2ツライッす
「落ちる!落ちてるーーー!!」
ひよりは頭から真っ逆さまに落ちている。
光に呑みこまれたと思ったら、雲より高い空にいた。地面がない。
余裕はないので景色など見れない。
ああ、そうだ、これは夢だ!夢よ!
と思って目を閉じても重力に引っ張られる感じがある。其の上、空気が薄いのか、苦しいし、息がちゃんと吸えない。涙も鼻水も、涎もでる。下の事も話すなら、生暖かいものもちょびっとちびり気味。
ぅっくっリアルか!最低!ああ、また死ぬのか!!彼の次は、あのクソ神のせいで!!
と悪態をついた時、全身に電撃が走った。
ツンとカビくさい臭いで目が覚める。
全身が痛い。動けない。
「...?...?!」
あたりがぼやけていたが、次第に視界が開けてくる。そして、目の前に鼻水を垂らした薄いオレンジっぽい髪の毛に、髪の色と同じ目の子供と目があった。
「あ!目ぇさめた!ねーちゃん、目ぇさめた!」
其の子供が仰向けで寝ているひよりの目の前でさけぶ。子供の出した唾と鼻水が吹きかかる。
・・・っきったな
子供が垂らした鼻水と唾を拭こうと手を動かそうとしても体のあちこちが軋んで痛くて動けない。
「っう!」
痛さで呻いてしまう。
「動かないで!そのまま横になってて。」
ひよりに唾と鼻水を掛けた子供の後ろから女性の声が聞こえる。
ひよりの視界に女性の姿が入る。修道服を着ていてベールをしっかりかぶっている。先程の子供と同じ目の色で綺麗な女性だった。其の女性は持っていたハンカチでひよりの顔を拭く。
「ここは、聖なる泉のある教会よ。この建物には魔物は寄り付けないから安心してね。」
そう言って、ひよりの胸元に手をかざし、
「癒しの...光」
彼女が言葉を発すると光がひよりを包み込んだ。
温かくて心地いい・・・其の光はやがてひよりの胸元に集まり消える。
さっきまでの体の痛みが少し消えたが、まだ動けそうにないのはわかる。
ひよりは、まだ夢心地のような、足が地に着いていないようなむず痒い感覚でいた。
あの時、また死んだと思ったのに、生きている・・・良かった。ひよりは助けてくれた彼女と鼻水を垂らしている子供にお礼を言った。
先程、彼女が言っていた、聖なる泉とか、魔物とか何だろう・・・・
「あの、ここは...どこですか...?マモノ...ってなんですか?」
横になったまま、彼女に聞いてみた。
彼女は横にいる鼻水を垂らしている子供と目で合図をして話し出した。
「...ここは、ミルミアという街よ。あなたは、空から降ってきたの。...空を飛べるのは魔物か、風使いのドラゴンくらいなんだけど...あなたは、...人...よね?」
彼女は言いながら、ひよりの頬を指でなぞる。
「もちろん。人です。」
ひよりは即答えた。
でも、彼女は腑に落ちない顔をしている。
「そうよね...。でも、あなた、魔力の開放もしてなかったし、どうやって空にいったの?」
「...えーっと、なんででしょうかねぇ...記憶がなくて...」
ごめんなさい。私も知りたいです。
一度死んで、クソ神にまた命を貰ったら、クソ神のせいでもう一度死に掛けたんです!と言いたいが、修道服を着ている彼女に話していいのだろうか、、、ってか、そもそも、魔力開放とか魔物とか、ゲームっぽいし言っても大丈夫かしら...と悩んでいると、
鼻水を垂らしている子供が、
「ねーちゃん、この子、神様だったりしない?」
ひよりを指して突拍子もない事を口にした。
「こんな子供が?...それは、どーなのかしら...」
彼女は、鼻水を垂らしている子供の言っていることに戸惑っている。
そりゃそーだ。私が神様のはずがないだろう。ひよりは子供の方を睨む。
しかし、彼女は思い出したかのように話す。
「でも、あの伝説の神様のお話なら...」
「そうそう!あのお話だよ!」
『空から神様が降り立って混沌の世界を救ってくれるお話!』
彼女と鼻垂れ小僧がハモる。
「ふっ、...んぬぅ!!!」
ひよりは気合で体を無理やり起こした。
「ちょっとまって!その話わからないから!私は普通の人よ!」
2人の間に割って入って制止する。
2人はひよりをみて驚いてる。
「起きたわ!!人か、魔物かわからなかったからわざと完全に治していなかったのに!普通の人なら起き上がれないのよ!そもそも、電撃食らったにもかかわらず、ここまで回復するなんて、超人的な体力!生命力!神様だわ!ああ、何て事なの!私はエマ、隣のは弟のカイよ。よろしくね。」
エマは、ひよりの手を握った。
こんな自己紹介あり?!
