9
「あたしの名前を忘れるなんてひどいわね。五年も潜伏して、仲間のふりをしてたってのに!」
言うが早いが、麗美は私から離れ、ナイフを構えてユウに襲いかかる。
ユウは相変わらず他人事のように、首を傾げていた。
「は? いや全く知らんわ。結社にいる時はずっとユウでいたから、あんたとは会ってないのかも。でもま、いいよ」
ユウは俊敏な猫のように、さっとソファから立ち上がった。
「どうせあんたも殺すんだし」
うわあああ! と絶叫しながら麗美がユウの頬をナイフで切りつける。ユウはそれをかわすと、ガラ空きになった麗美の腹に一発パンチを見舞った。
「がっ」
「う、いってー! やっぱ久々に殴ると痛いねー」
不敵な笑みを浮かべると、ユウは麗美の手からナイフをはたき落とし、部屋の隅へと蹴飛ばした。不意を突かれ戸惑う麗美に構わず、ユウは彼女の頬を力一杯殴った。
「がはっ……」
倒れこんだ麗美に馬乗りになると、ユウは続けた。
「こいつは殺人にナイフしか使えないって思って、油断した? ユウだけが、私の中の攻撃的なキャラだとでも思った? そんなわけないでしょ。臆病者のユウなんかと比べないでよ。私の方が、もっとずっと強いんだから」
「な……がっ……」
「私の名前はアヤセ。あんたがどれだけ同族を嫌悪してるか知らないけど、あんたみたいな卑怯者と、勝手に一緒にしないでよね」
最後に軽く手刀で伸すと、麗美は完全に動かなくなった。