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今日も言霊が飛び交うこの世界で。  作者: 袋小路 ちぇしゃ
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〇過去とデパートの約束を

 

  あの衝撃のホームルームを終えた後の授業は普段通りに変わらず進んでいく。強いて変わったと言えば、少し黒板が見えずらくなったことくらい。別に気にする程でもないが。

 もうすぐ四時間目の授業が終わる。

 四時間目の終わりのチャイムが鳴り、俺が号令をかける(クラス委員長なので)と、すかさずクラスメイトの郡勢が愛奏の元へと駆け寄ってくる。

 うわ、圧がすごいな。

 後ろの席の俺まで気圧される。てか、俺には誰も愛奏のこと聞かないのな。

 あくまでも狙いはあの美少女一択か。そりゃそうか。わかってても俺のガラスのメンタルにはちょっとキツイな……。


 ねね、とホームルーム前のあの時のように後ろから肩をポンポンされる。

 やっぱ持つべきものは咲也だぁ!

 気持ちを切り替え、友達の大切さを噛み締めながら後ろを振り向く。

 すると、咲也は囁くように言ってくる。


「もしかして、あの子が例の?」

「おお。そうそう!」


 嬉々とした俺の思いが少し言葉に零れる。

 質問されるってこんなにも嬉しいのか。


「とりあえずよかったね。戻ってきてくれて」

「ああ。咲也、何回も言うようだがあの時はありがとな。咲也がいたから今の俺があるようなもんだ」

「ありがと。でも、ちゃんとやってこれたのは時雨自身の頑張りがあってのものってことも忘れないでね」

「おお。ありがとな」


 今度は涙が零れそうになる。

 おっと。こんな所で泣いたらヤバイ奴だ。

 切り替えて飯だ飯!


「あー、やっぱりあーなったか」


 予想通り愛奏は一緒に昼食をと、お誘いを受けている。まあ、こんな時にお誘いをもぎ取るのは愛奏と同じ女子なわけで……。


 そして愛奏は席を立つと同時に俺の方を向き、ごめんと小声で囁き、俺もそれに応じるために左手を軽く上に挙げる。

 愛奏は軽く頷き、大人数の女子と共に教室から姿を消した。


「やっぱり猫屋敷さん取られちゃっね。時雨」

「まあ仕方なしだな。それより俺達も飯だな」

「そうだね。今日僕は弁当だけど時雨は?」

「ああ、俺もだ」


 俺達は互いの机を合わせて弁当を取り出す。

 すると、眠そうな声が俺達の耳に入る。


「一緒にいい?」


 声の方に目をやると、まだ朝の寝癖が治りきっていなかった俺達の友達、ありかの姿。ちょっと隈あんな。サイトの情報がそんなに熱中するほどのものだったのだろうか。

 とりあえず断る理由もないので俺と咲也はありかに了解の意を表す。


「ほなみんが自分から昼食誘うって珍しいね。やっぱり猫屋敷さんのことで時雨に質問とかあるのかな?」


 基本的に昼食はいつも俺達から誘ってるからな。


「まあ、そんな感じ」


 ここにもいたぞ! 俺に聞いてくれる友達がッ!

 ありがたやありがたや。


「時雨に幼なじみなんて以外だったよ。しかもあんなに可愛い子。いつ頃まで日本にいたの?」


 ありかは愛奏のことを過大評価するが、ありかもそれに並ぶ程のレベルだと思うんだがな。

 普段は大勢に自分自身を見せない性格だからあまり気付かれていないだけだ。

 だが、だからといって言葉には表さない。

 ラブコメの鈍感系主人公でもあるまいしな。

 咲也もおそらくそう思っているだろう。


「小学校卒業までだな。四年ぶりの再開で普通に感動してる」

「なるほどね。咲也は知ってたの?」

「うん。いるってことは知ってたよ」


 その後も俺らはあれやこれやと昼食中の雑談を楽しんだ。

 当然だが愛奏についての違和感は話さなかった。

 咲也もありかも昔の愛奏を知らないからな。


 その後の午後の授業も滞りなく進んでいき、放課後になる。

 数分経つとクラスメイトは部活やら委員会やらで教室に残ったのは俺と愛奏、日直の生徒だけ。

 あの二人はと言うと、咲也はテニス部に所属しているので部活へ、ありかはこの前のサイトの情報を徹底的に調べるとか自分のオカルトマニアのための自分のブログを更新するとか言って帰宅した。

 てかあいつサイト漁るだけじゃなくてブログまでやってるんだよな。どんだけファナティックなんだよ。


 まあそれは置いといて今は愛奏との会話が最優先だ。

 日直の生徒は仕事を終了させ、帰っていったのを見計らって愛奏が口を開く。


「よし。とりあえず改めてだけど久しぶり。時雨。それと……本当にあの時はごめんね。黙って行っちゃって……」


 猫屋敷家が海外へ飛び立つのを知ったのは日本を出た後だった。それを知らせてくれたのはたった一通の置き手紙だけだった。

 手紙を見た日、あの日は、あまり泣いたことの無い俺が初めて号泣した日でもあった。

 胸が苦しかった、小学校を卒業して春休みを越えればもう中学生だというのに声が掠れて、出なくなるほど喚き散らした。

 当たり前にそばにいた存在、これからも一緒だと思っていた存在。そんな子が何も言わず、異国へと行ってしまった。ただ一時的に海外にいるだけ、それでもあの頃の俺は辛かった。何故か愛奏がもう、一生帰ってこないとまで感じていた。