電撃食らったって何?しかも、わざと完全に治してなかったですって?!衝撃の事実!ひよりは何も言えずただ唖然とした。
エマの隣にいる鼻垂れ小僧のカイがエマの袖をちょんちょん引っ張りながら衝撃の事実を話した。
「ねーちゃん!ねーちゃん!やっぱり、この子神様だよ!俺ね空から降ってくるこの子をみたときこわくて魔法で電撃食らわしたって言ったじゃん、でも、その後ね、聖なる泉にこの子落ちたんだ。そしたら、泉が光って、光ってる神様と、この子が出てきて俺に、この娘の名付け親になってくれたら神の御加護を俺にくれるっていうからさ、クロってこの子に名前付けたの!だから神様なんだよ!信じてよ!」
「まあ!そんなことがあったのね!なんで大事な事を言わないの!ああ、神様、私たちに御加護をありがとうございます。未来の希望の種を授けてくださりありがとうございます。」
彼女は涙を流しながら胸に十字を描いて祈り始めてしまった。
「まっって!少年!光る神様って丸かった?いや、まって、クロって名前なに?名付け親って何?私はあんたのペットかよ!そもそも、電撃って私が落ちてる時に全身にビリビリしたあれのことよね?!落ちて死ぬか、ビリビリでこのまま死ぬのかと思ったわよ!空を落ちてる無防備な人に電撃食らわしちゃだめよね!ってか、あれやったの、あんただったのねーーーーー!!」
ひよりはカイの両肩を勢いよく掴み強く揺らす。鼻水が垂れている子供の首がカクカク揺れる。
その時、自分の手が視界に入る。
ひとまわり、ふた周りくらい小さい手。手のひらをグーパーする。自分の体全身を触って確認する。
胸もない。元々無いけどさらに無い!ボロいクリーム色のワンピースの裾から足が見える。靴を履いていないので、足の大きさも、足指も、小さくなっているのを確認した。
「う...そ...か、鏡、鏡ありませんか?!確認したいんです!」
「え、ええ、洗面所にあるけど、ええと、この部屋出て左まっすぐ行くと右手にーー」
エマが言い終わる前にひよりは部屋を出た。
10人が並んで顔を洗える横に長い洗面台に横に長い鏡。その洗面台のへりに両手をつく。
深い深いため息をつく。もう一度自分の姿をみる。
そこには黒髪のおかっぱ頭の10歳前後くらいの女の子が映っていた。
なんでなんで、子供なの。しかも前世の子供の時の私なの!!
「あんの玉ぁぁぁぁぁぁぁなんだこれはぁぁぁぁぁ!!」
両手で髪の毛をぐしゃぐしゃにし、ひよりは叫んでいた。
鏡越しにひよりの後ろに少し背の低いカイが映る。ひよりの肩をポンと軽く叩き、
クロ、大丈夫?と
ひよりを覗き込むように見つめている。
私の名前はクロじゃないんだけど...
ひよりはカイをみる。...一応、私を心配してくれているのか、カイの眉毛が八の字をしているようにみえる。ひよりは、はぁとため息をつき、鏡を背にし、心配してくれているエマとカイをみる。
「私は、ここまで来た記憶が無くて、自分の外見にも驚いてしまって...叫んでしまって、心配させてごめんなさい。それから、私は神様じゃないです。ただの人です。助けていただいた上に、期待させたみたいでごめんなさい。」
ひよりは悪くないと思うが、一応、謝っておく。神様じゃないこともしっかり伝えておく。
微妙な空気が流れる。
ドーン
大きい爆発音と共に建物が揺れる。
「きゃぁあ」
ひよりが足元を崩す。それをエマが抱きかかえる。
3人が爆発音がした方を見る。
建物の外で音がしたようだった。
「またきたのね。
あなた達は部屋で待っていて。外には出ないで。カイ、この娘をお願いね。」
そう言ってひよりをカイに託し、エマが爆発のした方へ走っていってしまった。
「なんなの、あの音」
「クロ、大丈夫だから、俺とここに居て。ねーちゃんが何とかするから。」
相変わらず鼻水を垂らしているカイがひよりの手をとる。
「私は、ひより!クロじゃないって。何度言ったらわかるのよ」
ひよりがカイの手を振り解く。
また爆発音が3、4発鳴る。その度に建物が揺れ、足元もふらつく。
「うっきゃぁ!」
「クロ、あぶっうわっ」
カイの言葉が終わる前に、爆発音と共に建物が一段と揺れ、足元がもつれ2人とも倒れてしまった。
ひよりが起きるとカイがひよりの下敷きになってくれたので怪我は無かった。ひよりの下敷きになったカイは目を開けない。息はしている。脈もある。死んではいないようだ。ひよりが確認し安堵した時、
洗面台の鏡が眩しく光り、ひよりは光に呑みこまれたーーー