〇プロローグ ヤツは……
夜闇の中、満月の光が町の大きな街灯替わりになっていた時刻。
俺はその存在を認識した。
「――あれはッ!!」
「――やっぱり……」
そして向こうも俺達の存在を認識する。
瞬間、身体が訴える。
逃げろ、と。
唐突だが、――言霊――って存在すると思うか?
言霊ってのは人の発言した――言葉――に内在する力だ。
人間はすべての生物の中でも唯一、言葉を扱う存在。
俺たちは日常、例えば学校や会社などで当たり前のように人と会話をし、コミュニケーションを図る。
逆に言えば、俺達は日々の生活で無意識に言霊を生み出しているのかもしれない。
そして、人の強い感情に引き寄せられ言霊は奇怪な力を宿す。
言葉に。
ありゃ物体だ。お化けでも幽霊でもない。やはりあの人の言う通りか……。
現に言霊の歩いた場所は地面が凹む。それに足音だって聞こえる。
もう、なにがなんだかわからなくなる。
今起こっているこの状況、これは紛れもない現実なのか。夢なら覚めてくれと思い、その一心で、もう何度目を擦ったかわからない。だが目覚めない。現実だ。
信じてた筈だろ……俺。ヤツはいるって。
言霊は俺の赤くなった瞼より赤い。
ずっと見ていれば、沈んでしまいそうになるような深い赤。
当然、人間が酷く擦った瞼程度では、その赤に近くづくことは出来ない。
それもそのはずだ。
言霊は、元々赤いのだから。
「ありゃ、三メートルくらいあるぞ……」
その巨体は三メートルの縦幅と同じくして横幅も人のそれではない。
「時雨……逃げてよ……」
「お前も一緒にな!!」
「わ、私は――」
「いいから逃げるぞ!」
やっぱりいた。ソイツは。
俺達は脱兎のごとく逃げ出した。
初投稿です。
矛盾など、その他の失敗は多めに見てやってください。
今回はプロローグなので短めの文量です。
では次回でまた。