 そのくらい衝撃的で、悲劇的だった。


 でも今は違う。


「おう。とりあえず日本に戻ってこれたってことは親父さんの海外での仕事終わったってことか?」


 面と向かって話せる場所にいる。

 昔より今。今、目の前に愛奏がいる。それだけで過去の俺は救われてる。今の俺だって。


「ううん。お父さんはまだ海外で仕事してるよ。お父さん転勤先の社長さんに気に入られたらしくて暫くは戻らないと思う……。私に気を使ってくれたのかな? お父さん、私だけでも日本にって」

「そうなのか……。じゃあ愛奏はこれからどうやって生活していくんだ?」

「一人暮らしだね。今は学校と距離近めのマンションに住んでるよ」

「でもお金事情のことはどうすんだ?」

「それは大丈夫。お父さんが海外転勤の期間を延長する代わりにある程度の生活費は受け持ってくれるらしいんだよね。でも凄い罪悪感ていうか、なんか申し訳なくて……」

「なるほどな……。とりあえずさ、そのことは忘れろとは言わないけどあんまり気にしないでおこうぜ」


 俺は愛奏の親父さんの、単純だけれど一番大切な意図を理解する。


「え……?」

「それを考えてばっかじゃ、それが足枷になるだろ? 親父さんは愛奏に中学を日本で過ごさせてあげられなかったことを気にしてると思う。だから心の底から高校生活はちゃんと日本で楽しんでもらいたいんじゃないか?」


 誰だって母国の学校で青春を謳歌したいのではないだろうか。

 その青春は高校からでも遅くはないと思う。


「愛奏が学校を一番に楽しむのが親父さんのためにもなると思う。……すまんな。俺なんかが他の家族の事に口挟んで」

「ううん。そんなことないよ。ありがと。うん。そうだよね……!そ、そう……する」

「おう」


 愛奏の受け答えにら少したどたどしい印象を受けたが、愛奏は何かを思ついたように元気を取り戻した。


「時雨! あのさ、明日の日曜日空いてる?」

「空いてるけどなんでだ?」

「生活用品揃えたくてさ。久しぶりに日本のデパート行きたいし。あと映画とかご飯とかさ!」

「なるほど。それでその日は二人で行くのか? 二人ほど誘いたい奴らがいるんだが」


 愛奏の顔が微細にだが、強ばっているような気がした。

 この反応。やはり、愛奏は海外であれにあったのか……?

 俺が愛奏に感じた疑問の正体。

 なら、尚更紹介した方が良い。


 あの二人は絶対に信頼出来る仲間ということを愛奏に必死にに伝える。


「絶対紹介したいんだ。俺の絶対信用出来る友達だ。アイツらになら俺は命綱だって任せられる」


 少々安直だったかもしれないが伝わったか……?


「時雨がそこまで言うなら……。まあ、それも楽しく充実した学校生活を送る一つのポイントだからね」


 納得してくれたようだ。後であの二人には電話で何としてでも許可を得るしかないな。 


 俺はおうとだけ答えた。

 それからショッピングの集合場所や時間を決め、咲也やありかのことを話した。

 時間は刻々と過ぎていく。

 あまり長い時間、学校に居座りすぎてもあれなので、そろそろ下校しようという話になった。


 帰路。


「ねね時雨。連絡先交換してなかったよね」

「そういやそうだな」


 あの頃小学生で、携帯は持ってなかったからな。


「ちょっとスマホ貸して。私が交換するよ。とりあえず電話番号とRIENだけでいい?」

「そうだな。ありがとな」


 スマホを渡す際、少し手が触れ合う。

 華奢で綺麗な形、それでいてサラサラな肌。

 今、そんな手が自分の手と触れている。

 ちっぽけな事だけれど、愛奏の成長を感じられる良い機会だった。


「登録完了っと! はい!」


 愛奏がスマホを差し出してくる。

 また手と手が重なる。

 なんかいいな。いかにも青春してるって感じがあって。


「ありがとな」


 連絡先の交換も終わったので話を切り替える。

 俺は愛奏に自己紹介の時に感じ取った違和感、いや、今も感じている違和感について、今歩道の端の塀に登ってバランスをとっている本人に質してみることにした。

 それにしても、塀に登るだけでも華があるな。

 風になびく長髪がなめらかに揺れている。

 うっかり見とれて質問することを忘れてしまいそうになる。

 いや忘れる訳にはいかないな。


「なあ愛奏、最近困ってることないか?」


 瞬間、今まで笑顔を保っていた愛奏の顔がピクリと動いた。


「ううん、ないよ。なんで?」

「いや、久しぶりの日本でなんか困ったことないかなって思ってな」


 見苦しい言い訳だが、今これ以上問い質すのはやめた方がいいだろう。


 あれにあっていたことはわかった。


「私、こっちだから。また明日デパートでね!」

「おう」


 どうやらここで行く道が違うようだ。

 前までは一緒だったのにな……。

 切なさを覚えながら俺は愛奏の背中を見送った。

ホントは次も続けて書くつもりだったけど長くなりすぎるので区切りました。


配分ってムズいね。


次回で。

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