8
「は、」
夜中、ふと目を覚ますと、隣にミレがいなかった。
「あれ」
おかしいな、と私は思う。
シングルだったけれど広めのベッドだったので、私とミレの、二人で眠っていたはずなのに。
胸騒ぎを感じて、ベッドを抜け出す。
リビングの方へ行くと、ソファで眠っているユウの枕元に、黒い人影が音もなく立っていた。
「ミレ?」
声をかけると、人影はひらっと振り返って、ため息をついた。
「なぁんだ、もう起きちゃったんだ。あんたの外見だけは気に入ってたから、眠ってる間に殺したげようと思ってたのに」
「え、」
次の瞬間、私の喉はミレの手に押さえつけられ、壁に背中を叩きつけられていた。
「な、んで、ミレ……?」
「あたしはミレじゃない。麗美だよ。あたしはね、どうしてもこの体を乗っ取りたいの。あたし一人のものに、あたしだけのものにしたいのよ……」
喉を強く締められ、ぐっと息がつまる。
「だって当然でしょ? 本来人の人格は、肉体一つにつき一個だけだもの。こんな五人も六人もあたしの中にいられたら、はっきり言ってキモい。迷惑なのよ。だから、あたしは……あんたたちみたいに中に何人もいるくせに平気で生きてる人間を見てると、どうしようもなく殺したくなるの」
部屋に差し込む月明かりで、麗美の手の中に、キラリと光るものが見えた。それは、小型のナイフのようだった。
「やめて……」
「うちのボスからこの馬鹿げた秘密結社のことを教えられた時は、心底嬉しかったわ。天命だと思った。あたしは、MPDの奴らを皆殺しにするために生まれてきたんだってね!」
ナイフがこちらに向かってくる気配を感じ、私は諦めて目を瞑った。
「なにやってんのー? こんな夜中に」
その声に、恐る恐る目を開ける。ナイフは喉元で止まっていた。
見るとユウが起き上がって、眠たそうに頭を掻きながら、「えっと、あんた、誰だっけ」と言っていた。