〇俺と幼なじみと友人二人と
日曜日。四人でのショッピング当日。
俺は集合場所のデパートの中央広場のベンチに座っていた。
休日なだけあって、かなり人が多い。
辺りを見回すと、ベンチに座ってアイスを食べている子供、楽しく会話を弾ませているご老人方、いかにもアオハルしているようなうちの制服のカップルなど、かなり年齢層が広い。
このデパートのモットーとして、老若男女に愛されるを、目指しているだけあって流石の賑わいだ。
時刻は10時丁度。約束の時間まであと三十分。
咲也とありか、愛奏という双方にとって交流のない人間を引き合わせたのが俺なだけあって、気を張ってしまってかなり早く着いてしまった。
まあ、早いに越したことはないんだけどな。
「ん……あれは……」
俺の方へと手を振っている人物。
あの薄い茶髪がかった地毛の青年は……。
咲也だった。
「おはよう時雨。早いね」
いつもは制服の咲也も今日は、ニットセーターにロング丈のTシャツ、アンクルパンツという組み合わせの、いかにも春の爽やかな男子という風格が出ている。
「ちょっと緊張してな。てか、今日はありがとな、来てくれて」
「時雨の願いならおやすい御用!」
少し微笑みながらの咲也からの返答。
「おう。感謝する」
咲也もずっと立ってはいられないので俺の隣に座る。
そして残りの女子二人を待つ。
「やっぱり優しいね時雨は」
突如、褒め言葉が飛んでくる。
「どうしてそう思ったんだ?」
「また助けようとしてる?」
「え?」
「僕の予想だけど、猫屋敷さん……だよね」
「……ぁぁ」
これ以上誤魔化そうとしても無駄だと思った。
やはり咲也には悟られる。
何事においても咲也に隠し通せた試しがない。大抵、それは困り事だったり厄介事だったりと。
やはり今回も駄目だったか。
「そうか。こりゃ一本取られたな」
「深追いはしないよ。でも僕を頼りたい時はいつでも頼ってね。必ず協力するから」
「感謝するよ。そんでたまには俺にも頼れよな」
「うん。ありがとう」
本当に咲也に出会えて良かった。
あの時、愛奏のことで落ちこんでいた俺を……。
愛奏? 愛奏かあれ?
咲也が来た方向とは反対側の道から愛奏が歩いてきている。
「あれ猫屋敷さんじゃない?」
「おお、そうだな」
ん……? 誰かと話してる?
愛奏はおそらく俺達に気付いたのだろう。その誰かの手を掴み、こちらへと向かってくる。
「おはよ時雨! ねね! めちゃくちゃ気の合う子見つけた! 確かこの子も同じクラスだったよね?」
愛奏と一緒にいた人物は鍔付き帽子、それにボーイッシュな服を着た女子。
「おい愛奏。そいつ、ありかだぞ」
帆波ありかだった。
「へ?」
そうなるわな。まあこれは仕方ないのか。
ありかの私服は基本的にボーイッシュなもの。
なんでも親御さんの影響だとか。
ちなみにありかはネイビーの鍔付き帽子に白のTシャツにスラックスパンツ、そしてオーバージャケットを着こなしている。
制服を着ている時に見たりはしていても、私服を見たことがないのであれば気付かないのは無理もないだろう。
鍔付き帽子で顔が見にくいし、何よりも雰囲気が違いすぎる。
ありかはやけにボーイッシュ系の服装が似合うんだよな。
逆に愛奏の服装はというと、レースガウンにデニムスカートの組み合わせという、いかにも春と相性の良さそうなコーデだ。
てかいつ買ったんだろう。海外で? それともマンションの近くに服屋があるのだろうか。
「ごめんね猫屋敷さん。勘違いして普通に話してた」
「こっちこそごめんね!? 帆波さんってわからなくて。でもお話は楽しかったよ私!」
「それを言うなら、私も話してて楽しかった……ていうか……」
