた感じだったが笑顔で答えてくれた。
そのエマの顔が神々しくひよりにはうつった。
魔物を退治すれば、金がもらえる。金が…金!聖なる泉も糞転がしの落とした岩で栓されちゃったし、これはいいかもしれない。
ひよりがお金儲けを考え始めた時、カイの声が聞こえる。
「ねーちゃん、この臭い岩、全然魔法効かなーい。」
カイが泉の確認をしつつ、魔法で何とかしようとしたがどうやら駄目だったらしい。
エマがため息をつき、カイとひよりに向かって話した。
「とりあえず、お風呂に入ってこの臭いを落としましょう。込み入った話はその後ね。」
聖なる泉にすっぽりハマった丸い岩をそのままにし、3人はお風呂場へ向かった。
お風呂は薄暗い地下にあった。
全て石で出来ていて、真ん中にお湯が湧き出ている。その天井には穴が空いていて外の光を取り入れていた。若干、その穴からあの臭いも入ってきてる感じもするが、温泉の独特のニオイと混じってあまり気にならなかった。
「私、先に行くわね。」
お風呂用の薄い衣を羽織ったエマが先に行った。お風呂に入る時は、薄い衣を羽織って入るらしい。
わお。エマさんは、美人の上、お胸もあってナイスバディだわ。ひよりはエマの体を横目で見つつ薄い衣に着替える。
カイもそそくさと着替えお風呂に行こうとする。
「待った。」
ひよりはカイの肩を掴んで止める。
ひよりは、カイに言いたいことがあった。
どうしても、直ぐに言いたかった。
「カイくん、私を突き落としたわよね。」
ひよりはカイを上から見下ろす形で聞く。
カイの肩が一瞬ピクリとする。
落とした自覚はあるのね…そうひよりは確信する。
「私が言いたいこと、わかる?」
ひよりがそういうと、カイは口を開く。
「俺は…皆を助けたかったから…伝説の神様みたいにクロが落ちてきたから…」
カイは俯きながら言った。
ひよりが短いため息をつく。
「それで?私をあんな高い所から突き落とした訳?私、死にそうになったのよ。他に言うことないの?」
ひよりは上からカイを見下ろす。
「う。ごめん、なさぃ。」
カイの小さい声の謝罪の声が聞こえた。
謝罪が渋々だなぁ。こいつ、またやりそう。じと目でひよりはカイを見下ろす。
「カイくんは、歳はいくつ?」
「…8歳。」
カイの声が小さい。
何で歳なんか聞くんだ、早くこの場から去りたい、私から逃げたいと思っている顔つきをしている。
逃すか!まだ私は言い足りないんだ!カイの肩を掴んでいる手を緩めない。
「8歳なのに、やって良い事も悪い事もわからないのね。カイくんは、エマさんに迷惑もかけちゃってるのよ。わからない?今のエマさんはカイくんの保護者なの。お父さん、お母さんの代わりなの。カイくんが、悪い事をしたら、エマさんが代わりに謝らなきゃならないの。伝説の神様云々、いえ、神様を信仰する前にちゃんと人一人一人見なさいよ!」
カイの肩を掴んでいるひよりの手が熱くなる。
「え、ひ、人、一人一人?」
「そうよ。神様を信仰する前に、自分以外の人をちゃんと見なさいって言ってるの。そしたら、自ずと馬鹿な行動…私を突き落としたり、しなくなるから。ちゃんと1人の人になりなさいよ。」
ひよりの手がカイから外れる。
カイがひよりの目を真っ直ぐみる。
「クロ、クロは何歳?」
オレンジ色の目が少し潤んでいる。
「10歳よ。」
多分ね。中途半端に転生したから歳なんてわからない。ここはカイより年上に言っておこうと思った。
「そうなんだ…。ねーちゃんに、迷惑かけてたんだな…。クロを突き落として、ごめんなさい。今まで、神様が絶対だって思ってた。俺も、10歳になったらクロみたいに自分の考えを持てる1人の人になれるかな…」
「なれるわよ。」
まだ生まれて8年。自分の考えなんて歳を重ねるに連れて持てるわよ。まっ、何が正しいなんて正直、私もわからないけど、これで殺されかけないで済む!ひよりは確信した。
「お風呂入ろ」
言いたい事を言えて、スッキリしたひよりがカイの背中を軽く叩く。
「うん。」
カイは笑顔でひよりについていった。