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5手前味噌

 扉を開けると空気が変わるのがわかる。カビくさいツンとした臭いは無くなり、澄んだにおいに変わった。薄暗い廊下を少し歩く。すると、先程までと違い雰囲気がガラリと変わり天井はとても高く、そこには美しい模様が施されたアーチがあり、だだっ広い開放感たっぷりある空間に出た。

更に少し歩くと、中央の端が横目に見える。色彩豊かなステンドグラスが太陽の光を浴びてキラキラ輝いている。その下には、体のラインがわかる薄い布のような衣を纏った髪の長い女性が両手を胸の前で握っていてお祈りをしているような姿の大きい像があった。


「すごい...」

ひよりは前世でこういうのをテレビで見た事はあったが、実際に似たようなものを見るのは初めてだ。圧巻の光景に興奮してい鼓動が早くなる。

「ここは?」

「礼拝堂だよ。お祈りするところ。」

「へぇ、すごい...」

礼拝堂...テレビで見た大聖堂に似ている。とても神秘的だ。

ひよりはその光景を忘れないように必死に目を見張る。

ひよりの横からクスクスと笑い声が聞こえる。

「え?なに?どうしたの?」

ひよりは気付き鼻垂れ小僧のカイに聞く。

「えーだって、口が開いてて間抜けなんだもん。」

鼻垂れ小僧のカイはそんなひよりの姿を見て笑っていたのだ。

恥ずかしくなってひよりは手で口を塞いだ。

「この地下にも聖なる泉が湧き出てるんだよ。でも、すごい濃厚で人でも少し怪我をするんだって。」


聖なる泉と聞いてひよりの耳がピクリと動きニヤける。

なーんだ、あるんじゃないの~怪我をするくらい濃厚な泉なら復讐に持って来いじゃなーい。どんなことをしようか、あんなこと、こんなこと~ふふふ。

ひよりの顔が更にニヤける。

ふと、ひよりのニヤけた顔が止まる。

あ、まって、その前にお金だ。どうやって稼ごう。子供でも稼げる事を考えないと。手っ取り早く、この世界で貴重そうな泉の水を小瓶に入れて売ってみる?魔物が空から攻撃するくらい嫌な聖なる泉。持っててもご利益ありそうじゃない。この下の濃厚な泉なら高く売れそう。濃厚で危険そうなら水で薄めちゃえばいいじゃなぁ~い。

ひよりはニヤけたり、考え込んだり忙しい顔を作る。

そんなひよりを見て鼻垂れ小僧のカイは引いていた。

「あ、ねぇ、こっちだよ。ついてきて。」

ひよりはカイに手を引っ張られる。

金儲けの考えは後にして、言われるままついていく。

礼拝堂の真ん中を突っ切り、反対側の端にある急な階段を上がっていく。

手すりには模様が美しく施されていた。


9階、10階くらいの高さまで上がって、ひよりの足が動かなくなる。

はじめは良かった。手すりの模様をみたり、美しく施されたアーチ、天井の模様を眺めたり、開放感がある景色をみたり興奮した。が、

「んはぁはぁはぁ、ご、ご、めん、つがれた。むりぃ。」

ひよりの息の上がった声で先に進んでいた鼻垂れ小僧のカイが足をとめる。

「え、もお?あと少しなんだけど。」

鼻垂れ小僧のカイはケロッとしている。

あんた化けもんかよ。

「き、ついよぉ。も、う無理ぃ。」

階段にうつ伏せで倒れ込む。動けない。

前世だってこんなに階段を上ったことなんてない。だって、エレベーターがあったから!

前世文明万歳!こんな高さまでノンストップで上った自分を誇らしく思う。転生が中途半端だけど、若くてよかった!

「空から来たわりに、体力無いんだね。」

鼻垂れ小僧のカイは軽い足取りで階段を下りながらひよりに向かってきた。

「ははは」

もう疲れて何も言えない。そもそも、エマさん見に来たのにこんな所に来る必要があるのか問いたいが、息切れしていてこれ以上何も言えない。そんなひよりを尻目にカイは話を続ける。

「俺のにーちゃんと、ねーちゃんは屋根の掃除をする時、この階段を走って上まで行くんだよ。」


化け物兄弟。ひよりは言葉を飲み込んだ。


鼻垂れ小僧のカイがひよりの腰を両手で掴んでヒョイッと無理やり立たせた。

「んヴっ」

急に起こされたので頭が振り回され変な声が出た。頭もクラクラする。ひよりの足元に鼻垂れ小僧のカイがしゃがんでおんぶの姿勢をとった。

「背中に乗って。あとちょっとだから。」

こんなチビに自分を預けていいものかと一瞬考えたが先程の会話と体力など総合的に判断して遠慮なく背負ってもらうことにした。


あとちょっとと言うわりに、かなり上ってきた気がした。目的地に到着し、降ろしてもらう。大きい窓があり、そこを開けるとテラスに出た。


空気が澄んでいて気持ちがいい。そして、とても高い場所。

ひよりは足がすくんだ。クソ玉に落とされてから高所恐怖症になったかもしれない...カイにしがみつく。

本当にここまで来る必要があったのかと、ひよりは思う。

少しこの建物から離れた所に沢山の建物だったらしいものが見える。


「今、俺たちがいる建物を中心に街があるんだ。でも、魔物が暴れて家とか壊しちゃって...街の人も連れて行っちゃって、誰も住んでいないんだ。」

カイは困った顔をして苦笑した。

「え?」

なにそれ。...もしかして、この光景をみせたかった...とか?


「この街にいるのは、この建物に居る、ねーちゃん、俺とクロだけなんだよ。」

ニコッと笑顔でカイは言った。そこ、笑うところじゃないし。私の名前は、ひより、だし。心の中で訂正する。カイの顔をよく見ると鼻水が止まって、鼻の下がカピカピになっていた。

更にカイはニコッと笑顔で、

「こっちは表なんだ。裏にはクロが落ちた泉があるの。多分、ねーちゃんはそこに居る。

・・・こっちだよ。危ないから気をつけてね。」

そう言って、テラスから裏手に回る手すりの無い細い階段が建物に沿って続いていた。

カイが先に行った。

ひよりは下を見た。

下に落ちたら絶対に死ぬ。

ゴクリと唾を飲む。

両手で頬を叩き気合を入れ、意を決して建物にへばり付きながらカイに案内されるままついて行った。


しばらくすると、周りは草木に囲まれた大きい池がみえる。池の水が不自然に減っているのが、池の淵と周りの草木が焼けているので見てわかる。


「これが、聖なる泉?」

ひよりにはただの大きい池にしか見えなかったのでカイに確認する。

「そうだよ。攻撃されて減っちゃったけど、底から湧き出てるからしばらく使わなければ水は溜まるから大丈夫って。ねーちゃんいってた。」

ニッコリ笑顔で言うカイ。カイの鼻の下が、カピカピだったのが綺麗になっていた。


ひよりの胸がざわつく。


カイが何かを言っている。


天ヨリ舞い降りしモノ。

光り闇をワタリて

我ラを導ケ

・・・・


カイの言葉が理解できないまま、


ひよりは、建物から落ちていた------





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