と、ありかのまんざらでもない態度。
ありかがデレてるのは珍しいな。愛奏のやつオカルト話にでも興味あったのか? まあ楽しかったのならよかった。
どうやら、この二人に話を聞くと、ありかが先に愛奏を見つけて、こちらをしっかりと認識していると勘違いをして話をしていたらしい。
とりあえず、ありかのことはもう紹介する必要はなくなったので、次は咲也を紹介する。
「愛奏、こっちが咲也な」
「水上くんね! よろしくね」
「うん。こちらこそ」
シンプルな会話だったが何か惹かれるようなものだった。
すげえ。美男美女やな。なんかいつまでも見てられそうだ。てか、通行人がやたらとこちらの集まりに目を向けてくるのはそういうことだろう。
「とりあえず自己紹介も終わったし、予定よりはちょっと早いけど映画館行くか?」
「そうだね。二人もそれでいいかな?」
「うん! 行こ行こ!」
「私も賛成」
俺達は中央広場を後にして、映画館へと足を運ぶ。
愛奏が先陣を切り、楽しげに歩いている。
俺は鍔付き帽子を深く被り直していたありかの隣に並ぶ。
「今日はありがとな」
と俺は囁く。
「いいよ。猫屋敷さんとは上手くやっていけそうだし、今回のホラー映画見たかったしね。でもあの約束は忘れてないよね?」
「おう。いくらでも聞くよ。前言ってた足跡の件、気になるし」
今回俺はこの日、ありかが来てくれるのを条件に、オカルト話しの相手になるという約束をしていた。
俺もオカルトには多少興味がありまして。
今回咲也は無償で引き受けてくれたが、近いうちに何かお礼を考えておくか。
しばらく歩き、映画館に到着した。
腕時計で時刻を見ると、十時十七分。フードショップでポップコーンやドリンクを買ってシアター室に入れば、宣伝の動画が流れているいい時間になるだろう。
映画は宣伝の動画から見る主義でしてね。
映画本編だけを見ると何か全て見きれなかったような感覚なるというかなんというか。
各々が、手にフードやドリンクを持ち、ホラー映画が上映される二番スクリーンへと入る。
おおー。予想通り宣伝の動画が上映されている。
「僕、映画は宣伝の動画から見るタイプなんだよねー」
お、同士がいた。
「「私も」」
全員同士かっ!
「ちなみに、俺も」
四人の意外な共通点が判明して、笑い合う。
「みんな、同じなんだね」
ちっぽけな事だったけど、この四人の距離が縮まった気がした。
まあ、この後の映画で笑顔が恐怖に変わるのが少し怖いが。
俺達の席は最後列の真ん中辺り。
席順は左から咲也、俺、愛奏、ありかの順だった。
数分、宣伝の動画を鑑賞していると、ついに本編が始まった……。
……ここで一つ問題が起きた。
俺はこの映画の重要な要素を一つ見逃していた。
この映画は4Dだということを。
いやこっわ! まってヤバいヤバい。
映画の主人公が錆びれた家に入るとシアター室中に冷たい風が発生した。
4D機能はそれだけに留まらず、幽霊が主人公を攻撃するとそれに伴って椅子が揺れる。
これは高校生でもトラウマになるレベル。
他の三人に目をやる。
咲也はこの仕掛けをまるで遊園地のアトラクションかのように笑顔で楽しんでいる。
なんて適応力!
ありかといえば、流石、生粋のオカルトマニアと言うべきなのか、食い入るようにモニターを凝視している。
愛奏はというと……。
泣きそうな顔で俺の方を見てくる。いや、もう泣いてる。
おそらく、俺と同じで4D機能のことを見落としていたんだろう。
「ふぉーでぃーは……ぐすん……聞いてない……ょ」
突如、愛奏は左にある俺の右腕に抱きついてきた。おっと?
「ふぁッ……!?」
ちょ、え? まじか!
