6二重人格者
「でぇ...」
ひよりの間の抜けた声。
”ひよりちゃん、人は見た目じゃないのよ。優しそうな人でも、無害そうな人でも、直ぐついてっちゃダメ。いい人ばかりじゃないんだから”
前世のお母さんの声が脳裏に響く。
「ああ、お母さん...」
本日、2回目の落下。アイツに復讐もまだしてないのに。また死ぬのか。また、ちび・・・と思い掛けて、やめた。
「チビ...鼻垂れ小僧、カピカピ野郎!クソ坊主!クソ信者がぁぁぁぁ!!」
ひよりは無我夢中で叫びながら落ちていった。たとえ、相手に届いてても気にしない。
「ドゥワァアーーーーー!!」
真ん前の泉の向こう側から何かが叫びながら高速球で飛んできた。
それは、落下中のひよりの真下ギリギリを通過し、ひよりが落とされた建物へ突っ込んで、跳ね返される。
ドーン
ひよりと何かが一緒に泉のほうへ吹っ飛ぶ。
ズベベベベベベベベベベベ
すざましい音と共にひよりとその何かが泉の淵辺りに滑りながら転がり落ちた。
「...うっくっ...」
ひよりの呻き声。
運良く先ほどの何かがクッションになってくれたので打撲程度で済んだようだ。運が悪かったら複雑骨折か、死んでいた。
ジュウウウウウウ....
何かが焼けて焦げるにおいがする。ひよりは体中の痛みを我慢して起き上がる。クッションになっていたものがひよりの下にあった。
頭には大きく赤い鶏冠がついていて、口端は黄色...鶏の顔で背中には黒い硬そうな羽が生えていて、体は人っぽい。筋骨隆々で今まで生きた中で見た事の無い、ひよりの倍はある大きさの生き物がそこに居た。
その生き物の足が泉に浸かって、そこだけ焦げていた。
魔物は近寄れない。そうエマさんが言っていたのを思い出す。
生暖かい風が吹き、ひよりの体をかすめる。体がゾクリとする。
「あーあ、ねぇーちゃんまだ倒してなかったのか。伝説通りにしたかったのになぁ。」
残念そうな、カイの声が上空から聞こえる。
生暖かい風に乗って、ふわりふわりひよりの所へ落ちてくる。
「ざーんねん。」
カイはそう言って、鶏頭を両手に掴み
くしゃぁ
握り潰した。
赤い血が飛び散り、ひよりとカイの顔につく。
「さっき、ぼくの事、色々言ってたね。」
ニコリとカイが笑顔で言ってきた。
・・・・・
ひよりは恐怖のあまりカイを見れない。
「あああ!!!カイぃ!!まあた残虐なやり方して!!」
エマの声が聞こえる。
「あ、ねぇーちゃんだ。」
カイは血のついた顔を袖で拭き、声のする方へ向いた。
「カイ!さっきの見てたわよ!何してるの!」
エマは叫びながらカイの頭をゴツンと殴った。
すぐさま、ひよりに駆け寄る。
「うう。いだいぃ...」
カイは頭を抱えた。
「ごめんなさい、クロちゃん。大丈夫だった?あの子ね、ちょっと人格が歪んじゃう時があって、本当にごめんなさい。」
エマが謝罪しながらひよりの顔をハンカチで拭いた直後、真上から何かが落ちてくる。
ヒューーールルルルルル...
「聖なる守り!」
エマが左手を振りかざし、左手から光を放った、刹那、
ドゥーン
低い音と共に、地面が揺れ、煙が立つ。
しばらくすると煙が消え辺りが見えるようになった。
3人が居た場所にあった聖なる泉が、大きい丸い岩で潰れていた――――