1ごめんなさい
「ご臨終です」
「・・・え、私死んだの?!」
暗闇の中、目を覚ます。一人の女。
「鈴木ひより30歳。既婚者。夫の暴力により死亡。」
「!!私の個人情報言わないでよ!誰よ、あんた!出てきなさい!ってか、私は死んでない!こうして生きてるでしょ!!」
誰も居ない暗闇の中、ひよりの発した言葉が響く。
ポゥ
ひよりの目の前に光った球体が現れた。
「火の・・・玉・・・?」
ひよりはその玉に手を触れようと手を触れようと手を伸ばす。が、玉はひよりの手を交わし頭上をフヨフヨ動き出した。
「気安く触ろうとしないで下さい。」
「ひ、火の玉がしゃべった!!」
「ははは、なんですか火の玉って。火の玉じゃないですよ。わたしは輪廻、転生の神様です。神様って呼んでくださいね☆」
そう言うと玉は、ひよりの顔の前で止まった。
「かみ、さま、、、」
ひよりは信じられないという顔をしている。
「はい!では、ひよりさん、これから転生してもらいますね☆」
「嫌です。」
「・・・はい?」
玉が小刻みに揺れる。
「転生は嫌です。あれでしょ?最近巷で流行ってる転生って。」
「んー・・・、
前世の記憶は消すので流行ってるものと同じかはわかりませんが、別の自分になれるんですよ素敵ですよね☆」
「素敵じゃないです。そもそも私は本当に死んだんですか?」
「そこ疑いますか?!ひよりさんは死んでるんですよ!!」
玉がそう言うと、ひよりの目の前に大きい映像を映し出した。
そこにはひよりが時計を見てあわてている姿が映し出されていた。
「私・・・?」
ひよりは玉をみて聞く。
「そうです。ひよりさんの死ぬ前の出来事です。ちゃんと見ててくださいね!」
玉に言われ、ひよりは映像に目を戻す。
ひよりは、大学時代から付き合っていた7歳上の彼と結婚し、子供は居ないが幸せに暮らしてきた。
彼はいつもはとても穏やかでいい人なのだが、一度怒らせるとネチネチ理詰めで追い詰めてくる。
謝っても彼の気分が良くならないとずっと怒っている。怒っていても、ひよりには手は上げなかった。
「大変!遅くなっちゃった。」
腕時計を見ながらひよりはあわてて職場をでていた。
いつもは帰る時、彼に電話をするのだが慌てていた為、忘れてしまいそのまま帰宅した。
家に帰ると、連絡をしなかった為に彼に殴られた。
いつもは言葉で攻めるのに今回は初めて殴られた。
呆然とするひより。そんなひよりに彼は叫ぶ。
「あれほど言ったよな?帰宅するとき絶対連絡しろと!約束してるよな?!連絡しろって!」
そしてもう一発ひよりの左頬を殴る。
「約束なんで破るんだよ!ありえないんだけど!いつもそうだよな、俺が風呂入るとき下着は出てない、服も出てない。朝のお茶もでない。他にもあるよ。前に注意したことを繰り返す。何度言っても直らない。同じことを繰り返すのはわざとしか思えない・・・。」
「連絡しないで帰ってきて、ごめんなさい。」
ひよりは左頬を押さえながら謝る。
「仕事してるからって威張るなよ!俺より稼げてねぇじゃん。」
「・・・・約束やぶってごめんなさい。」
「お前は俺を裏切ってるんだよ!」
彼はひよりに叫ぶ。
「・・・まってよ、じゃあ、あの人はだれよ?」
ひよりがおそるおそる彼の横に居る女の人を差す。
「今はそんなの関係ないだろ!!裏切り者!」
彼が吠えながら、ひよりの左頬を思いっきり殴った。ひよりは体制を崩し、倒れた。
そのまま、ひよりは起き上がることはなかった。
映像が切り替わる。ひよりのお葬式の風景と祭壇が映る。彼が喪主をしていた。
また映像が切り替わり、火葬場で骨となったひよりを、号泣しながら彼がお骨上げ用の箸で骨を骨壷に入れていた。
映像が止まる。
「火葬されちゃって肉体がないんですよねー。」
ひよりの顔の横でフヨフヨ動きながら玉は言う。
「生き返ることができない、といいたいんですね。」
「そうですぅ。察しがいいですね☆」
ひよりは深いため息をついた。
「はぁ。察しがいいって言うか、私が転生したくないって言っていたし、生き返らせてと言いそうだから、ここまで見せたんでしょ。」
「そうでーす☆肉体がないので、生き返るのはあきらめて転生してくださいね☆」
「なら、転生先でも彼に復讐ができるようにして。」
ひよりは玉に向かって言った。
「彼に、死ぬまで復讐、嫌がらせをしたいの。さっきみてて、他の思い出したのが色々と走馬灯のように過ぎったのよ。私が死んで、彼が楽しんで生きている姿を想像すると、腹が立つの。腸が煮えくり返るわ!」
ひよりは玉の前で強く拳を作る。
「今までの自分が報われるまで・・・いえ、彼が死ぬまで私の手で復讐をしたいの。恨みと憎しみで汚いのはわかっているけど、どうしても譲れない。」
「うーん、困りましたねぇ。転生先で前世の記憶は持ち込んじゃ駄目だし、転生先で前世に復讐なんてもちろんしちゃ駄目なんですよぉ。」
「なら、このまま彼のところに連れて行って。怨霊として復讐するから。」
「ええええ!!だめですだめ!絶対だめ!困りますぅ!」
玉は焦りながらひよりの周りをクルクル高速で回り始めた。
どのくらい時間が経ったのだろう。結構時間が経っていると思う。結局折れたのは玉だった。
玉が深い深----い溜息をついた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。わかりました。どーなっても知りませんよ。彼より先に死ぬかも知れないですよ。いいんですね?」
玉はひよりに念をおした。
「いいわよ。どーんとこいよ!彼に復讐できるなら、なにがあっても大丈夫よ!」
「・・・・わかりました。わたしもひよりさんにばかり構ってられないのでね。さっさと転生させて、次の仕事に行かないと☆」
玉がそう言うと、ひよりの前で眩しく光り、其の光にひよりが呑み込まれた――