愛奏の豊満なアレが俺の右腕に当たる。
コイツ、いつの間にこんな成長して……。
前々から、大きい方だとは思っていたが、触れてみて初めてボリュームを実感する。おっと、あくまでも触れたのは右腕の部分だけどね。
だが、右腕でもわかる。立派な半球型だ。
普通なら素直に嬉しいのだが、こんな泣きっ面な状況なのはな。でもまあ、ありがとうございますとだけは言っておこう。
「急にくっついてごめんね。でもちょっとこのままで居させて……怖いから……」
「お、おーけー……」
これは素直に受け入れる他ないよな。うん。
この後も、こんなことが何回も続いた。
頑張れ愛奏! そして頑張れ俺の理性!
色んな意味で、最恐のホラー映画の上映が終わり、俺と愛奏は我先にとシアター室を後にする。何とかお互い耐えきったが……。
「「フォーディーコワイ。フォーディーコワイ」」
映画自体は、最後主人公とヒロインは幽霊の魔の手から脱出出来てハッピーエンドでストーリー自体も良かった。だがな、4D、テメーはダメだ。
少し経ってから、咲也とありかがシアター室から、映画の感想を言い合いながら出てきた。
他の視聴者も怖かったねーとは言っているものの、皆笑顔だ。本当に怖がってるのは俺達だけかなのか?
ん? 一人だけいるな。
「ん……あれ、うちの制服か」
大勢が笑顔の中、ポツンと一人だけ泣いて、映画館を後にしているうちの学校の制服を来た女子がいた。可哀想に。あの子も俺達と同じだったのか……。まあ予想の域を出ないが。
咲也とありかがこちらに気づき、近づいてくる。
「いやー。それにしてもフォーディーの演出良かったね」
「うん。特にあの幽霊の吐息の表現とかイメージ通りにちょっと冷たくてリアルだったし」
「あー。わかるわかる。二人はどうだった?」
「「当分ホラー映画は見ない! 特に4Dは!」」
嘘のように言葉が被った。
「え? 4D嫌いだったの? ちゃんと言ってくれれば普通のにしたのに」
「み、見落としてました……」
「そういうことね」
やれやれとありかが首を振る。
「その様子を見るに時雨だけじゃなくて猫屋敷さんもだよね?」
「ぅ……うん」
愛奏は身を丸くする。
この雰囲気を見通してか、よし! と言って、咲也が何かの決断をしたようだ。そして二人の間に入り提案してくれる。
「ここらで昼食にしようよ!」
「お。いいね!」
愛奏が賛同してくれた。
ここで俺からも提案を加える。
「このデパートで飯食うなら最近できた格安イタリアンの店とかどうだ? 映画でちょっと食べたし、イタリアンならいい感じの量だろ」
「賛成。私的に格安ってところがね」
まあ格安イタリアン店ってあんまし聞かないし珍しいから行ってみたいと言うよりは、ありかは格安ってとこに食いついてきたのだろう。流石、節約家という所か。
ちなみに節約家になったのも親の影響らしい。
「じゃあ行こうか」
そうして、俺達は映画館を後にし、格安イタリアン店へと軽快に歩みを進める。
ん……?
一瞬だが、後方から視線を感じたような……。
それは決して、年端もいかない子供が何気なく周りを見る時の視線でも、左右に並ぶ店の店員の、商品を買ってくれという希求の眼差しでもないと直感した。
あの視線は何か悪意のあるような嫌な感じだった。
四人の中で一番後ろにいた俺はその前にいた愛奏の肩に軽く触れて早く行くように促した。
「なんか久しぶりだな。愛奏と飯って。給食以来か」
「だね!」
俺は一抹の不安を覚えながらも、笑顔を見せた。
すんません。
動いていきますとか言ったけどあんり動けてないですね。
申し訳ない!
そして、この物語の本質的な部分には今の時点では全くと言っていいほど触れられていません。(プロローグくらいでしか……)
あともう少しで触れていけますのでどうか。
それについての伏線を貼ってたりしますので見つけてみてください。
次回でまた。